感情と思考の科学事典 まえがき
心理学の事典も辞典も、本邦に限定しても、そして、この20年に限定しても、その数は少なくない。そこにあえて、感情と思考にテーマを限定した事典を刊行することになった。一見すると、感情と思考、水と油。これを「と」でくっつけた事典を刊行したのはなぜとの疑問を抱かせる事典の刊行となった。
その趣旨は、2つある。
1つは、心理学の研究の歴史的経緯からのものである。
20世紀後半の心理学は、認知と思考がもっぱら心理学の研究をリードしてきた。しかし、1986年にACRESという感情を組み込んだ人工知能が発表され、さらに、感情研究のほうでも1970年代から認知論的なアプローチと呼ぶにふさわしい流れができつつあった。出自はことなるが、2つの研究領域で、感情と認知の出会いがあったのである。そうした中で生まれた成果を紹介してみたいとの思いが、本事典刊行の趣旨の一つである。
なお、「Cognition & Emotion」の発刊は、1986年になる。
2つ目は、知と情とを融接現象としてとらえてみたいとの思いからのものである。
知情意の3分法を持ち出すまでもなく、知と情意とは、心理学でもまさに分割研究されてきた。しかし、日常の心理的体験としては、知と情意とはお互いに融接していることのほうが普通である。たとえば、数学の難しい問題を解く論理知の活動のなかにも正しさへの感情的な評価、どんどん目標に近づいていく高揚感といった感情成分が密接不可分に混在している。こうした観点から感情と思考をとらえ直してみたら、面白いのではないか、というのがもう一つの刊行の趣旨である。
要するに、感情と思考、思ったほど、水と油ではないのである。心理学の伝統的なテキストの章立て、あるいは学会発表の場で便宜上そうした区分を採用しているだけで、両者の間にそれほど明確な線引きをする根拠はないのである。本書をご覧いただくことで、そのあたりを理解していただけるのではないかと思う。(海保)
心理学の事典も辞典も、本邦に限定しても、そして、この20年に限定しても、その数は少なくない。そこにあえて、感情と思考にテーマを限定した事典を刊行することになった。一見すると、感情と思考、水と油。これを「と」でくっつけた事典を刊行したのはなぜとの疑問を抱かせる事典の刊行となった。
その趣旨は、2つある。
1つは、心理学の研究の歴史的経緯からのものである。
20世紀後半の心理学は、認知と思考がもっぱら心理学の研究をリードしてきた。しかし、1986年にACRESという感情を組み込んだ人工知能が発表され、さらに、感情研究のほうでも1970年代から認知論的なアプローチと呼ぶにふさわしい流れができつつあった。出自はことなるが、2つの研究領域で、感情と認知の出会いがあったのである。そうした中で生まれた成果を紹介してみたいとの思いが、本事典刊行の趣旨の一つである。
なお、「Cognition & Emotion」の発刊は、1986年になる。
2つ目は、知と情とを融接現象としてとらえてみたいとの思いからのものである。
知情意の3分法を持ち出すまでもなく、知と情意とは、心理学でもまさに分割研究されてきた。しかし、日常の心理的体験としては、知と情意とはお互いに融接していることのほうが普通である。たとえば、数学の難しい問題を解く論理知の活動のなかにも正しさへの感情的な評価、どんどん目標に近づいていく高揚感といった感情成分が密接不可分に混在している。こうした観点から感情と思考をとらえ直してみたら、面白いのではないか、というのがもう一つの刊行の趣旨である。
要するに、感情と思考、思ったほど、水と油ではないのである。心理学の伝統的なテキストの章立て、あるいは学会発表の場で便宜上そうした区分を採用しているだけで、両者の間にそれほど明確な線引きをする根拠はないのである。本書をご覧いただくことで、そのあたりを理解していただけるのではないかと思う。(海保)