フランク・エドワード・シャーマンは、1945年、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)の印刷・出版担当官として来日しました。日本と芸術を愛したシャーマンは、12年に及ぶ日本滞在中、藤田嗣治をはじめ、猪熊弦一郎、伊原宇三郎ら、多くの日本人芸術家と交流をもち、彼らを支援しました。日本を離れた後も親交を続け、多くの写真を撮り、作品をコレクションしました。
1991年にシャーマンが死去した後、その膨大なコレクションは、親しかった河村泳静氏に引き継がれ、現在、北海道の伊達市教育委員会が絵画、写真、書簡など約5,000点の寄託を受け、同市のNPO法人噴火湾アートビレッジで管理しています。
本展では、シャーマンコレクションから、絵画、写真、資料など約70点を展示します。
会場の作品目録から引用した。
以上の引用で、要点はだいたい尽きているのだが、もう少し箇条書きで付け加えると…
1) 油彩などタブローは少なく、版画やスケッチ、資料類が中心
2) とはいえ藤田、猪熊、伊原のほか、中村研一、中川紀元、国吉康雄、澤田哲郎、イサム・ノグチ、脇田和、棟方志功、岡田謙三、恩地孝四郎、関野準一郎、菅野圭介、瑛九、靉嘔、篠原有司男、野口弥太郎、小磯良平、吉岡賢二、平塚運一、向井潤吉など、そうそうたる顔ぶれの作品が並ぶ
3) 4~6月の道立近代美術館と、7~8月の道立三岸好太郎美術館の「シャーマンコレクション」展は別内容。出品作品はほとんど重複しない
といった感じだろうか。
これらのコレクションが伊達にもたらされたくわしい経緯はよくわからないのだが、伊達市が来春のオープン目指して建設中の「だて歴史文化ミュージアム」でも、伊達家ゆかりの甲冑や洛中洛外図屏風などとならんで展示されることになりそうだ。
とくに筆者が注目したのは一原有徳(1910~2010)の「轉」(1959)。
第27回版画展(日本版画協会主催)で初入選を果たした際の作品だ。
この作品がある画廊に保管されていたのを、シャーマンが買い上げ、(会場では明記されていなかったが)土方定一神奈川県立近代美術館長の目にとまったことで、一原さんは一躍国際デビューを果たすのである。
(画壇デビューということでいえば、前年の58年の第32回国展で初入選している)
一原有徳さんは徳島県生まれだが、1923年から亡くなるまで小樽に住んでいた。版画はモノタイプなので、「轉」も1点しかない。
この作が道内で展示されるのは、非常に意義深いことだと思う。
このほか、向井潤吉の水彩「白川村の民家」は、彼らしい作品だが、水彩なので油彩よりも軽快な画面。
岡田謙三は、いまの60~70代には「戦後ニューヨークで活躍した画家」として知られているが、それ以下の世代にはあまり知名度が高くない。彼が「幽玄」をもじって掲げた「ユーゲニズム」の絵画の実作が見られるのは、意外とめずらしい機会なのかもしれない。
展示品の中には、藤田嗣治が愛用していた丸めがねもあった。
彼についてはおかっぱ頭がよく言及されるが、丸いめがねも見た目には欠かせない、いわばトレードマークである。
昔のことなので、鼻当てがない。
そういえば、ジョン・レノンの丸いめがねも鼻当てがついていなかった―などと思い出す。
三岸好太郎美術館での第2弾も楽しみだ。
2018年4月21日(土)~6月24日(日)
道立近代美術館(札幌市中央区北1西17)