さて、今年の1月~2月に敢行した、ニューカレドニア・グランドテール島単独遠征の際に使った艇、バタフライカヤックス・クルーソー500のインプレッションを記します。よろしければご参考に(この艇について、尾道のカヤック仲間・森大介君のインプレッション ※瀬戸内海使用)も合わせて読むと、さらにイメージが湧くかと思います)
【漕行距離】
約1,000キロ(グランドテール島の全外周1600キロのうちの約3分の2)
【装備】
●パドル ●スペアパドル(ともにスウィングスター・インフィニティ4分割) ●スプレースカート(スナップドラゴン) ●ビルジポンプ(ベクソン) ●パドルフロート(NRS) ●PFD(MTI) ●マップケース(モンベル) ●デッキコンパス(セイラーⅡ) ●テント(モンベル・ステラリッジ1人用) ●シュラフカバー(イスカ) ●衣服(夏物色々) ●マット(サーマレスト) ●ソーラーパネル(goal zero) ●Go Pro11 ●一眼カメラ(ペンタックス、のちに水没) ●水18L ●カヤックカート(ライオット) ●メッシュデッキバッグ×4(seals) ●釣り竿&リール ●ルアー(ジグとワームが主) ●その他釣り具色々 ●ナイフ(g-sakai) バーナー(イワタニ) ●ヘッドライト(無名の安物) ●コッヘル(MSR) ●電子書籍リーダー(キンドル) ●スマホ(iphone11pro) ●ポケットwifi(現地のレンタル) ●各種バッテリー類 ●アルミダクトテープ ●その他食料が大半(米、パスタ、野菜類、醤油・粉末ダシ・塩こん部長、砂糖など調味料。缶詰、予備のフリーズドライなど ※釣った魚が主たるタンパク源)。合計40~50キロを常時積載(プラス自分の体重74キロ)
【船体について】
非常にしっかりした作り。「身体と一体化する艇の故障=自分の身体のケガや病気」と言えるくらい、長期遠征で一番怖いのが艇のトラブルだが、その点安心できた。なんだかんだ言って体が健康ならば人生何とかなるように、艇がしっかりしていれば多少の速い遅いの差はあれど、何とか旅は成立する。この3枚目の写真のように、どうしても艇に荷物を全積載したままカヤックカートに乗せて陸上運搬しなきゃいけないケースも出てくるが、この重さではアルミフレームの場合、微妙に曲がるか、へたすれば折れる可能性がある。しかし本艇では全く問題なかった(オススメはできない使用法だけど)。船体布の強度もgood。ただ、サンゴ礁の浅瀬で強引に漕ぎ続けて、ボトムに大きな傷がついたことがあった。いつも携行するアルミダクトテープで補修したが、接着が悪く、すぐ剥がれてしまった。かなり粘着力のあるテープで、いつもは緊急時にほぼそれでまかなえるのだが、今回はうまくいかず以後、ビミョーにだが水がデッキ内に侵入することとなった。なので、付属の補修布とボンドは必携だったなと反省。
【漕ぎ味について】
結構スピードは出る。しかし、さすがに上記40~50kgの荷物フル加重では、向かい風のスピードが劇的に落ちた。毎日午後から風が強まるので、できるだけ穏やかな日の出前5時頃に出艇し、昼過ぎには上陸していた。そこで順風並びに弱い風ならば、フル過重でも一日30~50キロ程漕げると分かった。これが加重20kgほどだと、もう少し距離も伸びるだろう。両サイドのエアチューブが外に広がるタイプのフォールディングは基本的に足が遅いものだが、この艇はフレームの内側にエアが入り込む構造になっているので、スピードの相殺が最低限に抑えられてるようだ。たとえば、同じように遠征用の艇・アルフェックのエルズミア530などは、静水ならば割と速いが、ちょっとした波が出だすと急に、想像以上にスピードが殺され、まるで自分自身がカタツムリにでもなったかのような気がして疲労感が増すのだけど、その点この艇は、そこまでの顕著なスポイル感はなかった。
