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■ウィリアム・モリスとその時代 アーツ・アンド・クラフツ展 (8月31日まで) 釧路への旅(13)

2008年08月15日 19時08分09秒 | 展覧会の紹介-工芸、クラフト
 海外から絵画を運んできて開かれる展覧会は数多く開かれているが、デザインとなるとあまり機会がない。
 今回は、近代デザインの祖といわれるウィリアム・モリスの壁紙などを多数含むコレクションの公開で、遠方まで見に行った甲斐があったと思う。ロンドンまで足を運べば見ることができるという人もいるかもしれないが、実際のところ、観光旅行の際にテイトモダンや大英博物館を訪れることがあっても、モリスの関係施設にまで行く人は、それほど多くないのではないだろうか。
 その意味では、道内にこれほどたくさんの、西洋デザイン史の逸品がやってきた意義は小さくないと思う。

 膨大な版を重ねた「クレイ」など、身近な植物をモティーフに複雑な模様をくりかえして編み出した壁紙を見ていると、思い出すのは、たとえば岩波文庫の装丁である。余白をつくらず、植物のからみあう蔓や葉で空間をうめつくすが、繰り返しがどこから生じているのかは一目では判別できにくい。
 シンプルな意匠が好まれる現代からみると、モリスのどこらへんが「近代の親分」なのか、素人の筆者には判断のしかねるところがある。かなり空間恐怖的であるが、といって神経症的ではない。まあ、あんまり理詰めに考えず、女性が店頭で瞬間的に洋服の良し悪しを判断するように、見ればいいのかもしれない。

 ただ、筆者は、この展覧会で、どうしても許せない展示物があったので、詳しい人のご教示をあおぎたいと思う。

 それは、盟友バーン=ジョーンズが挿し絵を担当し、モリスが版を切って、自身の出版社ケルムスコット・プレスから出した「ジェフリー・チョーサー著作集」である。

 モリスが晩年、美しい本づくりに執念を燃やしたことはよく知られており、講演などが「理想の書物」(ちくま学芸文庫)などにまとめられている。
 この展覧会に展示されているチョーサー著作集は、上記の本などでモリスがなんども繰り返している原則を裏切って額装されているとしか、筆者には見えない。
 それは、書物の各ページの余白である。
 モリスは、文字の印刷されている周囲を、壁紙のような紋様で埋めつくしており、これはあまり現代では見られないページのデザインだが、文字の印刷されている範囲についても厳密な美意識を持っていた。手っ取り早くいうと、左のページと右のページは対称的でなくてはならないのだ。
 今回額装されているものを見ると、左側と右側のページの、活字が印刷されている範囲は、同じである。つまり、これは、ページの見開きを額装しているのではなく、左側も右側も、左側のページとしか思えない。
 これを額装したのは、会場の釧路芸術館ではなく、英米の担当者なのだろうが、モリスの本に対するこだわりを、あまりにもわかってないのではないか。

(以下の段落、事実誤認がありそうなので、削除します。2013年10月14日)

 もう一点。
 モリスの専門家らしき英国人が図録に文章を寄せているが、「社会主義」と「マルクス主義」の区別もついていないようで、正直、この人の知的水準についてあやぶんでしまう。
 モリスは講演のなかで、「資本論」を読むのに苦労したことを正直に告白している。彼は筋金入りの社会主義者であるが、マルクスについて述べたことはほとんどないと思う。だいたい、英国には社会主義の強い伝統はあるが、マルクス主義の影響は、日本などにくらべるとはるかに薄いのではないか。



08年6月21日(土)-8月31日(日)9:30-17:00(入場-16:30)
道立釧路芸術館(釧路市幸町4)




 以上で、エンエンとつづいてきた釧路の旅日記は終わります。
 長いことおつきあいいただきありがとうございました。

 これから、釧路の野外彫刻を紹介するエントリが続きます。


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