あの「稲中卓球部」の古谷実がギャグを封印して人間の暗部を徹底的に描いた漫画が原作。監督の園子温は、そこに東日本大震災被災地の荒涼たる風景を挿入し、登場人物たちの心象風景として提示している。
主演は染谷将太と二階堂ふみ。2人そろってヴェネツィア映画祭で新人賞を受賞している。これはもう見てもらえばおわかりのように、納得の演技だ。
どちらも親に愛されず、虐待を受け続けるふたり。染谷は父親を軽蔑し、自分は普通の人間になろうと決意している。母親からネグレクトされている二階堂は、そんな染谷を尊敬し、まるで“母親のように”彼の世話をする。そこへ闇金業者がかかわり、二人の生活は揺らいでいく。
染谷の父親役は光石研。にっこりと笑いながら息子に「死ね」と告げる演技が怖い。母親はわたしの大好きな渡辺真起子。男に頼らないと生きていけない崩れた様子がいい。
二階堂の母親は、園子温作品ではおなじみの黒沢あすか。やはり娘に死を強要する狂いっぷり。
その他に吹越満、園監督夫人の神楽坂恵(また巨乳が強調されております)、吉高由里子(彼女のデビュー作は園監督の「紀子の食卓」だ)、窪塚洋介が二人を取り囲む。
そして「冷たい熱帯魚」で冷酷な殺人者を演じたでんでんが闇金業者役で今回も怖い怖い。いるよ、こういうやくざ。
園子温演出はまことに快調。ほとんど常に雨を降らせ、主役ふたりは泥まみれになる。被災地を映したシーンにわずかに被さるガイガーカウンターの音が、染谷が住む池のほとりのカエルの声ににじんでいくあたりの編集はわざとだろうか。
けれん味たっぷりの演出だけに批判も多かったようだ。しかしわたしは満足した。暗い話だけどめげずに最後まで見て本当に良かった。傑作です。