原案が「仁義なき戦い」「県警対組織暴力」「総長賭博」などの脚本家、笠原和夫である。
監督が「凶悪」「孤狼の血」「死刑にいたる病」の白石和彌である。
出演が山田孝之、仲野太賀、岡山天音、木竜麻生、玉木宏、そして阿部サダヲである。
製作は東映。東映岩に波しぶきが広がり、三角マークが出る……
これほどの作品を見逃せるはずがない。フォーラム東根で鑑賞いたしました。もっとも、この作品については笠原和夫が脚本を完成していたのだが、当時の社長である岡田茂が「こんな暗い話は絶対に当たらない」と却下。激怒した笠原はその脚本を破り捨てたというエピソードが残っている。
舞台は戊辰戦争。北上する官軍に対抗する奥羽越列藩同盟。新発田藩に早く出兵しろと迫る。しかし家老(阿部サダヲ)は、官軍に寝返ることを画策していて……
いろんな経緯があって、罪人に官軍を砦で足止めさせる奇策を使うことになる。無罪にするからと。少数の罪人たちはどのようにして多勢の官軍を食い止めるのか。
荒井晴彦と絓秀実が笠原和夫にロングインタビューした「昭和の劇」によれば、彼は徹底的に取材し、詳細なノートをつくってから脚本にかかるのだという。
この作品でも、官軍に挑んで焦土と化す長岡と、寝返って生き残る新発田の比較がすばらしい。官軍、賊軍のいずれにも正義があるように、罪人たちには罪人たちのプライドがある。ラスト近く、新発田の領民が家老に「長岡のように焼け野原にならなくてよいのですね」とたずねると、慈愛に満ちた顔で家老はうなずく。
しかし、そんな彼も、何の犠牲も払わないわけにはいかなかった……
かなり複雑なプロットだけど、ストーリーの面白さは保証付きだし、白石演出も力強い。もう一本みたいのもあったけれど、もうお腹いっぱい。さあ、帰ろう。
前作「記憶にございません!」を特集したときに、三谷幸喜作品を
まあまあ……「ザ・マジックアワー」「ステキな金縛り」「みんなのいえ」
なかったことにしたい……「ギャラクシー街道」
とカテゴライズした。で、今回はネット上で「ギャラクシー街道」なみの出来、と酷評されているのだ。
で、同僚が先に見てきて
「製作費かかってないなーってまるわかり。セットがほとんどひとつしかないんだもん」
そうなんだろうか。検証してみましょう。
まず、同僚の意見は三谷自身によって否定されている。演劇的に撮ることを意識していたらしいのだ。それが、効果的だったかどうかは別にして。
ストーリーはかなりひねくれている。詩人(相田みつをあたりがモデルだろうか)のくせに大富豪(「鎌倉殿の13人」で宮沢りえに翻弄されていた坂東彌十郎)の邸宅から姿を消した妻のスオミ(長澤まさみ)。誘拐のおそれがあるとやってきたのが刑事にしてスオミの前夫(西島秀俊)、以降も遠藤憲一、小林隆、松坂桃李などが登場して、スオミは都合5回結婚していることが判明。そして彼女の印象は夫たちすべてに違っていた……
どうも前半が調子悪い。テンポがよくないというか。まあ、警察が持ってきた逆探知の器械がもんのすごくアナログで、みんなが「今でもそんなの使ってるの!」と驚くあたりは笑えましたが。
しかし後半は持ち直す。それは長澤まさみの魅力が全開だからだ。常に相手にとって都合のいい相手を演じてしまう彼女の五変化はおみごと。それからね、よけいなことだけどこの人ってどれだけ足が長いんですか。結論それですか。
確か「インファナル・アフェア」のときも言ったと思うんだけれど、わたしは潜入捜査ものが苦手。なりすます、という行為がどうにもこうにも。うちの娘もそんなことを言っていたので、血というものは争えないものなのでした。
地元作家深町秋生原作のこの映画も(原作とはちょっと変えてあるらしいのだが)アンダーカバーもの。だからちょっと見るのをためらっていたのだが、脚本と監督があの原田眞人なのである。
そして、予想以上にめちゃめちゃに面白いのでした。原田眞人のことだからセリフが気が利いているのはもちろんだけど、役者たちの動きに、微妙なツイストが加えられていてうれしくなる。
岡田准一のアクションがすばらしいのは当然としても、坂口健太郎のキレっぷりや松岡茉優の悪女ぶりもすばらしい。「検察側の罪人」で一気にメジャーになった酒匂芳など、すでに風格すら。
