創作日記&作品集

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連載小説「Q」12

2020-04-20 06:04:58 | 小説
連載小説「Q」12
振り返っても山並みが見えるから、盆地であることが分かる。
スマホで見ると背後に見えるのが二上山、右手に大和三山、正面が三輪山。
車一台がやっと通れる細い道の南側は田んぼと畑である。
川を隔てて北側の田んぼの向こうに疎らに農家が見える。
農家なら話を聞いてくれるかもしれない。
しかし、それはダメだ。会社の指示は明生団地である。
彼は、橋の欄干のそばに腰を下ろして、貴重なスポーツドリンクを飲んだ。
ただ汗になって吹き出すだけだけれども。
橋のそばに地蔵がいた。
綺麗な花が供えてある。
スマホで地蔵を探すと、それぞれの橋のたもとには地蔵がいるようだ。
旧農村なのだろう。
明生団地に地蔵はいない。
手を合わせると、地蔵が微笑んでいるように見えた。
一息ついたら、また、蝉の声が夕立のように落ちてきた。
ここにこうしていても埒があかない。
彼は引き返すことにした。
連載小説「Q」#1-#10をまとめました。