本領発揮。今日は2005年のただ飲んだだけのネタ。
山形の酒がどんなコンセプトで造られているかのPRみたいになってるかも。いやしかしわたしは子どものころから初孫で育ってるから。
先日の飲みはほんとうに勉強になった。右隣には丸坊主の中年。内陸弁(伏線)で「檀家まわりしてきたんだ」とか女将に言っている。
左隣は穏やかな中年営業マン。県下最大の出荷量をほこる蔵元「初孫」の社員。サトーさん。
わたしが通う焼鳥屋(チキンも食えないくせにいつもそこで飲んでいる)は、向かいにある料亭が多角経営(笑)をめざして開店したものだが、そこの亭主(ほとんど常にカウンターで飲んだくれている)が営業マンに「ほら、この酒瓶を見ろよ」と、広島の賀茂鶴とかいう冷酒の2合瓶を指さし、「おしゃれだろ?初孫もさあ、こういう商売をしてくれよ」と因縁をつけている。
「うまいんだぞこの酒。ホリさん、ほれ、飲め」ラッキーにもわたしと隣の坊主にもすすめてくれる。おー確かにうまい。その後、わたしは亭主そっちのけで営業マンに初孫についてのレクチャーをうける。この会社の営業方針はほんとうに保守的なのである。
「今、ウチの会社が十里塚に引っ越したのはね、あそこの水がいいからなんですよ。」
「へーえ。確か軟水がいいとか硬水がいいとか言いますよね。」
「あそこの水はね、ちょっと軟らかいんですよ。まろやかなんだな」
こんなマジな話をしていると、隣の坊主は
「お兄ちゃん、そんな真面目な話ばっかりしてたらいかん」とからんでくる。
「え?あ、すいません」(わたしはからまれやすい体質。どんな話をせいっちゅーねん)
「まあ、あの水源地はウチの空瓶置き場だったんですけどね」マジな話は続いてしまう。坊主が怒っちゃうじゃないか。
「お兄ちゃん勉強家だねえ」あ、怒ってないや。じゃあ存分に。
「どうしてそこの水がうまいって気づいたんでしょう?」
「うーんどうしてかなあ。先代がね、大バクチで掘ったんですけどね」ひょっとして地代がタダだからじゃないのか。そんなツッコミは口にせず、話は『桶買い』の方向へ。
「え?桶買いをご存知ですか。そうなんです。昔はこのあたりの『上喜元』さんとかから(桶ごと)買ってたわけですよ。でもね、それはウチが出荷を確保するためなんだって言うのは一方的すぎますよ。向こうにとっても悪くない商売だったんですから。」
「なるほど」
「それにね、今ウチは桶買いは一切やってませんから。全部自前に移行してるんですよ」
「あ、そうなんですか。」
「ウチは今ね、東平田の方に出羽燦々(でわさんさん)っていう酒米を栽培してもらってるんですけど、そちらの生産組合の方々にはね、こう言ってるんです。『(10㌃あたり)7俵しか穫ってくれるな』って」
「そりゃきびしい」
「ホントなら農家の人たちって10俵は穫りたいものなんでしょう?でもね、ウチが必要なのはモミ重量の大きいヤツなんです。多収穫なんかされたら……でもこちらでは10俵獲れたのと同じぐらいの保証はしているわけで」
「ほう」
「そこまでしてウチは地元にこだわっているんです。地産地消ですよ。桶買いなんかとてもとても。それにね、わたしたちが今すすめているのは純米酒です。」
「ああ。(アルコールが加えられていない)米だけの酒ってヤツですね」
「そう。吟醸とか大吟醸っていうのは、モミをどれだけ削ったかで判定されるんですよ(ここからものすごく細かい数字をバーッと開陳される)。吟醸で純米酒なのは純米大吟醸。吟醸でもアルコールが添加されているヤツもあるんです」
「へー。高級酒なのにですか?」
「“アコ入り”ってわたしたちは呼んでいるんですけどね」
「あ、わかった。その方が実はおいしいんじゃないですか?」
「……昔はそうでした。でも今は違います!ここが技術が進歩したところなんですよ!」
サトーさんそんなに興奮しなくても。彼の言うにはこういうことなんだそうだ。米だけで酒を造ると、どうしても重くなってしまう。アルコールを添加した方が、あっさりした飲み口になる傾向はあるんだと。でも杜氏たちの研究によって、米だけでもずいぶんとサラリとした飲み口になるように改良されたのだということだった。
「初孫の杜氏って、どんな人なんです?」
「あなたと同じぐらいの年齢じゃないかなあ。」
「オレ、45才(当時)ですけど」
「あ、やっぱり。彼も昭和三十年代生まれですから」
【なんか、らしくなくビジネス談になってる。つづく!】