散日拾遺

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ウマの思い出、ハメの忠告

2019-11-04 13:58:29 | 日記
2019年11月4日(月)
 11月の田舎は好天続き、朝夕は寒いが日中の日差しは強い。
 Tさんが、わが家の田で穫れたお米をもってきてくれた。形式的には小作料とか年貢米とかいうことになるが、もちろん力関係が往時とは違う。田を遊ばせておくのもつまらないし、放棄したら荒れてしまうので、機械や人手のある家に頼んで作ってもらう。今はそんな時代である。Tさんは僕より9つ年長で、立派な息子さんが近隣に三人住んでいる。河野川沿いの10件ほどの集落で、次世代の影があるのはT家とうちだけである。
 「寂しうなったわい」とTさん。
 「昔はお宅の親父さんに言われて、馬を乗り回したもんじゃった』と父。
 18歳の夏に信州小諸で武装解除になり、汽車を乗りついで無事帰還したのが昭和20年9月2日。
 当時、T家は馬を飼っていたが、世話をする人手がなかった。歩兵将校ながら馬の扱いを心得ていた父に、T家の先代が馬の世話を頼んだのである。馬が嫌いでもない父は、藁で馬の背をこすってやったり近隣を歩ませたりしたそうで、その途次に母のを尋ねたこともあるらしい。騎乗の君の来訪なんて、なかなかロマンチックではないか。戦争に負け、空きっ腹を抱え、どっこい立派に生きている。存命ノ喜ビ、楽シマザランヤ。
 その先代さんが一夜で急逝したのが48歳、Tさん小学4年生の時という。
 「心臓が悪かったんか?」
 「卒中よ、今なら何とかなったんじゃろうけれどもなあ」
 その後、女手一つで子どもたちを育ててくれた御母堂が、22日に他界されたのである。
 「まあ、100歳も超えとったから、不足は言われん。」
 「いくつになっても、親は親ですから。」
 「それはそうじゃ、寂しいわい。」

 長靴に麦わら帽、手に鍬を持つのを見て、去り際にTさんが言った。
 「昼なかはハメが出るけんな、草むらに入るときは気をつけんといかんよ。こないだも前の道で車に轢かれとった。」
 ハメとはマムシのことである。ハメの音がハブやヘビに似ていることを、以前当ブログで話題にした。snake に関して「くちなわ」がより一般的で中立的な古名、そのうち特に毒性の強い危険なもの ~ ハブ、マムシ、ヤマカガシの類を総称して「H・B・」あるいは「H・M・」と呼んだというのが愚説である。
 そのハメが、朝夕は気温が低いのでおとなしくしているが、日中気温が高くなると活動に出るというのである。少し前に、わが家の山側のSさんが他界されて空き家になっている。歯止めがなくなった分、マムシの活動域が接近していると考えなければならない。
 土地の人の助言に無用のものはない、用心しよう、ハメを外さないように。
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