12月初旬、台湾南東部の離島、蘭嶼(らんゆう)島へ。
ポリネシア、メラネシア、ミクロネシアといった環太平洋の人々の大元のルーツは、台湾原住民が主を占めるというのが人類学上でも通説となっている。台湾あたりから5000年ほど前にカヌーで船出した人々が、何百世代のあいだに太平洋の島々に散らばっていったというわけだが、16部族が現存する台湾原住民の中で、今でも海に生きる民が、蘭嶼島のタオ族の人々。
彼らが乗るカヌーがチヌリクラン。
タオ族に生まれたシャマン・ラポガンという海洋作家がいる。この島の波音と潮風と雨粒に身をさらして、彼の作品「冷海深情」を精読するのが、この旅の一つの目的だった。
あえて天気がよくない方がよかった。
「厚い黒雲が島全体をすっぽり覆っていて、大海原は夏の、人を魅了する濃紺の眺めではなく、冷たさと寡黙さを感じさせる灰色だった。しかし、わたしは、この陰鬱な天気を最も愛していた」
というフレーズが、
「海は、生命があり、心がある、やさしい最高の恋人だ」というフレーズと呼応してポリリズムとなり、その鼓動が、波音とシンクロするように感じられるから。
自ら素潜り漁をしながらタオ族の日常を描き、そこから先祖代々つたわる彼らの自然観が透かし見えてくるシャマンラポガンの作品は、今の時代にきわめて価値があると、改めて思った。
また他所をあちこち見て回って、台湾原住民の若いアーティストたちのあいだで、環太平洋文化の繋がりに関して、またそこから派生する文化のクロスオーバーや、エコロジー思想や、精神性などについて、結構意識の高まりの気運があるように感じられた。
今の地球に生きていて、まともに物事を考えるならば、それは当然のこと。