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■小樽画壇の礎 平沢貞通展 (2017年10月28日~18年3月4日、小樽)

2017年12月25日 22時26分24秒 | 展覧会の紹介-絵画、版画、イラスト
承前

 12月24日の1カ所目は、開館直後の市立小樽美術館
 ふだんは中村善策の所蔵品の油絵が常設(ただし半年ごとぐらいにテーマを決めて掛け替えている)されている1階の中村善策記念ホールでは、「小樽画壇の礎 平沢貞通展/三浦鮮治と小樽洋画研究所の仲間たち」という展覧会が開かれていて、善策の絵は6点だけでした。
 ほかに、船樹忠三郎5点、三浦3点などです。

 ところで、平沢貞通というと、まずは「帝銀事件」が思い浮かびます。
 1948年、東京の帝国銀行椎名町支店で毒を飲まされた行員ら12人が死亡した事件です。
 敗戦直後は謎めいた事件がいろいろ起きましたが、これも不審な点の多い事件で、小樽署に逮捕された平沢は一時は犯行を自供したものの、公判中は一貫して無罪を訴えました。55年に最高裁で死刑が確定。87年に獄死するまで、死刑は執行されませんでした。
 画家が毒物に詳しいはずもありません。冤罪えんざいではないかと考える人も多く、何度も再審請求が出されてきました。

 今世紀に入り、「帝銀事件の」という枕ことばを外し、画家・平沢貞通を再評価しようという動きが出てきています。
 今回の展示も、彼が小樽画壇の黎明期に欠かせない存在であったことを、壁に貼られたテキストでくわしく解説していました。

 それにより、あらためて彼の生涯と画業をたどってみます。
 生まれは1892年(明治35年)、東京の麴町区大手町。憲兵で、先に北海道に渡っていた父親を追って97年に札幌に移り住みます。
 創成高等小学校を成績優秀のため3年で卒業し、07年に北海道庁立札幌中学(現札幌南高)に入学。09年に庁立小樽中学(現小樽潮陵高)に移ります。
 中学在学中から水彩画に夢中となり、繰り返し上京して日本水彩画会研究所で学びますが、先輩の「(旧制)中学は出ておいた方が」ということばに従い、復学するなどしたため、一般的には5年で卒業する旧制中学に計7年通いました。
 1913年、小樽中関係者でつくる「白潮会」の第1回展に出品。また、日本水彩画会(日水)の結成に参画し、翌14年には日本水彩画会小樽支部をつくって、戦前の北海道美術界で活躍する兼平英示や加藤悦郎らの指導にあたります。さらにこの年には第1回の二科展にも入選しています。

 つまり、彼は20歳前後からバリバリ活躍していたわけで、道内の画家でも相当に目立つ存在だったのではないでしょうか。
 1917年に上京し、横山大観から「大暲」という号をもらい弟子になるまでの8年間、小樽の美術界の下地をつくった人ということは間違いないようです。日水の支部には、ヴィーナスとアグリッパの石膏像がデッサン用にありましたが、三浦鮮治に託していったそうです。
 その後も、26年と27年には丸井今井小樽店で個展を開催。45年には胆振管内豊浦町礼文の藤原農場に疎開するなど、北海道との深い関係があったのです。
 ちなみに、逮捕される前、最後に取り組んでいたのは「地平清明」という作品で、手稲前田の風景だということです。

 しかし、その美術史的な意味はよくわかったのですが、実際の作品を見てもナットクできないのは、今回も同様でした。
 逮捕を受けて、多くの作品が廃棄されたり、名前のところが削られて行方不明になったりしたため、現存する作品が少ないという事情があることは理解できるのですが…。

 「札幌の田舎」「真駒内風景」などは良い絵だとは思いますが、北海道美術史に残る傑作かといわれると、言葉に詰まります。
 いちばん作品らしい作品は、日本画「網子のとき」(1940)でしょう。砂浜で魚網をしたくする人物を描いています。
 

 それにしても、大観は、平沢の逮捕後、「そんなのは弟子にしたこともないし、知らない」などと記者に言ったそうで、平沢の運命を考えると、悲しいものがあります。
 悲運の画家の、有無を言わせぬ傑作が、どこかで発見されないものかと思います。

 ことしは平沢歿後30年、小樽移住110年にあたるそうです。


2017年10月28日(土)~18年3月4日(日)午前9時半~午後5時(入場は30分前)、月曜(1月8日と2月12日除く)、11月7、24日、1月9、10日、2月13、14日休み、年末年始(12月26日~1月3日)も休み
市立小樽美術館(色内1)

一般600円 高校生・市内高齢者300円、中学生以下 無料


小樽・水彩画の潮流 平沢貞通・埋もれた画業の発掘 (2010)
北海道の水彩画 みづゑを愛した画家たち(2008)
故平沢元死刑囚のテンペラ画 7作品相次ぎ発見 札幌と小樽で今夏に展覧会 (2007)
=以上画像なし

□帝銀事件ホームページ http://www.gasho.net/teigin-case/index.htm
平沢貞通WEB絵画展




・JR小樽駅から約710メートル、徒歩9分

・中央バス、ジェイアール北海道バスの都市間高速バス「高速おたる号」「高速ニセコ号」「高速いわない号」の「市役所通」から約700メートル、徒歩9分


(この項続く) 


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