事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

「江戸川乱歩の陰獣」(1977 松竹)

2023-12-06 | 邦画

かつてニッポン放送では午前0時から「あおい君と佐藤クン」という番組がオンエアされていた。パーソナリティはあおい輝彦と佐藤公彦(ケメです。うわあ、もう亡くなっていたのか)。ちょうどあおい輝彦がこの「陰獣」に出演したころのこと。作品を観たケメが

「なんか、香山美子さんがすごいことになってて」

「そうだねえ。胸のところに、なんかふたつあったねえ」

あの香山美子がフルヌードになったというのか!

それだけのために、名画座で見たような記憶があります。

時代的に言って、東宝が(というより、角川春樹が)横溝正史の「犬神家の一族」を映画化して大ヒット。松竹も指をくわえてみているわけにはいかない。こちらは江戸川乱歩でいきましょうと「陰獣」で対抗。

佐清(すけきよ役のあおい輝彦を主役にもってきて、「悪魔の手毬唄」の磯川警部役の若山富三郎もキャスティングしているのだから、二匹目のどじょうをねらったと思われても仕方がない。向こうが市川崑なら、こちらはローアングルの撮影で有名な加藤泰をもってきて豪華なことだ。

そして、香山美子。

この人がヌードになったことがあると知っている人がどれだけいるだろう。当時はそれほどの衝撃。なにしろ銭形平次の奥さんのお静を長くやった人だし、リカちゃん人形のリカちゃんが香山という名字なのも彼女からいただいているらしい。それほど、清純で貞淑な役が似合う人だったの。

でも、女優として期するところもあったのだろう。ヌードのシーンをスタンドインを使ってすでに撮影済みであることを知った彼女は、「だったら脱ぎます」と惜しげもなく裸体をさらしてくれている。でまたこれが綺麗な身体なんですよ。

そんなこともあって、興行自体はふるわなかったけれども、香山の熱演と、ミステリとして上等でもあったこともあり、カルト映画としてこの作品は歴史に残っているのです。ああありがたいありがたい。

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「春に散る」(2023 GAGA)

2023-12-05 | 邦画

沢木耕太郎の初の国内旅行エッセイ集「旅のつばくろ」は、なんと遊佐町からスタートする。おそらく宿泊したのは遊楽里(ゆらり)だろうが、ほぼ絶賛状態でたいそううれしかった。

その沢木が、自分の本領であるボクシングを題材にした小説を書き上げた。で、うれしいことに遊佐がまた登場するんですよ。主人公とともに、かつて四天王と呼ばれ、しかし現在は落魄しているボクサーの住みかとして。四十年ぶりにアメリカから日本に帰ってきた主人公は、酒田に宿泊して遊佐に向かっている。

「ホテルインという、とても不思議な名前のホテルだった」

よく考えたら確かに不思議な名前だ(笑)。酒田に実在するんですけどね。

さあ映画。ボクサーとしての夢が破れた主人公は、アメリカでホテルを経営するなど、ある程度の成功を収めている。しかし帰国するとむかしの仲間たちは(遊佐にいる人物=片岡鶴太郎も含めて)すべてきつい立場にいる。そこへ、才能あふれる若者が登場し、彼らにむかしの夢を思い出させる……

佐藤浩市がいいのはもう当然のこととして、若きボクサーふたりがまたいいんですよ。横浜流星窪田正孝

身体を徹底的に絞り切り、リング上でのファイトもリアル。佐藤の持つクロスカウンターなどの技術を貪欲に吸収する流星と、「愛にイナズマ」などの、天使のような役柄から一転、尊大で、流星の試合をスマホに熱中して無視するチャンピオンとしての窪田正孝がすばらしい。

原作では一種の超能力者として描かれたヒロインに橋本環奈、ボクシングジムの女性会長(誰だって「あしたのジョー」の白木葉子を想起する)に山口智子など女優陣も豪華。なにしろ遺影だけしか登場しない哀川翔の恋人が片岡礼子だし。

監督は「ヘヴンズストーリー」「菊とギロチン」の瀬々敬久。みごとな娯楽作品に仕上がっています。

 

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「あなたの番です 劇場版」(2021 東宝)

2023-12-03 | 邦画

評判を呼んだあのドラマを映画化。第一話で、マンションの住民会に出たのが原田知世ではなくて田中圭だったら、という仮定でストーリーは進む。ドラマを見た人向けに、さまざまなサービスが用意されていてそれなりに楽しい。

