会場への道順については「由仁芸術実験農場への道のり」という記事で詳しく書いたが、肝心の展示の中身について、まったく触れていなかった。
大井敏恭さんが空知管内由仁町郊外に建設中のアトリエで、大井さんと、末次弘明さん、林亨さんの絵画を展示しているのである。
3人は北翔大で教壇に立つ画家であるとともに、21世紀初頭の道内の美術グループ展でも異彩を放っていた「絵画の場合」展のメンバーでもあった。
ちなみに、キュレーションを担当している塚崎美歩さんも「絵画の場合」に深くかかわっていた。
2004~12年に断続的に開催された「絵画の場合」展を簡略にまとめることはなかなかむずかしいが、あえて大まかに言ってしまえば、インスタレーションや映像など拡張を続ける現代美術シーンの中で、それでも絵画を選択し、なおかつそのことについて議論する―というグループであったと総括できそうに思う。
この背景には、2001年の横浜トリエンナーレで、タブローの絵画を出品しているのが2人ぐらいしかいなかったという潮流があった。90年代以降、絵画は、現代美術の最先端から後景に退いていたとみなされていたのだ。
しかしその後、絵画は(筆者の印象では「なしくずし的に」)復活している。近年、現代美術でスター的扱いをされている会田誠、奈良美智、村上隆、草間彌生は、いずれも絵画を制作している。先ごろ開かれていた札幌芸術の森美術館の高橋コレクション展にしても、アートフェス札幌にしても、もし10年余り前の開催だったら、あそこまで絵画の比率が高くなかったであろうことは容易に推察できる。
したがって大井さんら3人は、ピクシブ的なフィールドから出てきた絵師ではないし、といって団体公募展ふうの「再現的」な絵画を描くわけでもない。20世紀半ば以降、もっぱら現実の再現ではない方向から絵画制作を進めてきた人たちの系譜に位置づけることが最も適していると思う。
なぜ、わざわざこんなことを書いているかというと、大井さんには、このアトリエを、いろいろな分野の人が集まる発信の場にしたいという思いがあり、前庭に立体を設置したいと希望している作家のことなどを話してくれるのだが、それはあくまで、活動の場の話であり、作品それ自体が、ある種のわかりやすいメッセージを発しているわけではないことを、あらためて言っておきたいからだ。
こんな二分法は不毛だけれど、3人ともに、作品の中身はけっして「社会派」ではなくて、あくまで「造形重視」であり、作品が結果として社会との結びつきを強めていけば良い-ということなんだと思う。
大井さんの絵画は、外的な世界をそのまま反映するのではなく、わたし(たち)の脳のスクリーンにうつるイメージの明滅の反映というほうに、ますますシフトしているように感じられる。「認知科学」としての絵画とでもいえそうだ。
林さんの「心をうかべて」シリーズ。アクリル、F100が2点。
暗い色が覆う中、明るい黄の絵の具の小さな塊が画面に点在する。
画面全体が奥行き感の現出を拒否している中で、その点在だけが、透視図法的ではない奥行き感を醸し出しているように思える。
と、同時に、絵画の表面性、物質性を強調する役割をも果たしているようだ。
末次さんは、純粋な抽象画でありながらどこか、北海道の風土を反映するような作品が多かった。九州生まれの画家にとって、北海道の地理や気候は、新鮮な驚きを与えるものだったためかもしれない。
今回は「babylon」と題する、アクリル・油彩のF120が2点。
右は、黒い中に、絵の具をぶつけたような痕跡がかすかに見える。
左は、暗い青一色である。
札幌のギャラリーで、北海道の風土を感じさせる作品を発表した後で、道内の自然の中にある会場では、大都市(=バビロン)の暗さを示唆するような絵を展示する。
この末次さんのスタンスは、興味深いと思う。
表面だけを見れば、ロスコやイブ・クライン、バーネット・ニューマンといったばりばりの戦後抽象画なのだが、それを単になぞっているわけではあるまい。
2013年11月3日(日)~30日(土)の土日祝日、午前11時~午後6時
由仁実験芸術農場(東光149)
※連絡すれば、火水木金曜も観覧できます
参考:北海道新聞ホームページのイベント紹介欄
http://www.hokkaido-np.co.jp/cont/eventdata/217051.php
関連記事へのリンク
【告知】絵画の場合2012 -最終章-
=3氏とも出品
■SAG INTRODUCTION(2009)
■絵画の場合(2007年1月)
■絵画の場合(2005年)
=以上、大井氏と林氏が出品
■林亨展(2004年)
■林亨展(2002年)
■林亨展(2000年)
■末次弘明のまとめ展 (2012年)
・JR室蘭線「由仁」駅、中央バスと夕鉄バス「由仁駅前」から約1.5キロ、徒歩15~18分程度
・中央バス「由仁町役場」から約1キロ、徒歩13分
