"ad astra"とは意味不明のタイトルだなあ……あ、そうですかラテン語ですか。英語にすれば“to the stars”ですって。星に向かって。しかしラテン語になじんだ方々にとってはPer aspera ad astraというフレーズが有名で、こちらは「困難を克服して栄光をつかむ」という意味らしい。
この映画は、まさしく星の彼方へ向かった2人の男が“何か”をつかむ物語だ。
まあ、こう説明すると血湧き肉躍るお話かと思われそうだが、残念ながらその反対。静謐で、思索的な、はっきり言えばこむずかしい作品です。
その証拠に後ろの方で見ていたじいさんは終わった途端に大あくび。実はわたしも前半は睡魔との戦いでした。だってほとんど動きのない美しい宇宙の描写が延々と続き、展開は何度もくりかえされるブラッド・ピットへの心理チェックによる独白で説明されるだけだ。
このパターン、どこかで見た気がする……「2001年宇宙の旅」じゃないですか。大げさに聞こえるかもしれないけれど、製作も兼ねたブラッド・ピットは、マジであの名作を意識したに違いない。
かつて知的生命体を探しに太陽系の果てに赴いた父親(トミー・リー・ジョーンズ)を尊敬し、しかし憎んでもいるロイ(ブラッド・ピット)は、行方不明となった父親が生きていると告げられ、海王星へ向かう。そこで彼が見たものとは……
このくらいまではストーリーを紹介できるだろうか。監督ジェームズ・グレイはコンラッドの「闇の奥」をヒントにしたというから、つまりは「地獄の黙示録」のフォロワーということになる。
なるほどあの作品でマーロン・ブランドとマーティン・シーンは疑似親子と言えるし、つまりは父殺しの話だったのでオイディプス王物語のベトナム戦争版だ。それでは「アド・アストラ」も父親殺しのお話なのかと言えば……言えねー言えねー。
娯楽映画らしくかなり粉飾もしてあるのでご心配なく。海王星ってそんなに小さいのかよ、とか探査機とそう簡単に再結合でき……こっから先は劇場で確かめて。寝落ちしないように体調がいいときの方がいいと思いますよ。
後半は史上最大規模の親子のお話になりますのでお楽しみに。狂気の継承と、感情をなくした男の復活……ああどう話してもネタバレになってしまう!