セントラル・パークを散策する人々が、突然その動きをとめ、ある行動をとりはじめる。近くの工事現場では、上から次々と作業員が降ってくる。テレビでは、動物園のライオンに自分の手を食いちぎらせている男の映像が……
「シックス・センス」「アンブレイカブル」「サイン」「ヴィレッジ」「レディ・イン・ザ・ウォーター」とキャリアを積み重ねてきた(というか、評価が下がり続けてきた)M・ナイト・シャマランは、要するにハッタリと虚仮おどしの人だ。観客の意表をつくことに命を賭け、そのためにストーリーが破綻しようがかまわないという姿勢は一貫している。そして、そんな彼の根性が憎めないものだから全作品をわたしは見ちゃっているわけだ。
「で、『ハプニング』を観てどう思った?」
観てきたことを自慢する同僚にたずねると……
「うーん。むずかしいわね」
「他の人に薦めようと思ったか?」
「……それはないわ(笑)。怒る人もいるだろうし。」
シャマランの映画は一週目にごっそり稼ぎ、二週目以降にガターっと客が減ることになっている。クチコミがこのように効かないので今回も同じことになりそうだ。
しかしわたしはシャマランの稚気を愛する。
こんな映像を撮ってみたい、こんな手で観客を驚かせたいとする集積がシャマラン映画だ。だからたとえ後味が悪くても、なぜ人々が自殺し続けるのかの理由が噴飯ものだったとしても、彼はいっこうに気にしないし、わたしのような彼の映画のファンもかまいはしないということだろう。
パニックに陥ってしまった同乗者を鎮めるために「1日目に1ペニー、2日目に2ペニー、3日目に4ペニーと倍々に貯金したとする。30日目にはいくら貯まっていると思う?」と、およそ理科教師には見えないマーク・ウォールバーグにたとえ話をさせる。このたとえ話が不可思議な現象のヒントになっていたり、正気であることを示すためにドゥービー・ブラザーズの「ブラック・ウォーター」を歌わせたり……脚本もあいかわらず達者。PG-12指定だから、思う存分むごたらしい描写が連続することを覚悟の上で、観ても損のない映画だとお薦めしたい……いや、やっぱりちょっと怒られちゃうかなー。