(八重山カヤックトリップの記事の続きです)
西表島の突き当たりの集落、白浜から出艇すれば島南西部の無人の自然フィールドをたっぷりとパドリングすることができます。仲良川、クイラ川といった、河口部にマングローブ樹林をたずさえた原始の香りのする川を遡っていくこともできますし、その支流に入っていって亜熱帯植物群の濃密なにおいをハートに染み込ませることもまた、非常に趣深いです。 海のほうに出れば外離(そとぱなり)島、内離(うちぱなり)島といった無人島の周辺から、さらに南西部の網取、崎山といった美しいサンゴ礁と無人のビーチが素晴らしいエリアまで、本格ツーリングすることができます。
西表南西部は、ワールドワイドに通用する魅力を持った、屈指のカヤックフィールドといえるでしょう。分かる人は、だいたい地形を見ただけで分かります。
ただ、ぼくが滞在した2月頭くらいというのは最も北風の強い季節で、実際、毎日毎日強風がかなり吹いていたので、「サバ崎」という岬から南西のエリアは漕ぐことができませんでした。夏場、台風さえさけることができれば、カヤックにテントを乗せて1週間くらいキャンプするのが最高でしょうね。
ここではまず現地のツアーガイドに案内をお願いしました。一箇所だけではなく、南西部のエリア全般について色んなことをお聞きしたかったからです。また当アイランドストリームのお客様で「西表島に漕ぎに行きたいです」というリクエストがあった際、即座に紹介できる現地ガイドさんがいたらありがたいですので、そういうご挨拶も兼ねてツアー参加させていただきました。
案内していただいたのは、西表島と石垣島両方にベースを持つツアー会社「ちゅらねしあ」の飯田さんというガイドでした。飯田さんは以前には広島でシーカヤックツアーガイドをされており、また国産シーカヤックメーカー「ウォーターフィールド」でカヤック製作に携わったご経験もある人で、西表島在住歴は長くないものの、本物のシーカヤッカーとしてすごく頼りになる人でした。今回、海況がよければ網取・崎山といった海岸線、悪ければ仲良川にしましょうということでしたが、案の定強い北風のため、結局仲良川のツアーになりました。オフシーズンということもあり、この日はぼくだけでした。
↑ 白浜の港エリアを出てしばらく行くと仲良川の広い広い河口付近に出てきました。ここは干潮になると干潟になり、トビハゼなどがピンピン跳ね回っているゾーンでもあります。これだけ広いと風景全体の遠近感がつかみ難く、漕いでも漕いでもなかなか進んでいる気がしないものなのですが、そこはフォールディングと違ってこのカヤック・・・、ウォーターフィールド社の「マリオン」と言いまして、長さ5.4mもあり、色んな人が冒険旅行に使った実績を持つFRP製本格シーカヤックでして、あっちゅう間に進んでいきました。ちなみにマリオンは当アイランドストリームでも一押し艇として販売しています。よろしく。
↑ 川幅の広いゾーンはたいていマングローブ樹林となっています。オヒルギ、メヒルギ、ヤエヤマヒルギがよく見かけるマングローブ植物ですが、こういう細い手がたくさん水底に伸びてるやつはヤエヤマヒルギです。
↑ 高速艇を使用し、同業者が2人だけで漕いでいるとさすがに、ペチャクチャしゃべりながらでもいつの間にかズンズンズンズン進んじゃっています。時折手を止め、肌身に植物の香りをしみこませるかのように、目を閉じ、深呼吸したりしました。その空気感と言うかフィーリングは、熊野灘沿岸の初夏の感じに非常に良く似てるというか、デジャヴみたいなものを覚えました。
↑ 水際にせり出したアダンの木。ワイルドでよい。
↑ 日傘みたいになった植物が、ヒカゲヘゴだ。とにかく植物の密度が濃ゆいですね。
↑ 河口から約6キロほど漕ぎあがると、このような清流域に行き着く。だんだん岩がごろごろし始め、これ以上いけなくなったところで上陸します。上陸し、ちょっとした更地の空間でお昼をいただき、その後トレッキングで幻の滝と呼ばれる「ナーラの滝」を目指します。
↑ ここのところずーっと雨が多く、ちょっとした小川も水量が軒並み増していました。ここは本当に水の豊かな島です。黒潮の通り道、海流の中の島。湿度が高くムワーッとした空気。植生密度の濃ゆさ・・・、ますます初夏の熊野灘沿岸域と同じにおいがするなと思った。
↑ この飛び散った鳥の羽は、イリオモテヤマネコにやられたものかもしれない、とガイドの飯田氏はおっしゃっていました。イリオモテヤマネコはもう約100頭ほどしか生息しておらず、絶滅の危機に瀕しています。
↑ こういうシダ類の獰猛な生え方がいい。
↑雨でどろどろになった山道を歩き、30分ほどすると滝が現れる。ここの滝の現れだし方というか、見え出し方がいいなと思いました。
↑ とにかく雨でパドリングシューズはつるつるすべりましたが、ガイドの飯田氏は便所用ゾウリみたいなゴムゾウリでスタスタスタスタっと歩いていきます。その軽い身のこなしはまるで猿のようでした。飯田さんはツアーのない日には、イノシシ猟も手伝っているそうで、20キロものイノシシを背中に担いで山を歩きまわるそうです。その時も、そのゴムゾウリ使用だそうです。グリップ感が最高だそうで、トレッキングシューズも地下足袋も沢用シューズも全く履かないらしいです。・・・参りました。
↑ 幻の滝という異名をとる、ナーラの滝。それほど落差があるわけではないけれど、気品があっていい滝だと思います。夏は滝つぼで泳ぐのが最高でしょうね。
仲良川のツアー、素晴らしいです。往復約12キロと、初心者の方にはちょっと距離を漕ぐことになりますが、トライしてみる価値はあります。マングローブ、川、滝の神秘感は、西表島でも屈指といえるでしょう。