PART9はこちら。
さて、これだけ長いことやってきて、犯人の目当てはみなさんついていることと思う。現実の事件と違って、映画にはキャスティングというヒントがあるからね。
「八つ墓村」の基本線は、辰弥の姉である春代(山本陽子)と事件の解説者である未亡人美也子(小川真由美)の、辰弥をめぐる争奪戦なのだ。春代は辰弥が実は弟ではないことを知っている。
「お前が生まれたのは、竜のアギトというところよ」という母の言葉は、鍾乳洞で美也子によって解読される。母はアギトで小学校の代用教員と密会を重ねており、その結果生まれたのが辰弥だったのだ。
母を演じたのが中野良子。そして、ほとんど顔も映らないけれど本当の父を演じたのは、当時まったく無名の風間杜夫だったのである。
ベッドシーンの相手に風間を指名したのは中野良子自身だったという。さすがですね。何がさすがだかよくわからないけど。
弟ではない辰弥を春代が愛した設定は少し無理があっても、そこは萩原健一。数々の女優をこましてきた(すいません下品な表現で)経緯を当時の観客はよく知っているので納得できます。
その春代が、鍾乳洞のなかで犯人に襲われ(ここで犯人がわからない人はどうかしている)絶命寸前に辰弥にこう告げる。
「犯人の、指を噛んだの。きっと怪我をしているはずよ」
思えば春代は薄幸な女性である。村人を殺しまくった狂気の男の娘として生まれ、心臓が弱いために婚家を出され、実家では不気味な双子の叔母たちに縛りつけられ……不幸な出自がいっしょであり、同時に外の空気をまとっている辰弥に恋したのは無理からぬところだろうか。彼女は七番目の被害者となる。
観客みんながあの人が犯人だと感づいているのに、辰弥はまだそのことを知らない。そのうえ、金田一はなにを思ったか「鍾乳洞に隠れていなさい」と命ずるのだ。え?以下次号。