わたしが昔大好きだった女優ロザンナ・アークェット(TOTOの『ロザーナ』は彼女のことを歌ったもの)が、一本のドキュメンタリー映画を撮りあげた。タイトルは「デブラ・ウィンガーを探して」SEARCHING FOR DEBRA WINGER。タイトルはロザンナの代表作「スーザンを探して」DESPERATELY SEEKING SUSANにひっかけてある(と思う)。
あの「愛と青春の旅立ち」「愛と追憶の日々」(名作!)「シェルタリング・スカイ」でハスキーヴォイスが印象的だったデブラが、なぜ引退(完全な隠居ではない)してしまったのかをロザンナ自身が多くの女優たち(34人!)にインタビューすることで追うコンセプト。
ウーピー・ゴールドバーグ、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、ローラ・ダーンなどが、妻であり母であり、同時に女優であることのむずかしさを語る。印象的だったのはショーン・ペンの妻、ロビン・ライト・ペン。
「わたしは仕事を年に1本にしぼっているの。だから、いい脚本だと思っても、家庭を優先して断ることもあるわ……でもね、完成したその作品を観ると別の人が演じているわけよね?『わたしの役』を。そんなとき、わたしはすごく嫉妬してしまうの。それはもう、どうしようもないほど。」
ジェーン・フォンダのコメントも重い。女優の本質を突いているのだ。
「わたしのキャリアをふりかえると、そんなに数は多くないんだけれど(8回くらいかしら)“凄い”と思える瞬間があるの。やりがいのある映画で、とてもむずかしいシーンを演じきったとき、それを感じたわ。セックス?くらべものにならないわよ(笑)」
しかしこの苦しみ、喜びがありながらも、いまも十分に美しいデブラ・ウィンガーはあっけらかんと語る。
「(引退を)全然後悔していないわ。女優に未練はないの。この家にいることに完全に満足している。」
共演したリチャード・ギアを「レンガの壁を相手に演技をしているようだった」と切り捨て、大先輩のシャーリー・マクレーンを「自己中心的」と評価した(言うか?普通)毒舌ぶりは健在だ。デブラに限らず、役をゲットできるかが、実力よりもFuckable(やれるか)であるようなハリウッドへの嫌悪感は多くの女優が語っている。
しかしそのことの是非をこの映画は論じているわけではない。芸能一家に生まれ育ったロザンナが、生き方に(他の業種のはたらく女性と同じように)迷い、悪戦苦闘する『あがき』こそがこの作品のキモなのだろう。
デブラのような選択に限らず、いつの間にか、あるいは派手に消えていった有名人をこれから不定期に語っていこうと思う。次回は時任三郎だ。お楽しみに。