プリミティヴクール

シーカヤック海洋冒険家で、アイランドストリーム代表である、平田 毅(ひらた つよし)のブログ。海、自然、旅の話満載。

愚かなものよのう

2021-04-14 17:18:00 | 海がたり 黒潮ストリート
 放射能汚染水海洋放出の件、ほんとガクっとくる。マスコミも漁業関係の風評被害うんぬんの問題に閉じ込めてるけど、実は日本文化とか日本人の自然観とか環太平洋黒潮文化の価値観とか、そういうスケールの問題。それから東京湾や大阪湾に流せとかいう意見もナンセンス、海を尊ぶ自然観はどこにいったのか?

 汚染水ではなく処理水という言葉に替えているけれど、流す物質の総量は同じなわけで、また希釈して流すといっても海水の総量スケールからしたらそのまま垂れ流すのも同じなわけで、汚染水には変わらない(物質を化学分解して消すわけじゃないから。そうなるには数万年かかる)。

 加えて、炉心溶融して地中深く高濃度に汚染された土壌が地下水により海に流されている状況を調べようがなく(入っていけないため)、その件にも10年間ほとんど触れられていない現状、また学校で誰もが習ったはずの「生物濃縮」という観点がなぜか無視されて、額面の値だけしか触れられない状況、また海流とは複雑怪奇なヌエのような動きをするもので、福島沖の水も反流分流の作用により西日本や南日本にもやってくるというのに福島限定の話に閉じ込めようとするメディアの言説など(根本的な海の知識がない)、色々おかしいなと違和感を覚えるし、そういう違和感を感じなくなったら、アウトドアマンとして終りだと思っている。

 何本か前の記事で海と陸は水によってつながっていることについて書いたけれど、つまりはそういうことで、水を汚染させること、汚染した水を流すことは罪なのよ。海に流せばどこか遠い関係のないところに消えうせるように思いがちだけど、その実、身体の一番深い内部に返ってくるわけ。なぜなら人間もまた7割以上海水と同じ成分でできているから。そして海水は2000年かけて実際に地球一周する媒体であり、その過程で70億の人間の内外にも出入りする。

 外部に汚染を垂れ流せばやがて内部に返ってくることは、日本人は水俣病やイタイイタイ病の教訓に学んでるはずなんだけどね。自然と共生する持続可能な生活スタイルが1万年以上続いた縄文時代の文化的断片が未だに残るうえ、原爆投下や公害や原発事故の苦しみを経た21世紀の日本こそ、世界に向けた未来への持続可能性のビジョンを指し示すことのできる立場であり、考えようによってはこれ以上ないチャンスでもあるのに、最悪の手を打つことになるわけだ(科学者や専門家にはなぜか、そういう全体へのまなざしがない。タコツボ化した専門性を追う要素還元主義思考だから。そして政治家や官僚は基本的に徹底的な自然音痴。音痴が武道館でコンサートするようなもの)。福島の風評というレベルではなく、日本という国家ブランドイメージとして最悪のチョイス。

 実に愚かなものだと思う。まずはこの愚かさをきちんと愚かだとその違和感を意識し、表明することこそが、カヤッカーやサーファーやsupに携わる人間の自然な姿であると私は考える。

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未来への航海術

2021-02-03 19:29:39 | 海がたり 黒潮ストリート

 毎日新聞連載コラム「シーカヤックで地球再発見」、今回は先日発売した新刊「黒潮ストリート」について書いています。海旅のかたちをとりながらも、その航海術は現代社会や文明のあたらしい道をさぐってゆくことの比喩でもあり、実のところのテーマは「文明論」です。で、それでいながら紀行文学という作品。

 まあ、ぼくの書く本はふだん本をあまり読まない人や自然にあまり親しみのない人は一回読んでも読み取れないかもしれませんが、逆に何十回読んでも飽きずに新しい発見がある作品を目指して、編集者の方とともに作り上げています。今の時代の紙の本の役割って、そういうものだろうと。逆に30分くらいでささーっと読み切れるようなものは、電子書籍で出していきたいと思っています。

