その53「SP革命篇」はこちら。
年の瀬にこんな分厚い(本文868ページ、しかも二段組)ミステリを読み始めてどうすんだ、と思いながらもあまりの面白さにやめられなくなる。
舞台は三池炭鉱。主人公は、日本で大牟田にしか存在しない密漁取り締まり専門の警察官。密漁船とのやりとりや、干潟での潮干狩りの描写がなんともいい感じだ。
四部構成になっていて、それぞれ昭和49年、昭和56年、平成元年、そして現在の物語がつづられる。石炭産業が斜陽の一途をたどる経過と、主人公を中心とした登場人物の成長、挫折、そして再生が、九州らしさを横溢させたとんこつ味で語られ、お腹いっぱいになれます。
誰からも愛され、誰からも尊敬される警察官だった父親がめざしたものはなんだったのか。なぜ彼は殺されなければならなかったかが縦糸。そこに組合活動家、娘に売春を強要する母親などの死がからまる。
優秀な警官ではあるが、しかし後悔したくないために本流を外れていく息子の日常もいい感じ。出てくる料理や酒がめちゃめちゃにうまそうなのである。
炭鉱をめぐる描写もすごい。会社(三井)の横暴、第一組合と第二組合の反目、暗躍するやくざ、宗教団体など、おそらくはかなりの部分が事実にもとづいている。勉強になるなあ。
作者の西村健は元官僚。鹿児島ラ・サールから東大をへてキャリア官僚になったのに、フリーライターに転身。このあたりは主人公や彼をとりまく友人たちに投影されている。
佐々木譲が道警シリーズで北海道を活写したように、この作品が描き出しているのは、なによりも九州そのものだ。日本の北と南で、よき警察官たらんとする男たちの熱い闘いが今日もつづいている。お弁当箱なみの分厚さにめげずに、ぜひご一読を。
その55「第三の時効」につづく。
地の底のヤマ 価格:¥ 2,625(税込) 発売日:2011-12-20 |