大井敏恭さんが空知管内由仁町郊外に建設中のアトリエで、大井さんと、末次弘明さん、林亨さんの絵画を展示しているのである。
3人は北翔大で教壇に立つ画家であるとともに、21世紀初頭の道内の美術グループ展でも異彩を放っていた「絵画の場合」展のメンバーでもあった。
ちなみに、キュレーションを担当している塚崎美歩さんも「絵画の場合」に深くかかわっていた。
2004~12年に断続的に開催された「絵画の場合」展を簡略にまとめることはなかなかむずかしいが、あえて大まかに言ってしまえば、インスタレーションや映像など拡張を続ける現代美術シーンの中で、それでも絵画を選択し、なおかつそのことについて議論する―というグループであったと総括できそうに思う。
この背景には、2001年の横浜トリエンナーレで、タブローの絵画を出品しているのが2人ぐらいしかいなかったという潮流があった。90年代以降、絵画は、現代美術の最先端から後景に退いていたとみなされていたのだ。
しかしその後、絵画は(筆者の印象では「なしくずし的に」)復活している。近年、現代美術でスター的扱いをされている会田誠、奈良美智、村上隆、草間彌生は、いずれも絵画を制作している。先ごろ開かれていた札幌芸術の森美術館の高橋コレクション展にしても、アートフェス札幌にしても、もし10年余り前の開催だったら、あそこまで絵画の比率が高くなかったであろうことは容易に推察できる。
したがって大井さんら3人は、ピクシブ的なフィールドから出てきた絵師ではないし、といって団体公募展ふうの「再現的」な絵画を描くわけでもない。20世紀半ば以降、もっぱら現実の再現ではない方向から絵画制作を進めてきた人たちの系譜に位置づけることが最も適していると思う。
なぜ、わざわざこんなことを書いているかというと、大井さんには、このアトリエを、いろいろな分野の人が集まる発信の場にしたいという思いがあり、前庭に立体を設置したいと希望している作家のことなどを話してくれるのだが、それはあくまで、活動の場の話であり、作品それ自体が、ある種のわかりやすいメッセージを発しているわけではないことを、あらためて言っておきたいからだ。
こんな二分法は不毛だけれど、3人ともに、作品の中身はけっして「社会派」ではなくて、あくまで「造形重視」であり、作品が結果として社会との結びつきを強めていけば良い-ということなんだと思う。
大井さんの絵画は、外的な世界をそのまま反映するのではなく、わたし(たち)の脳のスクリーンにうつるイメージの明滅の反映というほうに、ますますシフトしているように感じられる。「認知科学」としての絵画とでもいえそうだ。
林さんの「心をうかべて」シリーズ。アクリル、F100が2点。
暗い色が覆う中、明るい黄の絵の具の小さな塊が画面に点在する。
画面全体が奥行き感の現出を拒否している中で、その点在だけが、透視図法的ではない奥行き感を醸し出しているように思える。
と、同時に、絵画の表面性、物質性を強調する役割をも果たしているようだ。
末次さんは、純粋な抽象画でありながらどこか、北海道の風土を反映するような作品が多かった。九州生まれの画家にとって、北海道の地理や気候は、新鮮な驚きを与えるものだったためかもしれない。
今回は「babylon」と題する、アクリル・油彩のF120が2点。
右は、黒い中に、絵の具をぶつけたような痕跡がかすかに見える。
左は、暗い青一色である。
札幌のギャラリーで、北海道の風土を感じさせる作品を発表した後で、道内の自然の中にある会場では、大都市(=バビロン)の暗さを示唆するような絵を展示する。
この末次さんのスタンスは、興味深いと思う。
表面だけを見れば、ロスコやイブ・クライン、バーネット・ニューマンといったばりばりの戦後抽象画なのだが、それを単になぞっているわけではあるまい。
2013年11月3日(日)~30日(土)の土日祝日、午前11時~午後6時
由仁実験芸術農場(東光149)
※連絡すれば、火水木金曜も観覧できます
参考:北海道新聞ホームページのイベント紹介欄
http://www.hokkaido-np.co.jp/cont/eventdata/217051.php
関連記事へのリンク
【告知】絵画の場合2012 -最終章-
=3氏とも出品
■SAG INTRODUCTION(2009)
■絵画の場合(2007年1月)
■絵画の場合(2005年)
=以上、大井氏と林氏が出品
■林亨展(2004年)
■林亨展(2002年)
■林亨展(2000年)
■末次弘明のまとめ展 (2012年)
・JR室蘭線「由仁」駅、中央バスと夕鉄バス「由仁駅前」から約1.5キロ、徒歩15~18分程度
・中央バス「由仁町役場」から約1キロ、徒歩13分
丁寧な取材をしていただき感謝いたします。
こんど、真意といいますか、絵の狙いをお聞きしたいと思います。