事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

日本の警察~その54「地の底のヤマ」 西村健著 講談社

2012-12-31 | 日本の警察

Chinosokonoyamaimg01_2 その53「SP革命篇」はこちら

年の瀬にこんな分厚い(本文868ページ、しかも二段組)ミステリを読み始めてどうすんだ、と思いながらもあまりの面白さにやめられなくなる。

舞台は三池炭鉱。主人公は、日本で大牟田にしか存在しない密漁取り締まり専門の警察官。密漁船とのやりとりや、干潟での潮干狩りの描写がなんともいい感じだ。

四部構成になっていて、それぞれ昭和49年、昭和56年、平成元年、そして現在の物語がつづられる。石炭産業が斜陽の一途をたどる経過と、主人公を中心とした登場人物の成長、挫折、そして再生が、九州らしさを横溢させたとんこつ味で語られ、お腹いっぱいになれます。

誰からも愛され、誰からも尊敬される警察官だった父親がめざしたものはなんだったのか。なぜ彼は殺されなければならなかったかが縦糸。そこに組合活動家、娘に売春を強要する母親などの死がからまる。

優秀な警官ではあるが、しかし後悔したくないために本流を外れていく息子の日常もいい感じ。出てくる料理や酒がめちゃめちゃにうまそうなのである。

炭鉱をめぐる描写もすごい。会社(三井)の横暴、第一組合と第二組合の反目、暗躍するやくざ、宗教団体など、おそらくはかなりの部分が事実にもとづいている。勉強になるなあ。

作者の西村健は元官僚。鹿児島ラ・サールから東大をへてキャリア官僚になったのに、フリーライターに転身。このあたりは主人公や彼をとりまく友人たちに投影されている。

佐々木譲が道警シリーズで北海道を活写したように、この作品が描き出しているのは、なによりも九州そのものだ。日本の北と南で、よき警察官たらんとする男たちの熱い闘いが今日もつづいている。お弁当箱なみの分厚さにめげずに、ぜひご一読を。

その55「第三の時効」につづく

地の底のヤマ 地の底のヤマ
価格:¥ 2,625(税込)
発売日:2011-12-20
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日本の警察~その53「SP 革命篇」

2012-12-30 | 日本の警察

Spimg04 「野望篇」はこちら

さて前回は欠点ばかりあげつらったけれど、今回はよいしょしまくりますよ。

・“動く壁”であるSPを、国家転覆計画(官僚たちが意図したものがそうではなかったことにあとで気づかされますが)を防ぐ担い手に設定するのは無理がある……と思ったら、『国会議事堂内で唯一武器を携行できる存在』という特性を活かしたのはみごと(衛視も無理。彼らは警察官ではなくて国会職員だから)。

・他の刑事ドラマでは公安は暗いキャラでおなじみなのに、春田(「めんどくせぇええ」)純一と野間口徹(「ゼロの焦点」のあの人)という味のあるキャスティングで、実は誰よりも国を憂えている“現場の人”になっているのはうまい。

・国会を見学に来ている女の子がテディベアを持っているのを見て「お嬢ちゃん、テディベアのテディって、アメリカの大統領(セオドア・ルーズベルト)のことなんだよ」とテロリストに言わせるあたりもにくい。子どもから熊を奪い取った彼は、アメリカ大統領の象徴を日本の国会議事堂に飾るのである。

・神経症的な連中が多く出てくるドラマのなかで、陽気な殺人者であるリバプール・クリーニングが出てこないのはつらいなあ、と思ったらラストでっ!

・何度も何度も描かれた井上の両親が殺害された場面。そこにどうして尾形がいたのかに、ちゃんとした理由が用意されているのは周到。

・周到さは国会内での描写にも及んでいて、四係がかろうじて小休止できたのが、警視庁はおそらく目の敵にしているだろう日本共産党の記者クラブ(笑)。

……すべてが終わり、堤真一が目をつぶるシーンから岡田准一が目を開けるシーンにかわってエンドロール開始。岡田演じる井上が、尾形の意志を(それは現場の人間としてのプライドを意味するのかもしれない)継承することを暗示してドラマ終了。

とても満足できたのは、「日本の警察」にこだわってきたからだけではないですよ。まだ見ていない人はぜひ。そして最初から一気にどうぞ。

その54「地の底のヤマ」につづく

Spimg05

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日本の警察~その52「SP 野望篇」

2012-12-29 | 日本の警察

Spimg03 TVシリーズ篇はこちら

映画版は二部作になっていて、それぞれ「野望篇」と「革命篇」。あいだにTVスペシャルの「革命前日」が入る。

今ごろ見ているお前が言うなよってことですが、テレビシリーズもふくめて最初から見ることをおすすめします。“シンクロ”と呼ばれる主人公の井上(岡田准一)の能力を、なんの予備知識もなく受けいれるのはしんどいし、シリアスに走る二部作のあいだに、小休止ともいえる「革命前日」をはさんでいるのは気が利いているので(岡田と真木よう子が仏像見学するシーンは爆笑ですよ)。

