事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

月ふたたび

2024-02-22 | 邦画

PART1はこちら

お察しのように、障がい者を殺しまくるのはさとくんだ。こころ優しい彼は、入所者のために紙芝居を演じてみせる。そんなことをしているのでむしろ同僚からハブられる。でも彼の紙芝居は「花咲か爺さん」だ。彼はこう問いかける。

「いじわる爺さんが見つけた“汚いもの”ってなんだろう?」

誰もが障がい者を汚いもので、見ないようにしているではないかと。この施設が森の中にあるのは、世間が障がい者を見ないようにしているためだと指摘する。

そして、彼らが“有益ではない”から抹殺するべきだと心のなかでジャンプし、鉈などの殺傷道具を心穏やかに準備する。目標は260人。そのために彼は身体を鍛える。

洋子(宮沢りえ)は、自分にもそんな障がい者を忌避する側面があったのではないかとおびえながら、しかし彼に反論する。生きることの意味を、障がいを持った子を失ったオダギリジョーと自分だから理解できると。

スーパーで、割引のシールが貼られている商品を買うシーンに代表されるように、この夫婦は経済的に苦しい。彼ら夫婦は、再生の過程を回転寿司で、しかも一番安いネタのタマゴで実感する。そしてそこではテレビで残虐な事件が起こっていることが報じられている。天国と地獄の共存。その境目はあやふやだ。

「政治家の人たちはちゃんとやってくれています」とさとくんに言わせるように、殺人者は一種の陰謀論にからめとられているようにも描いている。同性愛者には生産性がないとかました政治家がいたように。

しかしそこを突き抜けてこの映画はすばらしい。

施設の職員であることから、宮沢りえはノーメイクに近い形で演じている。妻と離れたのでいつものように一番前で観たわたしは、彼女の小じわまで観ることができる。そしてその上でなお、彼女の凄艶さを感じ取ることができた。

ああ、大女優になっていくんだな宮沢りえは。

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「月」(2023 スターサンズ)

2024-02-21 | 邦画

「映画見に行こう、月」

「それ、どんな映画なの?」

「障害者施設の職員が、入所者を殺しまくるという」

妻は気が進まないみたい。鶴岡まちなかキネマの駐車場で、たまたまいっしょになった知り合い姉弟がやってきて

「じゃ、こっち観ましょう?」と「おーい、どんちゃん」をすすめる。

「あたしこっち」

妻を拉致されてしまいました(笑)。

「伍長、んで月は」

……見終わって駐車場で待ち合わせた妻は「どんちゃんってすばらしい映画だったわー。心が洗われたもの。そっちは?」

深い森の中にある障害者施設。デビュー作が評判になった過去をもつ作家の洋子(宮沢りえ)は、ある理由で書けなくなっていて、その施設に就職する。彼女の通勤する道には蛇などの不吉な生物が蠢いている。

職場は壮絶なものだった。障害者の行動は想像を超えており、職員はそれに虐待で応える。

同僚である陽子(二階堂ふみ)は小説家をめざしているが、自分の才能に絶望している。同じヨーコという名の作家に、「きれいごとを書いてたわけじゃないですか!」と指摘するが、確かに洋子が書けなくなったのはそのせいだったのだ。

この職場がおかしいと指摘した職員がもうひとりいる。絵の上手な、さとくん(磯村勇斗)だ。しかし彼は同僚たちから余計なサービスをするなと批判され……以下次号

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「ゴールデンカムイ」(2024 東宝)

2024-02-15 | 邦画

のっけから、二百三高地の激戦。兵士を消耗品のように犠牲にして、ようやく勝った日露戦争最大の、というか最悪の戦いだ。乃木希典という人物の軍才が……あ、やめておきましょう。神様にたてついてもいいことはなさそう。

その戦いで、主人公の杉元は顔に傷を負うなどするが、不思議と回復が速いので(なにかの伏線なのだろうか)不死身の杉元として名を馳せる……

大ベストセラーの原作コミックもアニメも見ていないのでえらいことは言えませんが、この映画、やたらに面白いですよね。公開から1ヶ月近くたつけれども、客席にはまだまだ多くの人たちがつめかけている。しかも男女とも、全年齢的に。これは強い。

「最初はどうなることかと思ったけど、玉木宏の頭から汁がたれてくるあたりから面白くなってきたわ」

うちの奥さんは変わってるなあ。

まあ、わたしは最初、あの敵役が玉木だとわからなくて、ようやく特徴的な声で気づいたくらい、壮絶なメイク。これは他のキャストにも言えて、井浦新だって最初はよくわかりませんでした。

土方歳三(舘ひろし)が箱館戦争を生き延びた設定なのもうれしい。木場克己の永倉新八とからむなど、渋い。

主役の山崎賢人は、アニメの実写化ならまかせとけとばかりに弾けている。実はけっこう暗いお話なのに、陽性な彼のおかげで画面がはずむ。「キングダム」と「ゴールデンカムイ」のどっちも主役というのはたいそうきついだろうと思いますが。

