前号繰越。
1962年の第一作から2006年の新作まで、44年間で21本の007シリーズがあるわけだから、平均すれば2年に一本は製作されていた勘定になる。ところが、途中でずいぶんと間が開いてしまっている時期がある。89年の「消されたライセンス」と95年の「ゴールデンアイ」、そして02年の「ダイ・アナザー・デイ」と06年の「カジノ・ロワイヤル」の間だ。共通点はどちらも主役が交代していること。五代目と、六代目選びが難航したのだ。
三代目のロジャー・ムーア(27年生まれ)は、初代のショーン・コネリー(30年生まれ)よりも年長で、彼の最終作「美しき獲物たち」のときは58才にもなっていたし、最初からアクションは苦手だったから主役の交代は必然だったろう。おかげでスムーズに四代目のティモシー・ダルトンに移行したようだ。でもそのダルトン主演の二作がヒットしなかったことで大騒ぎ。6年の空白の後、結局はダルトンに決まる前に候補に上っていたピアース・ブロスナンがボンド役をひきうける。彼のボンドは好評だったが、しかしそのブロスナンの降板劇は奇々怪々だった。さほど観客動員が落ちたわけでもなく、特にイギリス人に人気のあったブロスナンがなぜ降ろされたのか、あるいは自分で辞めることにしたのか、諸説あってわけがわからん。ギャラの問題もあったらしいし。しかもその裏では、製作会社のMGMをソニーが買収する(実はソニーはブロッコリ家とは別のところで007を作ろうとしていた経緯がある)動きが微妙に影響したようで、バーバラ・ブロッコリもかなり苦労したことだろう。
そんななか、新作「カジノ・ロワイヤル」のボンド役には数多くの男優がリストアップされた。有名どころではユアン・マクレガーやヒュー・ジャックマン、エリック・バナやブロスナンの復帰まで。もっとも信憑性が高くて、わたしも彼ならいいんじゃないかと思ったのはクライブ・オーウェン。今までのボンドのイメージに一番近いし、「ピンクパンサー」の新作や「ボーン・アイデンティティ」でも諜報員の役をやっていて、これがかなりよかったから。身長も189㎝!しかしバーバラが選んだのは“金髪で”“変な顔”“華のない”と散々な言われようのダニエル・クレイグだったのだ。「ミュンヘン」の工作員役とか、ひたすら地味でエキセントリックなイメージの強いあんな俳優を?だいじょうぶかバーバラ!
ところが……
PART6につづく。