ただね、この映画ははっきりと原田知世と横浜流星が主演です。田中圭はただナナちゃんナナちゃんと騒いでいるだけ(笑)。地元の米、雪若丸のCMでがんばっているので失礼だけれども。

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「沈黙の艦隊」THE SILENT SERVICE(2023 東宝=Amazon)

2023-11-28 | 邦画

原作が掲載されていた講談社のモーニングは、酒田に「隆月(りゅうげつ)」というラーメン屋があったころに置いてあったので、食べながら読んでいた。「OL進化論」(秋月りす先生!お身体はだいじょうぶなんですか)や「大東京ビンボー生活マニュアル」(前川つかさ)など、講談社らしい連載が多くて好きだった。

その雑誌に長期連載されていたのが「沈黙の艦隊」。原子力潜水艦が独立を宣言し……ってたまに読んでいるだけでは何が起こっているのかさっぱり(笑)。まあ、かわぐちかいじがくり広げるお話が、右翼だの左翼だのという範疇とは違うところで繰り広げられていることだけはわかった。

さて、あの長大なお話を二時間強の映画で語りきることができるはずはない。見る側もそのことは承知している。ということで主人公の海江田艦長が何をめざしているのかは、ほとんどラストにならないと明かされないのは仕方がないんでしょう(笑)。

ただ、それにしたってこの映画からは“熱”が感じられないのだ。製作も兼ねた大沢たかおはがんばったようだけれども、たとえば同じ潜水艦ものでも「ローレライ」にようなアクロバティックな動きも少ないし、政治映画としても閣僚たちに味がないものだから(外務大臣の酒向芳を除く)、そっち方面でも興奮させてくれない。

たとえば「シン・ゴジラ」のときは、無能だと思われていた農林水産大臣(平泉成)が、総理になった途端にその真価を見せるあたりの芸があったんだけどなあ。

東宝は経営に余裕があるからか、大作に若手をよく起用してくれる。この作品に「ハケンアニメ!」の吉野耕平を起用したのも慧眼だと思う。しかしたとえば、脚本に「機動警察パトレイバー」や「空母いぶき」の伊藤和典を起用したらどんな映画になっただろうと考えてしまうのは、きっとわたしが嫌味な客だからか。

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「愛にイナズマ」(2023 東京テアトル=日本テレビ)

2023-11-14 | 邦画

土曜の朝、映画館に行こうと心に決める。候補は鶴岡まちなかキネマで「春に散る」(ちょうど沢木耕太郎の原作を読み終えたばかり)か、フォーラム東根で「ゴジラ-1.0」。東根に決めたのは、この「愛にイナズマ」もちょうどいい時間帯だったから。まあ、どっちにしても佐藤浩市の作品ではあった。

主演の花子に松岡茉優。映画監督志望の彼女は、斬新で個人的な作品を作り上げようとしているが、老獪なプロデューサー(MEGUMI)と保守的な助監督(三浦貴大)によって企画自体をとりあげられてしまう。

……ここまでの展開はちょっとしんどいんですよ。確かにプロデューサーと助監督は薄汚い業界人のように描かれてはいるけれども、それなりに魅力的。だけれども、花子は世間知らずのはねっ返りにしか見えないのだ。

やばい、と思いました。あの「ぼくたちの家族」「舟を編む」「夜空はいつでも最高密度の青色だ」の石井裕也監督にして、妙に独りよがりな映画にしてしまったのではないかと。

ところが、一種の天使として窪田正孝(殴られて血のにじむマスクが妙におかしい=この作品の英題はMasked Hearts)が登場してからの展開が意表をつく。花子は自分の家族を題材にして映画を完成させようと父(佐藤浩市)とふたりの兄(池松壮亮若葉竜也)にカメラを向けるが……

母親がいないのはなぜか、余命一年を宣告されている父親がそのことをどう娘に伝えるか、などがからみ、わたしの涙腺は決壊した。タオル地のハンカチがぐしょぐしょ。

これまで、常に意識的な人物を演じてきた佐藤浩市が、なすすべもなく人生に流されていく弱い人間を演じて絶妙。すばらしい映画だった。東根まで来てよかったよー。

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「ゴジラ-1.0」GODZILLA MINUS ONE(2023 東宝)

