その145「新・教場」はこちら。
いきもの係というシリーズ名だけれども、当初は警視庁総務部動植物管理係というサブタイトルだった。もちろんこんな部署は現実には存在しない。
このシリーズは現在
「小鳥を愛した容疑者」(小鳥、ヘビ、カメ、フクロウ)
「蜂に魅かれた容疑者」
「ペンギンを愛した容疑者」(ペンギン、ヤギ、サル、ヨウム)
「クジャクを愛した容疑者」(ピラニア、クジャク、ハリネズミ)
「アロワナを愛した容疑者」(タカ、アロワナ、ラン)
「ゾウに魅かれた容疑者」
……の6作品が刊行されています。
かつて捜査一課で「鬼」と呼ばれた敏腕刑事の須藤は、頭部を撃たれてしまい、動植物管理係という閑職に追いやられる。そこには、薄(うすき)佳子という人間的に壊れているけれども、動植物についてだけは天才的という部下が待っていた……
いくら社会常識からずれていると須藤が指導しても、すっとんきょうな反応しか示せない薄に、次第に須藤も影響を受けていくあたりが笑える。須藤が薄の能力を認めるのとシンクロしているのね。
動物についてのうんちくが満載で、しかもミステリとしてしっかりしている。さすが、劇場版名探偵コナンの脚本を何作も書いている大倉崇裕だ。
え、このシリーズはドラマ化されているの?須藤と薄は誰がやったのかな……ええええ、渡部篤郎と橋本環奈ぁ!?それに寺島進と浅野温子がからむのか。
見なきゃ。
その147「こちら空港警察」につづく。
その141「黒石」はこちら。
横山秀夫の原作はもちろん読んでいる。鑑識を主人公にすえるという発想は、ドラマとして絵面が地味ではないかと懸念される。でもテレビ朝日は「科捜研の女」にしても、そのあたりをクリアする自信があったのだろう。わたしはテレ朝のドラマは苦手なので見ていなかったけれども。
さて、そのテレ朝と歴史的に関係深いのが東映だ。東映といえば昔は時代劇中心の会社だった。その伝説は生きています。内野聖陽だけではない大仰な台詞回し、最終的にお涙頂戴で観客を納得させる展開……この劇場版はまさしくそのとおりの作品。だからこそ高齢者が多いとされるテレ朝ドラマの視聴者たちは安心して見終えることができるわけだ。
その143「可燃物」につづく。
その140「香港警察東京分室」はこちら。
それはシリーズ最凶最悪の殺人者――。
冷酷な〝敵〟認定で次々に出される殺人指令を受け、戦慄の手段で殺人を続ける〝黒石〟。どこまでも不気味な謎の相手に、新宿署・鮫島刑事が必死の捜査で挑む!(Amazon)
……もう三十年も続いている新宿鮫。累計800万部のベストセラー。光文社にとっても大沢にとってもお宝のシリーズだ。
さてこの第12作は、新宿鮫第Ⅱ期の最終作という位置づけだろうか。
第Ⅰ期は、警察内部の秘密を託されたためにキャリアでありながら新宿署から異動もできず、警部のまま出世もできない鮫島が、孤高のなかで正義を貫いていく展開。しかし鮫島を認めている桃井という上司と、ロックシンガーの恋人(じゃまでしたけど)が彼を支えてもいた。第Ⅰ期は恋人と別れ、桃井が殉職するという形で幕を閉じる。
第Ⅱ期は、中国残留孤児三世たちが組織する「金石(ジンシ)」と呼ばれる犯罪ネットワークとの攻防。その緩やかな組織内に潜む暗殺者が黒石。花崗岩を含む凶器によって脳天を叩き潰すという残虐さ。はたしてどんな武器なのか。
残留孤児が日本でどのように遇されたか、その悲しみが背景にあるので、単なる勧善懲悪ものにはなっていない。シリーズ最高作だと思っている「毒猿」への言及もちゃんとあります。
前作「暗約領域」でもそうだったが、女性上司とのやりとりなど、鮫島の態度はとてもオトナだ。おそらく大沢在昌は、警察官とは、あるいは公務員とはこうあるべきではないかという理想を鮫島に仮託しているのだと思う。新作、お待ちしております。
その142「臨場 劇場版」につづく。
その139「外事警察」はこちら。
香港国家安全維持法成立以来、日本に流入する犯罪者は増加傾向にある。国際犯罪に対応すべく日本と中国の警察が協力する……
直木賞候補作にして、落選してしまった作品(笑)。読み終えてつくづく思う。こりゃあ受賞できないと。なぜなら、面白すぎるから。
設定は機龍警察に劣らず奇天烈で、他のセクションから侮られているのもいっしょだ。現代の国際関係を奇天烈な設定だからこそリアルにぶちこんである。
香港警察東京分室とは一種の侮蔑語で、癖の強い厄介者が集められているのだが、日本側も香港側も、冷静で有能な上司のもと、熱血な刑事たちが事件を通じて連携を深めていく。
ある意味、類型的ともいえるキャラクターをそろえていて、だからこそ娯楽小説として安心して読み進めることができる。まあ、この安定ぶりも直木賞向きではなかったかも。
その141「黒石」につづく。
その138「爆弾」はこちら。
あれはなんのドラマの番宣だったんだろう。「ケイゾク」だったかな。ローカル局のために、オンエアする局ごとにCMを作成するパターンってあるじゃないですか。山形であれば「TUYで」とか。主演女優がせいいっぱいがんばっているのに、そばに立っている渡部篤郎は、よほど眠かったのであろう、もうろうとして今にも倒れそうだった。これ、放送事故じゃないかと思うようなレベル。プロ意識ないのか渡部!(笑)
しかし「外事警察」における渡部篤郎はプロ意識のかたまり。スパイ天国といわれる日本を、水際で守っている感じをうまく出していた。
外事警察……ソトゴトと呼ばれる彼らの捜査手法は、「協力者」という名の情報提供者を“運営”することだ。
しかしその協力者が暴走を始め、ソトゴトたちが翻弄されてしまい……しかしそう見えて実は、な展開はさすが古沢良太脚本だ。むやみに面白かったっす。確かに、その男に騙されるなだよな。あ、ちょっとネタバレ。“その男”とは誰かが最後に明かされる。そう来たかあ。
ソトゴトに尾野真千子、片岡礼子、北見敏之、滝藤賢一、渋川清彦、山本浩司……渋いところをそろえたなあ。誰が裏切り者であってもおかしくない感じがいい。
協力者はドラマ版が石田ゆり子、映画では真木よう子とこれまたいい感じ。上司が石橋凌で、内閣官房長官が余貴美子。彼女のメイクが誰かをモデルにしているのがまるわかりで笑えました。
その140「香港警察東京分室」につづく。
その137「暮鐘」はこちら。
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」
警察は爆発を止めることができるのか。(講談社BOOK倶楽部)
……「このミステリーがすごい!2023年版」第1位を獲得した作品。わたしはこの人の江戸川乱歩賞受賞作品「道徳の時間」に懐疑的だったので、彼の作品を久しぶりに読む。
とてもよくできたお話だし、動画サイトの使い方も画期的だ。なにより、何を考えているのかわからない容疑者が、次第に魅力的に見えてくるあたりの仕掛けがすばらしい。
ただね、ないものねだりかもしれないけれど、結末はひねりすぎじゃないですか。
その139「外事警察」につづく。