そしてこの映画をきっちり娯楽作として成功させたのは、脚本の黒岩勉のお手柄だと思います。ああこの人も「キングダム」とのかけもちか。これからご苦労様です。

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「PERFECT DAYS」(2023 ビターズエンド)

2024-02-14 | 邦画

その男の生活はルーティンの塊だ。近所のおばあさんの道を掃く音で目を覚まし、部屋にある植物に霧吹きで水をやり、自動販売機で缶コーヒーを買い、古い音楽を車のカセットで聴きながら職場に向かう。

その職場とは公衆トイレ。彼、平山はトイレ清掃を請け負っている。仕事は徹底している。

家に帰り、銭湯に向かい、地下街の飲み屋でチューハイをひっかけ、布団のなかで古本屋で買った100円文庫本(フォークナー、幸田文パトリシア・ハイスミス……「11の物語」はわたしも大好きでした)を読みながら眠りにつく。その日の情景がモノクロで平山の頭に浮かぶ。

役所広司がカンヌ映画祭で男優賞をとった作品。監督は「パリ・テキサス」「ベルリン 天使の詩」のヴィム・ベンダース。すばらしい作品だった。妻もわたしも涙が……


淡々とした日常を描いて、細やかな、静かな、同時に少し退屈な映画かと思ったら、激しく感情を揺さぶられてしまった。

音楽のセンスが抜群で、「ドック・オブ・ザ・ベイ」のような超有名曲もあれば、ヴァン・モリソン、パティ・スミスなどの渋い曲も続々。

それにしても豪華なキャスト。スナックのカウンターから出てきた石川さゆりが、あがた森魚のギターで「朝日のあたる家」を熱唱するというぜいたくなシーンもあります。

ラスト近く、役所広司と演技のうまさでは引けを取らないあの人も登場。まあ、役所が主演してベンダースが監督する映画に誘われたら誰も断れないよね。出演を断ったら絶対に後悔するし。

そしてこの映画がすばらしいのは、東京という街が、いかに美しいかを活写していることか。東京って、本当にきれいだ

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「事故物件 恐い間取り」(2020 松竹)

2024-02-04 | 邦画

主演亀梨和也、監督中田秀夫なのだからキャストもスタッフも気合いが入っている。でも事故物件に住むことでバラエティで売れていく芸人、なんてネタの映画がまさかの大ヒット。いったいどうしたことだろう。

まあ、ホラーとして一定レベルはキープされているし、共演が江口のりこと「あなたの番です」の奈緒でアンサンブルとしてもいい感じだ。いやでもそれにしても興行というのはわからないものだ。

「変な家」のベストセラーも似たような背景があるのかな。まもなく映画も封切られる。きっとヒットするんだろうなあ。

え、主演が佐藤二朗?わたしも観に行こうかしら(笑)

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「線は、僕を描く」(2022 東宝)

2024-01-12 | 邦画

砥上裕將(とがみひろまさ……読めないよね普通)の原作はすばらしかった。あれを、横浜流星主演で映画化されていたのに見逃していたとは不覚。水墨画の師匠に三浦友和、その孫に清原果耶、弟子の先輩に江口洋介(好演)と、役者はそろっている。

そして作品としてもすばらしい出来だった。俳優たちはマジで水墨画に取り組んだらしい。ただ、師匠がなぜ水墨画を描き続けてきたのか、というあの原作のキモのエピソードがスルーされていたのはなぜなんだろう。いい話なんだけどなあ。

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「江戸川乱歩の陰獣」(1977 松竹)

2023-12-06 | 邦画

かつてニッポン放送では午前0時から「あおい君と佐藤クン」という番組がオンエアされていた。パーソナリティはあおい輝彦と佐藤公彦(ケメです。うわあ、もう亡くなっていたのか)。ちょうどあおい輝彦がこの「陰獣」に出演したころのこと。作品を観たケメが

「なんか、香山美子さんがすごいことになってて」

「そうだねえ。胸のところに、なんかふたつあったねえ」

あの香山美子がフルヌードになったというのか!

それだけのために、名画座で見たような記憶があります。

時代的に言って、東宝が(というより、角川春樹が)横溝正史の「犬神家の一族」を映画化して大ヒット。松竹も指をくわえてみているわけにはいかない。こちらは江戸川乱歩でいきましょうと「陰獣」で対抗。

佐清(すけきよ役のあおい輝彦を主役にもってきて、「悪魔の手毬唄」の磯川警部役の若山富三郎もキャスティングしているのだから、二匹目のどじょうをねらったと思われても仕方がない。向こうが市川崑なら、こちらはローアングルの撮影で有名な加藤泰をもってきて豪華なことだ。

そして、香山美子。

この人がヌードになったことがあると知っている人がどれだけいるだろう。当時はそれほどの衝撃。なにしろ銭形平次の奥さんのお静を長くやった人だし、リカちゃん人形のリカちゃんが香山という名字なのも彼女からいただいているらしい。それほど、清純で貞淑な役が似合う人だったの。