波の中の安定感も及第点。ただ外洋のうねり、特に後ろから来るやつには向いていないと実感した。外洋の追い波やうねりは、トルクが効いていて腰にズドンと来るような感覚があるのだが、そのたびに艇との一体感が失われ、怖いなと思う瞬間が多々あった。グランドテール島ではリーフ内外を行き来することがたびたびあるけれど、外に出てウネリを受けるときしばし、自然と「ヒャーッ」という情けない声が漏れた。その点、前述したエルズミア530の方が、外洋ウネリの中でも安心感がある。
艇の安定性というより身体との「一体感」が、その安心感につながるわけだけど、外洋ウネリではそれが損なわれる。それは恐らく、この艇が瀬戸内海で開発されているものだからだろう。
逆に、そこのところの使い方を間違わなければ、最高の旅カヤックの一つと言えるのではないか。
【ラダーについて】
よく「ラダーに頼るな」とか「ラダーなしで操作するのが本当のカヤッカー」などと言う人がいるが、それはデイ・ツーリングレベルでの話で、荷物フル過重の遠征については当てはまらない。正直なところ、本当のカヤック旅を知る人であればあるほど、ラダーの重要性を実感している。
さてこの艇のラダー・ブレードは、とてもしっかりしている。壊れたりトラブルを起こす形状ではないし、ワイヤーケーブルの接続部と船体布への導線もシンプル。ただラダー操作するフットペダルが、ちょっと不安定だと感じた。風波が強いときなど、どうしても足の踏ん張り、踏み込みが強くなるが、その際、フットペダルの基礎ごと位置がズレることがあるのだ(留め具でフレームポールに留める構造のため)。また、荷物フル過重の場合、左右のフットペダルのバランスを取るショックコードが、中の荷物に引っ掛かってラダーが効かなくなることがある。シビアな場所を漕ぐ場合、出艇前に入念に足元調整が重要だと痛感した。
【シートについて】
これは人によりけりだが、非常にしっかりしたシートであるがゆえ、長時間漕いでいるとお尻と腰が痛くなる。ぼくは途中から中のパッドやFRPのバックパネルを全部抜き出して、代わりにお尻の形に切ったスポンジを挿入して漕いでいた。座り心地一つで、全然漕げなくなったりするのもカヤックなので、まず旅に出る前など、しっかりと試し漕ぎをして、自分にとって合っているかどうか確認する必要がある。
【その他注意事項】
組み立てるとき、慣れないと時間がかかる。とくに船体布を差し込むときにバウ側のフレーム同士が上手くはまらず、組み立ててからはまっていないことに気づき、イチからやり直しになることがある。ラダーのフットペダルも同様だ。またエクスポッドの場合、携行性も抜群だけど、飛行機の預け荷物にする場合、係員が投げたり乱暴に扱うこともあってコーミングが割れたりする可能性も考えられるので、プチプチで養生するなり、「flagile」のシールを貼るなりしたほうが安全。なお砂浜において、カヤックを組み荷物を積んだ状態で、付属品のカートでゴロゴロとカヤックを運ぶのは無理。その場合は、別途カヤックカートを携行した方が良い(ソロ旅の場合は不可欠)。いつもそうだが、今回も持っていって正解だったもののトップが、カヤックカートだった。
【まとめ】
フェザークラフトなき後、なかなか本格的遠征に適したフォールディングカヤックを入手するのが難しい現状だが、そんな中でも最も優れた一つと言えるのが、この「クルーソー500」だと思う。ウネリの大きい外洋には少々不向きだが、その影響がないフィールドならば、どの海のフィールドでも十分使用できる。ここまで書いてきた、フットペダルやシートの調整は見落としがちだが、かなり重要な要素になるので、事前にきっちり調整する必要がある。なお手前味噌になるが、この艇はアイランドストリームでも取り扱っていて、試乗や購入時の細かいアドバイスも可なので、さらなる質問などある方は、お気軽にお問い合わせ下さい。