なんで今ごろセカチュー?と思われるでしょうけど、わたしこれ見てなかったんですよ。大げさではなく、日本映画界を変えた作品なのに。
それはどういうことかというと、この映画より前は、日本映画というのはどうにもダサい存在だと若い層は考えていたの。邦画よりも洋画を見る方がおしゃれな行為だと。
でも、このベストセラーの映画化は大成功し、日本の恋愛映画もいいじゃないかとイメージチェンジまでしてくれた(この流れに拍車をかけたのが「黄泉がえり」だった)。
わたしは原作を読んでいないので確かなことは言えないのだが、ストーリーとして無茶じゃないですか。高校生の主人公たちがやっていることは重犯罪だし、白血病の患者を台風の日に病院から連れ出して飛行機に乗せようとするなど、理屈はそれなりにあるにしろ、やさしさが足りない。
そんなことをしておきながら「助けてください!」と絶叫するなど、甘えるなと言いたい。あ、そういえばその場面を予告編で見て、見る気をなくしたんだった。
しかしそれでも、行定勲の演出はていねいだし、この作品が遺作となった篠田昇の撮影もみごとだ。脚本はなにしろ坂元裕二です。キャスティングもなかなか凝っていて、主役がまだムキムキの体形じゃなかった大沢たかお、その若いときが森山未來、友人が宮藤官九郎で、若いときが高橋一生……なんか、確かに似ているような気がします(笑)。
白血病の少女にまだ新人に近かった長澤まさみ。自ら申し出てスキンヘッドにするなど、気合いが入っているし、手足の長さをいかしてはつらつとした動きを見せてくれる。だからこそ、後半の描写がむしろ痛々しいわけだ。
これだけ大ヒットした映画だから、きっとボロ泣きさせるタイプの作品なのかと思ったらそうでもなかった。やっぱり、見てみなければわからないものだ。
これまでの三作は、すべて50億を超える大ヒット。ところが、この最新作はいきなり80億も稼いでしまったのである。どうしてだろう。
今月の事務だよりで「ラストマイル」を紹介したら、なんと4人もの職員が観ていた。日ごろおとなしい人まで事務室にやってきて
「観たんですねラストマイル……」
「きみも観たのか」
「はい……面白かったですねえええ!」
みんな絶賛状態。しかしそんななかでも一人だけ
「確かにラストマイルはよかったわよ。でもね、KINGDOMはもっとよ!」
この人は昔からKINGDOMファンなのである。そういえば、この夏最大のヒット作なのに映画館で観てないなあ。
めったにないことだけど日曜日に鑑賞。封切りからだいぶ経つのに客はけっこう入っている。
前作は多分にジョン・フォードの「駅馬車」を意識していた。まるでモニュメントバレーで撮影したかのよう。今回はまるで「OK牧場の決闘」です。戦略もからんで味がある。
オープニングから吉川晃司が強すぎるんだけど、それがあとで効いてくる。大沢たかおのそばに控えているだけだった要潤があんなことまでしてしまうのに爆笑。黒岩勉脚本は今回も絶好調だ。登場人物のアップの“順番”も計算されているし、ラストでのタイトルの出し方などみごとなもの。80億納得。
「あんまりストーリーのことは聞きたくないんだけど、今回ので原作の半分くらいはいったの?」とKINGDOMファンに。
「なに言ってんの。まだエピソード1ぐらいよ」
「え、そうなるとキャストも老けないようにがんばらなきゃ……うーん、完結前に一番最初に死ぬのって…………観客のおれかも」
長生きしなくちゃ。
極端にセリフが削られているので、あるいはセリフが錯綜しているので(つまりは現実に近い)、ストーリーはまことにわかりにくい。度重なるトンネルの描写の意味ぐらいは提示したほうがよかったのではないかと思う。
しかし演出のチカラは圧倒的だ。濃密な画面もあいまって、あっという間に時間が経っていく。説明の少なさのせいで、観客は描かれなかった部分でどんなことが行われたのかと考えこむことになる。
主演の國村隼が、まわりじゅうが素人なものだから、彼もアマチュアだと思われたというのが笑える。アマチュアといえば、河瀬直美監督が中学校の昇降口で見つけた少女が尾野真千子だった奇跡を思う。途中で監督も驚愕したのではないか、なんだこの娘はと。天才はこのようにして発掘された。