でも、女優として期するところもあったのだろう。ヌードのシーンをスタンドインを使ってすでに撮影済みであることを知った彼女は、「だったら脱ぎます」と惜しげもなく裸体をさらしてくれている。でまたこれが綺麗な身体なんですよ。

そんなこともあって、興行自体はふるわなかったけれども、香山の熱演と、ミステリとして上等でもあったこともあり、カルト映画としてこの作品は歴史に残っているのです。ああありがたいありがたい。

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「春に散る」(2023 GAGA)

2023-12-05 | 邦画

沢木耕太郎の初の国内旅行エッセイ集「旅のつばくろ」は、なんと遊佐町からスタートする。おそらく宿泊したのは遊楽里(ゆらり)だろうが、ほぼ絶賛状態でたいそううれしかった。

その沢木が、自分の本領であるボクシングを題材にした小説を書き上げた。で、うれしいことに遊佐がまた登場するんですよ。主人公とともに、かつて四天王と呼ばれ、しかし現在は落魄しているボクサーの住みかとして。四十年ぶりにアメリカから日本に帰ってきた主人公は、酒田に宿泊して遊佐に向かっている。

「ホテルインという、とても不思議な名前のホテルだった」

よく考えたら確かに不思議な名前だ(笑)。酒田に実在するんですけどね。

さあ映画。ボクサーとしての夢が破れた主人公は、アメリカでホテルを経営するなど、ある程度の成功を収めている。しかし帰国するとむかしの仲間たちは(遊佐にいる人物=片岡鶴太郎も含めて)すべてきつい立場にいる。そこへ、才能あふれる若者が登場し、彼らにむかしの夢を思い出させる……

佐藤浩市がいいのはもう当然のこととして、若きボクサーふたりがまたいいんですよ。横浜流星窪田正孝

身体を徹底的に絞り切り、リング上でのファイトもリアル。佐藤の持つクロスカウンターなどの技術を貪欲に吸収する流星と、「愛にイナズマ」などの、天使のような役柄から一転、尊大で、流星の試合をスマホに熱中して無視するチャンピオンとしての窪田正孝がすばらしい。

原作では一種の超能力者として描かれたヒロインに橋本環奈、ボクシングジムの女性会長(誰だって「あしたのジョー」の白木葉子を想起する)に山口智子など女優陣も豪華。なにしろ遺影だけしか登場しない哀川翔の恋人が片岡礼子だし。

監督は「ヘヴンズストーリー」「菊とギロチン」の瀬々敬久。みごとな娯楽作品に仕上がっています。

 

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「あなたの番です 劇場版」(2021 東宝)

2023-12-03 | 邦画

評判を呼んだあのドラマを映画化。第一話で、マンションの住民会に出たのが原田知世ではなくて田中圭だったら、という仮定でストーリーは進む。ドラマを見た人向けに、さまざまなサービスが用意されていてそれなりに楽しい。

ただね、この映画ははっきりと原田知世と横浜流星が主演です。田中圭はただナナちゃんナナちゃんと騒いでいるだけ(笑)。地元の米、雪若丸のCMでがんばっているので失礼だけれども。

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「沈黙の艦隊」THE SILENT SERVICE(2023 東宝=Amazon)

2023-11-28 | 邦画

原作が掲載されていた講談社のモーニングは、酒田に「隆月(りゅうげつ)」というラーメン屋があったころに置いてあったので、食べながら読んでいた。「OL進化論」(秋月りす先生!お身体はだいじょうぶなんですか)や「大東京ビンボー生活マニュアル」(前川つかさ)など、講談社らしい連載が多くて好きだった。

その雑誌に長期連載されていたのが「沈黙の艦隊」。原子力潜水艦が独立を宣言し……ってたまに読んでいるだけでは何が起こっているのかさっぱり(笑)。まあ、かわぐちかいじがくり広げるお話が、右翼だの左翼だのという範疇とは違うところで繰り広げられていることだけはわかった。

さて、あの長大なお話を二時間強の映画で語りきることができるはずはない。見る側もそのことは承知している。ということで主人公の海江田艦長が何をめざしているのかは、ほとんどラストにならないと明かされないのは仕方がないんでしょう(笑)。

ただ、それにしたってこの映画からは“熱”が感じられないのだ。製作も兼ねた大沢たかおはがんばったようだけれども、たとえば同じ潜水艦ものでも「ローレライ」にようなアクロバティックな動きも少ないし、政治映画としても閣僚たちに味がないものだから(外務大臣の酒向芳を除く)、そっち方面でも興奮させてくれない。

たとえば「シン・ゴジラ」のときは、無能だと思われていた農林水産大臣(平泉成)が、総理になった途端にその真価を見せるあたりの芸があったんだけどなあ。

東宝は経営に余裕があるからか、大作に若手をよく起用してくれる。この作品に「ハケンアニメ!」の吉野耕平を起用したのも慧眼だと思う。しかしたとえば、脚本に「機動警察パトレイバー」や「空母いぶき」の伊藤和典を起用したらどんな映画になっただろうと考えてしまうのは、きっとわたしが嫌味な客だからか。

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