2023-11-13 | 邦画

監督・脚本・VFXを担当した山崎貴が「続・三丁目の夕日」を撮ったとき、オープニングにゴジラを登場させ、東京を蹂躙していたことを思い出す。ああ、山崎はゴジラを撮りたいんだろうなあとつくづく。なにしろあのシーンは、のちに「シン・ゴジラ」が登場するまで、もっとも精緻な特撮だったので。

「ゴジラ-1.0」(ゴジラマイナスワン)を見た人たちが、とにかく泣けると教えてくれた。ほお。となれば山崎は

・ゴジラを撮るように三丁目の夕日を撮り

・三丁目の夕日を撮るようにゴジラを撮った

のかな。息子は初日の一回目に観に行き、とにかく混んでいたと言っていたので、念のためにとフォーラム東根まで遠征。知り合いと会うのはいやなの(だからなんで?)。

朝9:30からの回だったので、お目当ての足がのばせる席を確保できる。オープニングは特攻機の着陸から。乗っていた敷島(神木隆之介)は、特攻から逃げてきたのである。その、味方からも見放された孤島には、伝説の生物ゴジラが生息し、整備兵たちに襲いかかってくる……

敵から逃げたという負い目があるので、敷島の戦争は終わらない。そこへ、核実験によって巨大化したゴジラが東京へ向かって来る。敗戦によってゼロになった日本に、災厄としてのゴジラが現れ、マイナスの状態に陥ってしまう。

前半は木造の小舟で機雷を除去する場面がメイン。船長は佐々木蔵之介で吉岡秀隆と山田裕貴がチーム。もうまるっきりJAWSなのが笑える。そして、お偉いさんがゴジラの殲滅を担うこれまでのゴジラと違い、民間の英知を結集して、という狙いもよくわかる。

日本が圧倒的にアメリカの支配下にある(それはシン・ゴジの時代でもいっしょだったが)時代。ちょっと泣かせがあざといくらいではあるけれど、神木隆之介と浜辺美波の朝ドラコンビ、そして安藤サクラの芝居のうまさがこの映画を(きわどいところで)成立させていました。

ゴジラの背びれが膨張するギミックと、日劇が吹っ飛ぶシーンは必見。ポスターのかっこよさは比類がない。

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「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」(東宝=フジテレビ)

2023-11-10 | 邦画

文句なく今年観たなかで最低の映画。どうして脚本を井上由美子さんに任せなかったんだ。

いやもちろんなぜアニマルトラップに仕掛けた本人がひっかかったのかとか、周到な伏線ははってあるんだけど、いくらなんでもこんなに陰惨な話にしなくてもよかったのではないか。謎解きに爽快感がないの。ミステリにおける天使であるべき探偵が、まったく天使に見えないあたりも致命的。よくこの脚本で製作にGOサインが出たよなあ。

劇場版のおかげでドラマのシーズン2は吹っ飛んだことであろう。いい役者をそろえたのに。

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「アンダーカレント」(2023 KADOKAWA)

2023-11-09 | 邦画

Undercurrent……①下層の水流、底流 ②(表面の思想や感情と矛盾する)暗流。

わたしにとって「アンダーカレント」とはケニー・ドリューのアルバムタイトルだが、人によってはビル・エヴァンスかもしれない。ビルのアルバムジャケットと同じようなシーンがこの映画では何度も挿入されています。水面に出ている人間の表側と、内面とは違っているという意味がこめられているんでしょう。

ようやくコロナの影響も弱まり、わたしの映画館通いも復活しつつある。といっても今年はまだ14本しか見ていない。そんななかでも、やたらに出てくるのが安藤サクラ、井浦新、永山瑛太、リリー・フランキーだ。なんか近ごろの日本映画は彼らの順列組合せで出来上がっているのではないかと思うくらい。

この「アンダーカレント」も、「福田村事件」の井浦新と永山瑛太(「怪物」でもいい味を出してました)にリリー・フランキーがキャスティングされ、主演が真木よう子。面白そうだ。

しかし絶対に見ようと決めたのは、監督が今泉力哉だったから。「愛がなんだ」「アイネクライネナハトムジーク」の力感あふれる演出に期待。

その期待にみごとにこたえてくれました。「湯を沸かすほどの熱い愛」「時間ですよ」につづいて風呂屋の話に外れなし!

