札幌時計台ギャラリーは、来週も再来週も展覧会が行われるが、高校生以下の展示なので、プロの画家の登場は今週が最後になる。そして、事実上のアンカーが、佐藤武さんである。
佐藤さんは若いころ、同ギャラリーのオーナー荒巻義雄さんとインドを旅し、その際の体験が、後の画風に大きな影響を与えている。そのことは、作品を見れば一目瞭然である。札幌時計台ギャラリーの最終走者として、これほどふさわしい人はいないだろう。
佐藤さんは1947年千歳生まれ。
油絵も版画も独学というから驚く。
団体公募展には属さず、67年以来、各地で述べ87回の個展を開いている。
2階の全3室を使い、初期の1970年ごろから近作までの絵画を展示している。
一部デッサンもあるが、版画は3カ月ほど前にギャラリー山の手で個展を開いたので、今回はない。
正確には、A室に近作を並べ、B室は1980~90年代が中心。廊下を挟んで、C室には1970年代の小品が展示されている。
個人的には、C室の作品ははじめて見たので、興味深かった。
初期作品のおもしろさというのは、画家のルーツがどこにあるのかを知る楽しさともいえるかもしれない。
たとえば79年の「時計のある室内」。
古風な掛け時計のある部屋に、赤と白の格子模様の布が掛けられたたんすが置かれ、布の上にはタロットカードとその箱が置かれている。時計の左側の壁には「BOSCH THE GARDEN OF DELIGHTS」と付記されたポスターが貼られているのだ。
もっとも、いまの佐藤さんの絵には、ボッスのような風刺性はあまり感じられない。
80年「冬の日」は、灰色の空を大きくとった縦構図の風景画。
下部には雪原が広がるが、右下に手前から奥へと連なる電線と鉄塔の列が描かれ、はるか遠くには赤と白の大きな煙突が3本立っている。火力発電所か工場か。
どこかドイツロマン派的な雰囲気は、近年の作品にも通奏低音のように流れ込んでいるのかもしれない。
もうひとつ、非常に感服、脱帽したことがある。
84年の「五月の陰翳」など、尖塔や城壁が崩壊する瞬間を精緻かつ静かな筆致で描いた作品は、悪いものではないが、透視図法がやや生硬というか、いかにも透視図法を使って描いていますよ、という感じがぬぐえない。
それが、最近の「旅の終わり」シリーズなどを見ると、透視図法を強調した構図は後退し、はるかな荒野に長い城壁や石造りの廃墟が点在するような、自然な風景描写になっている。自然な、といっても、草ひとつはえず、人っ子ひとりいない荒野の描写は、超現実主義的な光景であるが。
最近作「旅の終わり(雪降る頃)」2枚のカンバスからなる大作。
以前空を音もなく横切っていたオベリスクに代わり、直線が中空に走る。
地上には雪は降っていない。きわめてリアルな描写だが、荒涼とした光景は非現実的でもある。いや、似た風景は、インドにあるのだろう。
インド体験が数十年の時を経て佐藤さんの内部で熟成し、現実とも架空ともつかない、空間も時間も超越した不思議なはるばるとした光景を、現出させているのかもしれない。
2016年12月5日(月)~12月10日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
□ http://tsart1113.wixsite.com/tsart1113
関連ファイルへのリンク
■佐藤武銅版画展 55年の軌跡 (2016年9月)
■佐藤武展 (2014、画像なし)
■佐藤武展 時空の果て (2013、画像なし)
【告知】佐藤武小品展 (2013年7月1~30日、石狩・厚田)
【告知】佐藤武展-暮れゆく大地ー (2011、札幌)
■見えるもの⇔見えないもの-イマジネーションのちから-(2009)
■佐藤武展 25年の軌跡(2007)
■佐藤武展(2005)
■佐藤武銅版画展(2004、画像なし)
■佐藤武展(2003、画像なし)
佐藤さんは若いころ、同ギャラリーのオーナー荒巻義雄さんとインドを旅し、その際の体験が、後の画風に大きな影響を与えている。そのことは、作品を見れば一目瞭然である。札幌時計台ギャラリーの最終走者として、これほどふさわしい人はいないだろう。
佐藤さんは1947年千歳生まれ。
油絵も版画も独学というから驚く。
団体公募展には属さず、67年以来、各地で述べ87回の個展を開いている。
2階の全3室を使い、初期の1970年ごろから近作までの絵画を展示している。
一部デッサンもあるが、版画は3カ月ほど前にギャラリー山の手で個展を開いたので、今回はない。
正確には、A室に近作を並べ、B室は1980~90年代が中心。廊下を挟んで、C室には1970年代の小品が展示されている。
個人的には、C室の作品ははじめて見たので、興味深かった。
初期作品のおもしろさというのは、画家のルーツがどこにあるのかを知る楽しさともいえるかもしれない。
たとえば79年の「時計のある室内」。
古風な掛け時計のある部屋に、赤と白の格子模様の布が掛けられたたんすが置かれ、布の上にはタロットカードとその箱が置かれている。時計の左側の壁には「BOSCH THE GARDEN OF DELIGHTS」と付記されたポスターが貼られているのだ。
もっとも、いまの佐藤さんの絵には、ボッスのような風刺性はあまり感じられない。
80年「冬の日」は、灰色の空を大きくとった縦構図の風景画。
下部には雪原が広がるが、右下に手前から奥へと連なる電線と鉄塔の列が描かれ、はるか遠くには赤と白の大きな煙突が3本立っている。火力発電所か工場か。
どこかドイツロマン派的な雰囲気は、近年の作品にも通奏低音のように流れ込んでいるのかもしれない。
もうひとつ、非常に感服、脱帽したことがある。
84年の「五月の陰翳」など、尖塔や城壁が崩壊する瞬間を精緻かつ静かな筆致で描いた作品は、悪いものではないが、透視図法がやや生硬というか、いかにも透視図法を使って描いていますよ、という感じがぬぐえない。
それが、最近の「旅の終わり」シリーズなどを見ると、透視図法を強調した構図は後退し、はるかな荒野に長い城壁や石造りの廃墟が点在するような、自然な風景描写になっている。自然な、といっても、草ひとつはえず、人っ子ひとりいない荒野の描写は、超現実主義的な光景であるが。
最近作「旅の終わり(雪降る頃)」2枚のカンバスからなる大作。
以前空を音もなく横切っていたオベリスクに代わり、直線が中空に走る。
地上には雪は降っていない。きわめてリアルな描写だが、荒涼とした光景は非現実的でもある。いや、似た風景は、インドにあるのだろう。
インド体験が数十年の時を経て佐藤さんの内部で熟成し、現実とも架空ともつかない、空間も時間も超越した不思議なはるばるとした光景を、現出させているのかもしれない。
2016年12月5日(月)~12月10日(土)午前10時~午後6時(最終日~午後5時)
札幌時計台ギャラリー(中央区北1西3)
□ http://tsart1113.wixsite.com/tsart1113
関連ファイルへのリンク
■佐藤武銅版画展 55年の軌跡 (2016年9月)
■佐藤武展 (2014、画像なし)
■佐藤武展 時空の果て (2013、画像なし)
【告知】佐藤武小品展 (2013年7月1~30日、石狩・厚田)
【告知】佐藤武展-暮れゆく大地ー (2011、札幌)
■見えるもの⇔見えないもの-イマジネーションのちから-(2009)
■佐藤武展 25年の軌跡(2007)
■佐藤武展(2005)
■佐藤武銅版画展(2004、画像なし)
■佐藤武展(2003、画像なし)