先月号「震災のあとに」にもちょっと登場した伊集院静。
仙台在住の彼は、東日本大震災について積極的に発言をつづけている。含羞の人でもあったはずの彼が、この時期に初めて夏目雅子の死について、みずからを地獄から救った阿佐田哲也(色川武大)という存在について「いねむり先生」で著述したのも偶然だろうか。
「僕はね、色川さんに出会って(小説は)逆に『書けない』って思った。才能云々じゃなく、世の中には『書くべくして生まれている人』がいるんだ。そして僕はそうじゃないって。でも色川さんが亡くなってから、いろんな編集者に『伊集院をよろしく頼む』と言ってくれていたことが分かったのです。ただ編集者は僕にそれを言わなかった。当時の僕は先生の仕事を邪魔している愚図で、僕が書けるなんて誰も信じてなかったから(苦笑)」
「受け月」に入っている「夕空晴れて」という短篇をぜひ読んでみてほしい。試合に出られなくても、少年野球に通い続ける少年。野球が大好きだった亡き父親の想い出を共有する母子のキャッチボールに泣けない人はいないはず。あんなすばらしい小説が書ける人に伊集院は変貌したのであり、阿佐田哲也はそれを予知していたのだ(あるいは、少なくとも本人だけは書くことで救われると知っていたか)。
でも伊集院静には別の面も。先月酒田にやってきた居酒屋大全の太田和彦(久村ではみごとに酔ってたんですって)と大沢在昌の対談では……
大沢:「5人くらいいっぺんに殺したいんだけど、 やっぱり毒物かな」とか、質問してくる同業者はいますけど、電話で。
太田:すごい(笑)。
大沢:伊集院静さんですけどね。
……さすが伊集院。
5月号~英才教育につづく。