夫(永山瑛太)が失踪した妻(真木よう子)は、銭湯をなんとか切り盛りしている。そこへ、住み込みを希望する男(井浦新)が現れて……

夫をさがすリリー・フランキーが絶妙。ちょうどわたしが買ったばかりのサリバン先生タイプのサングラスをかけていたのでうれしくなる。

山形県庄内町がドラマにからんでくるし、なにしろ瑛太の役名がわたしといっしょなので「〇〇さん」と真木よう子のあの声で呼びかけられるたびにドキドキ。ラストシーンには深く考え込まされる。傑作。

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「バッド・ランズ」BAD LANDS(2023 東映=SONY)

2023-11-04 | 邦画

わたしはこの作品の脚本・監督・プロデュースを担当した原田眞人のファンだ。大ファンだ。「盗写1/250秒」「バウンスko GALS」「クライマーズ・ハイ」「駆込み女と駆出し男」「日本のいちばん長い日」など、こういう映画が作りたいという意図が明確に伝わってくる。

わたしはこの作品の原作「勁草」を書いた黒川博行のファンだ。特に疫病神シリーズの、延々とダラダラつづく大阪弁のおかしみは比類がない。先日も最新作「悪逆」を読んで、あいかわらず尿酸値ネタやパチンコ屋=カジノの持論を展開していて笑った。

わたしはこの作品の主演女優、安藤サクラのファンだ。わたしは今年13本しか劇場で映画を観ていないのに、そのうち3本が彼女の作品なのだ(まもなく「ゴジラ-1.0」も)。

これらの条件がそろって「バッド・ランズ」を見ないという選択肢はない。

オープニングから安藤サクラがはずむ。原田眞人の得意技に、まだ映画界で知られていない役者を発掘してみせることがある。たとえば、この映画でも融通のきかない刑事役で吉原光夫が好演を見せているし、宇崎竜童の枯れっぷりもいい。サリngROCKなんてどこから探してきたのだろう。そしてなんとあの天童よしみがきちんとハードボイルド的な悪役をこなしているのだ。

もちろん安藤サクラはすでに名優としての地位を確立していて、その演技力をかって主役に原田は起用したのだろうけれども、撮影が開始されてから彼女の凄さにあらためて驚嘆したのではないだろうか。この映画において彼女は、とにかく動きまくる。そしてその動きが激しく魅力的なのだ。

犯罪の世界に身を置きながら、ラストで疾走を開始する(名作「かぞくのくに」のラストで、スーツケースを引きずって未来に向かう安藤と二重写しになる)ヒロインの姿に感動。決して万人におすすめできる映画でないことは承知。でも、わたしにとっては大傑作。

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「ゆとりですがなにかインターナショナル」(2023 日テレ=東宝)

2023-11-03 | 邦画

テレビドラマの劇場版をつくるメリットとデメリットってなんだろう。

メリット

・ドラマのファンはすでに感情移入済みなので、登場人物の紹介など、よけいなシーンを省くことができる。

・オンエアが(たとえ視聴率が悪くても)ある程度の人気を得ているので、製作費を調達しやすい。

・役者もキャラの造型をすませているので、過度のプレッシャーを感じなくてもすむ。

デメリット

・ドラマのファンの多くは劇場版に新味をあまり求めず、そのまんまの展開を求めているので、作り手が工夫する余地が小さい。

・ドラマを見ていなかった層は、まず確実に映画館に来てはくれない。

・テレビで観ることが通例だったので、わざわざ金を出してまで……と考える人もいる。

……こんなとこかな。悪い例としてとりあげてはいけないけれども、「バスカヴィル家の犬シャーロック劇場版」はひどかった。ひょっとしたらありえたかもしれないシーズン2はきっと雲散霧消したことと思います。

それでは「ゆとりですがなにか」はどうだろう。宮藤官九郎の「木更津キャッツアイ」が劇場版になると「日本シリーズ」「ワールドシリーズ」になったのに似て、インターナショナルってなんだよ(笑)。

確かにあれから5年以上たって、マサカズ(岡田将生)はあいかわらずフラフラしているし、ヤマジ(松坂桃李)は童貞。マリブ(柳楽優弥)はとんでもないことになっている。

コロナの世になったことで数々のギャグがしこんであり(リモートがうまくいってないふりをしてフリーズしてみせるとか)、令和でなければ通用しない笑いがてんこ盛りだ。

でもね、はたして劇場版をつくる意味がはたしてあったのかといえば……ちょっと疑問。ファンであるわたしですら、ちょっと疑問。

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