批判もいろいろあるようだけれど、わたしは一気に拝見してとても満足した。確かに欠点はある。このドラマに関してわたしは最終視聴者だろうからネタバレ全開でいくと

・井上の上司である尾形(堤真一)の革命への動機が、やはり私怨でしかないのはつらい

・そのために若手の官僚たちと与党幹事長(香川照之)に裏の計画を発動されてしまうのはいいとしても、彼らの理想の国家像がどうにも陳腐(ったく維新だの決起だの)

・SPの多くが尾形に心酔し、その計画に協力するが、直属の部下である四係だけが同調しないのでは他の連中が納得しないのでは?

・公安は国家転覆を防止するためにあるが、同時に官僚でもあるわけで、内部に相克があることをもっと強調すべきでは

・官僚たちの革命シミュレーションごっこ(解説としてまことに親切)において、自衛隊の存在を「冗談でしょう(笑)」と鼻で笑わせるのは少し苦しい。警視庁だってたかだか東京都警察本部ではないかという反論が聞こえてきそう。

・「野望篇」は、途中から官房長官(蛍雪次朗)をいかに官邸に送り届けるかのストレートなつくりになっていて、むしろこっち方面を押し出した方が評価は高かったはず

・身分詐称をしている人物が所属しているポストを考えると、日本の官僚制度はそこまで腐ってはいないのでは?というかそういうことだけはしっかりしているのでは(笑)

……すべて、小さなことです。金城一紀とフジテレビは、日本において「ダイハード」を成立させてみせると企図したのだろうし、それは確実に達成されました。以下次号

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「宮本武蔵」 (1961 東映)

2012-12-28 | 港座

Miyamotomusashidvd 世評とは違う部分で息をのんだ。沢庵和尚を演ずる三國連太郎“変わらなさ”だ。

彼は気弱さとずるさを併せ持ち、しかし強靭な体躯に包まれているために意外な味が出ていることに気づかされる。だから同じ内田吐夢の「飢餓海峡」の犬飼はうってつけの役だったし、かよわい女性(お通さん)をつかって猛獣である武蔵を生け捕りにする(よく考えてみれば)あくどい坊主もまた、三國がやるからこそいい感じ。

入江若葉とふたりでたき火を囲むシーンは、彼が述懐するように「いつかレイプしてしまうんじゃないか」という危険性をも確かに感じさせます(笑)。

内田演出は、「飢餓海峡」で見せた左幸子の爪の自慰(意味わかんないですね)に匹敵するセクシーな場面を用意しています。それは又八(木村功)の足の傷を、口に含んだ焼酎で消毒するシーン。

これを木暮実千代(この人もかなり大きい)にやらせて彼女の背中越しに撮れば、どう見えるかはご想像のとおり。いやーエロいわあ。

あ、錦之助の運動神経については、第二作「般若坂の決斗」で。

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「女の中にいる他人」 (1966 東宝)

2012-12-27 | 港座

Naruseimg02 愛する夫が不倫の最中に相手を誤って殺してしまい、罪の意識に懊悩しているとしたら、妻であるあなたはどうしますか。

まあ、現代なら当然離婚して自分への被害を最小限にしておくだろう。ところが、昭和四十年代の鎌倉と東京を舞台にしたこの成瀬映画ではそうはならない。

貞淑にして夫の母によく仕え、夫が帰宅すれば自然に後ろに控えて背広をえもんかけ(決してハンガーなどではない)にかけてブラッシング。

「お風呂になさいます?それとも」

と当時の専業主婦お得意のセリフをかまし、子どもがいたずらをすれば

“お父様”に叱られますよ」

とたしなめ、夫の灰皿に水をはり、ウィスキーを飲むとなればアイスペールに氷を……あ、途中から妄想も入ってきてしまった。

とにかくそんな夢のような(ほんとに、夢にすぎないんでしょうね今では)女性を演じるのが新珠三千代となると話はこんがらがってくる。

実は彼女はあなたがご想像になるような方法で夫(小林桂樹)の悩みを解消することになる。それが、貞淑で夫の母に~な女性にとってごく自然なことのように。つまり、鎌倉の邸宅で楚々とした風情で夫に仕えていた彼女の優先するものとは……怖いです。

