表題作はあの中島敦の「悟浄出世」と「悟浄歎異」を下敷きにしたらしい。さっそく青空文庫で読んでみました。常に傍観者である沙悟浄が、玄奘や悟空を見つめながら自分が次第に行動者となっていく決心がつづられている。すばらしい。
万城目はそこを、快楽主義者である猪八戒がかつて無敵の将軍であったという事実から、自分を変えていこうとする物語をつむいでみせた。これもまたすばらしい作品となっている。
他にも、始皇帝暗殺未遂事件、項羽と虞美人の最期、宦官となった司馬遷の意地、三国志においては二線級あつかいの趙雲の心のなか……みんなが知っているようで知らない(というか万城目のオリジナルがたいそう仕込まれている)中国の故事が魅力的に語られている。
これまで、
京都(鴨川ホルモー)
奈良(鹿男あをによし)
滋賀(偉大なるしゅららぼん)
大阪(プリンセストヨトミ)
三重(とっぴんぱらりの風太郎)
と関西を描いてきた万城目が、壮大なエピソードにことかかない中国に作品をシフトさせるとすれば、期待したくなるじゃないですか。っていうかこの作品集で直木賞は決定?宮城谷昌光と浅田次郎の意見がキーになるんだろうなあ。