
夏の三ヶ月は休暇を願い出て宇治で過ごすことにしている。
夏は仕事にはならない。

歌を詠むのも恋をするのも

俺は板敷に筵を敷いて飾りばかりの御簾を下ろし一日寝っ転がっている。
川風が心地よい。下女に団扇で風をもらうのもまたよい。
だが、あまりにも退屈なのも確かだ。

二つに分ければ男と女だろう。
もう二つに分ければ大人と子供、もう二つに分ければ……。

一つの命をもち、一つの頭を持ち、一人で死んでいく。
はかないと言えばはかないが、面白いと言えば面白い。
下女の尻を蹴飛ばせば、素っ頓狂な声を出して笑い、決まって流し目を俺に送ってくる。

そんなことをしても退屈は相変わらず居座っている。
下女に、「何か面白い話はないか」と聞いてみた。つ
まらない話が返ってくるかと思いきや、意外に面白かった。
鬼にこぶを取られた爺さんのことで、その爺さんを下女はよく知っているという。
そんなおもしろい話を聞かずに一生を終えたらなんともったいないことだった。

そんなわけで、目の前を通り過ぎるやからからも、面白い話が聞けるかも知れないと思ったのだ。
『面白い話を聞かせてくれた者には菓子をやろう』とでも張り紙をさせようかと思ったが、字の読めぬ者もいる。
人を仕事や身分で選びたくない。面白い話は下の下の人間でも知っているかも知れない。
俺は面白い話を聞きたいだけだ。
そこで気のきく小舎人童に、
「通りがかりのやからから面白い話を知っている奴を連れてこいと」と命じた。
小舎人童がどんな手を使ったのかとんと分からないが、
女、子供、坊主、侍、盗人、多種多様な人間がこれまた多種多様な面白い話を語った。
そんなおもしろい話を聞かずに一生を終えたらなんともったいないことだったろう。
それに、俺だけが楽しむのはもったいない。後世の人間も楽しませたい。俺もやがて死ぬから書き残しておこう。
誰も読まないなら、それまでだ。
その中で一番笑ったのは、「金玉」の話だ。
お下劣な話というなかれ。
この話を思い出すと、また、笑ってしまう。
笑っている時、人間は幸せなのだ。
さて、その話とは……。
以下次回。


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