弱い、とは究極の強さなのだと男たちに思い知らせる作品。強さを前面に出しているだけ、いまの女性たちは「他人」を隠していないわけだ。ああ幸せだ。ええ、幸せですとも。

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「蝶々にエノケン」 中山千夏著 講談社

2012-12-25 | 芸能ネタ

4062171651 ライターが書いた芸能史と違い、エノケンやミヤコ蝶々、森光子などの芸人にたいする視線がクールなのにたじろぐ。

これは中山千夏が彼らと“共演”していた当事者だからこそなせる技だろう。ただし、そのためにかなり息苦しい書になっているのも確かだ。

天才子役だった時代の千夏を知らないので、どんな子どもだったかは想像するしかないが、よほど付き合いづらい、ませたガキだったのであろうとは思う。誰よりも自身がそう語っているぐらいだし。この書で描かれた芸能人たちに、そのあたりの千夏観を訊いてみたいぐらいだ。

ああ、だからこそ森光子の死は痛い

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「傍聞き」 長岡弘樹著 双葉文庫

2012-12-24 | ミステリ

Kataegikiimg01_2 なんの予備知識もなく、長岡の短篇を雑誌で読んだらたまげるに違いない。特に、あるうっちゃりをかます表題作はおみごとだと思う。

世評でさんざっぱら賞揚されてから読んだので、仕掛けの存在に気づいてしまったのでちょっと残念でした。でも傑作。同じ山形出身者として、応援しますよー。

傍聞き (双葉文庫) 傍聞き (双葉文庫)
価格:¥ 550(税込)
発売日:2011-09-15
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「東雲の途」 あさのあつこ著 光文社

2012-12-22 | 本と雑誌

1106124537 前作までの特集はこちら

同心の木暮信次郎と遠野屋の関係は完全にSとM。Sの方が「このご時世にやっとうなんかやってられるか」と放言し、Mの方が凄腕の暗殺者である関係性がおかしい。

わたしは信次郎のファンなので、役人である彼が江戸を離れられないために遠野屋の旅につきあえない展開はちょっと残念。しかし、やっとうの腕とは違う部分で兄を追いつめる遠野屋には時代小説好きも納得か。

世の中にはこのふたりのやおいマンガが存在すると確信。そちらの関係が好きな方々も納得だと思います。

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「フルタの方程式」古田敦也 「参謀」森繁和 「エースの品格」「あぁ、監督」野村克也

2012-12-20 | スポーツ

126510004954116414952 野球本は数々あれど、読者を誰に設定しているかで印象はだいぶ違う。古田が想定しているのは少年野球の指導者たちだし、森や野村は明らかに中間管理職向けの処世術指南だ。

わたしにとってどちらが面白いかは自明な話で、野球経験がないので確信はもてないけど、キャッチャーが盗塁阻止のために二塁に送球する際、目線は二塁ではなくてマウンドのあたりにおく(フルタの方程式)なんてみんなやってるんですか。まるでボーリングだなあ。

森の参謀論においては、落合中日が、いかに情報の漏えいを防ぐために気を使っていたかにびっくり。とすれば中日がトレードに熱心でなかったのも納得できる。日本シリーズにおいて山井を(パーフェクトだったにもかかわらず)交代させたのは、彼の指のマメがつぶれたから……ほんとですか。ほんとなんですか

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明細書を見ろ!2012年12月号~教職員互助会

2012-12-19 | 明細書を見ろ!(事務だより)

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YouTube: Bill Evans - Waltz For Debby

2012年12月ボーナス号~「公立学校共済組合」はこちら

共済組合を特集したんだから今度は教職員互助会。おそらくこの団体についても自分が会員であるか意識していない人も多いはず(共済組合員は自動的に会員になります)。

わたしも新採のころ(あったんです)、どうにもこの団体がよくわからなくて、同い年の事務職員に

「で、教職員互助会ってどこにあるんだよ」

と質問したことがあります。

「どこって……県庁に決まってるじゃない」

そうなんです。教職員互助会の会長は公立学校共済組合の支部長が就くことになっています。すなわち、県教育委員会教育長。

副会長は教育次長と教職員組合執行委員長、理事には県の校長会長などのお歴々が……とくれば完全にお役所なのだろうなと誰だって思います。事務だって県教委の福利課が行うことが多いし。

でも、互助会には冠として「財団法人」がついています。つまり役所からは一定の距離をおいた独立した団体なわけ。

その昔、特に読売新聞が全国に存在する公務員の互助会を特集し、壮絶な攻撃を仕かけてきたことがあります。公務員の福利厚生事業を行う団体に税金が投入されているのはおかしいじゃないかと。世間に蔓延する公務員バッシングの風潮とマッチして、かなりの話題になりました。

わたしも中年のころ(今もです)、空気が読めなくてその関係のことを書面で質問したことがあります。そしたらかなり興奮した説明がかえってきました。

まあ現実には民間会社にしても(程度の差はあるにしろ)従業員の福利厚生を図る努力はしているし、そのための税控除も認められています。それに、うちの教職員互助会については公費補助は現在まったく行われていないんですけどね。ああ長くなりそうだ。つづきは来年!

本日の一曲は、今日クルマで聴いていたらつくづく素晴らしいプレイだと思い知ったビル・エバンスのWaltz For Debby

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