 本作品のアマゾン販売ページはこちら。
 https://www.amazon.co.jp/dp/4910154124/
 よろしくお願いします。


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海がたり 黒潮ストリート 本日発売

2020-12-24 11:08:44 | 海がたり 黒潮ストリート

 メリークリスマス!!
 当店代表、平田 つよしの2作目の著書、「海がたり 黒潮ストリート」(「黒潮ストリートの知恵」より改題、ぷねうま舎刊)が、本日12月24日に刊行されました。

 全国の大きな書店で買えますし、またアマゾンでも購入できます。
 アマゾン紹介サイトはこちら 
https://www.amazon.co.jp/dp/4910154124/

オビの文言は下記のとおりです。

『──心の眼で捉えた、黒潮のメッセージ──
カヤック冒険譚、くろしお物語。カヤックを突き上げる波、踊らせるうねり、海のラーガ(旋律のうねり)とビートに身をゆだね、嘘のない生命感と繊細な身体感覚を研ぎ澄ませて、「海」をかたり、文明の危機と向き合う。

延べ三千日以上、黒潮の海と対話し続けてきた冒険者による、壮大なスケールの黒潮文明論──紀州・熊野から出雲、九州西岸(平戸島、五島列島、甑島)へ、そして奄美から琉球へ、その道は列島の自然文化と歴史の成り立ち、さらには祈りと祭りの起源をたどる「いのちの海旅」であった。原発事故やコロナ禍が語る人類史的な危機を乗り越えるための、黒潮回廊のヴィジョン』
という紹介文です。

 なお、本作は前作「インスピレーションは波間から」(めるくまーる社)と対になった作品で、前作はアジア〜太平洋諸島〜東アフリカを舞台にした地球紀行でしたが、本作は日本列島の黒潮流域が舞台になっています。カヤック旅を主とした紀行文学ですが、カヤックを漕ぐことは「目的」というより、「手段」と言った方がよく、言うなれば裸の感性で自然の懐に入り込んだ詩的感覚や直観を「縦糸」に、そして原発事故やグローバル資本主義、民族や宗教の分断、コロナ禍といった現代世界の諸問題にたいする考察を「横糸」に、ひとつのタペストリーを編むように、またストリートの語り部のようにかたった、未来志向の作品です。
 「物語」というより、「語りもの」といった感じでしょうか。

 アウトドアガイド/シーカヤッカーの余技ではなく、あくまで一作家としての自負を持って書いた作品です。逆にだからこそ、より深いカヤック礼賛、アウトドア礼賛にもなっていると思います。
「ただの遊びで、ここまでのことができる。海を感じるというアングルから、ここまでの本質を見通せる。こんな時代にあっても、ここまでのヴィジョンを見いだすことができる」、
 というレベルを目標にして書いたわけですが、出版社はそこのところの面白さで原稿を採用してくれたようです。版元のぷねうま舎は哲学系に強い小出版社ですが、版元選びもベストチョイスだったと思います。その筋のベテラン編集者とタッグを組み、入魂の作品に仕上げました。
 あとの評価は読者の方にお任せします。

 ‥‥と以上のように書くと、小難しい作品のように思えるかもしれませんが、貫かれているメッセージはシンプルで、「ただ、生きていりゃええやん」ということ。
 自然を感じ、味わうという豊かさは誰にでも享受できる最良のもので、本書はその手引きとでも言えるでしょうか?

 古いジャズの曲に「The best things in life are free」という曲がありますが(ここでのfreeとは自由というより無料という意味)、たしかに、海も山も川もみんなのもので、それを心底味わうことは人生最良にして、お金には代えがたいもの。そしてそれを楽しむための身体は、万人にひとしく無料配布されたもの。
 
 相次ぐ若い芸能人の自殺に象徴されるように、もともと生きにくい世の中だった上に、コロナ禍でさらに生きにくくなった昨今ですが、そんな中でもよりよく面白く生きるための、一つの羅針盤のようにして書いた作品です。
 本日12月24日に発売されるのにも、意味があります
 (読後「なるほど」と、わかって頂けるかと思います)

 また本作と対になった前作「インスピレーションは波間から」(めるくまーる社、2019年)も好評発売中です。
 こちらも合わせてよろしくお願いいたします。
 https://www.amazon.co.jp/dp/4839701768/


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