Jun日記(さと さとみの世界)

趣味の日記&作品のブログ

うの華4 20

2022-01-06 11:20:33 | 日記

 時間?、私はキョトンとした。私にはおばさんの言わんとする所が分から無かった。そうして私達2人の意思疎通が急に絶たれた事に戸惑っていた。何だろう、今までおばさんと気持が通じ合っていたと思っていたのに…。

 私は如何にも他人だという様に鼻白んだ素振りで、平然と固まった白い顔付きの目の前のおばさんの顔を見上げた。何か言葉を発したくても何と言って良いのかわから無い。すると『時間』私の心の中におばさんの言った一単語がクローズアップされて来た。「時間…」。

 『時間…、…そう言えばさっきおばさんは、時間が何とかと言っていたっけ。』

私は時間時間と、この言葉を脳裏に繰り返した。私はパラパラと自分の記憶を早送りする事で今日ここに来てからの私達2人の言動についてを翻った。そうする事でその脳裏に浮かぶ映像を鑑みてみた。すると、「今何時かな?」と自分に向けて口にするおばさんの顔が大きく浮かんで来た。これだ!、これに違いない。私は思った。今何時か、この言葉を糸口に、私は今不機嫌になっているこのおばさんの機嫌が元に戻る方策を探るのだ!。

「時間、」

おばさんは時間が知りたいのか、と私は遠慮がちに彼女に問い掛けた。

 私の目の前に立ちはだかる清ちゃんのお母さん、彼女は私のこの小さな問い掛けに、ああんと口を開いた。

「分かるのかい。」

ちらっと不安そうな表情を見せて、彼女は一瞬背中の時計を振り返って見た。元通りに顔を戻した時の彼女の顔は、先程の高飛車な顔付きとは違い、何時ものこの店の遜ったお上の顔に戻っていた。しまったという様な後悔の念が、彼女のその表情を曇らせていた。彼女は店先に佇む自分の子の幼友達の顔から彼女の視線を外すとその子の顔をまともに見る事が出来ずに瞳を伏せた。


うの華4 19

2022-01-06 10:02:28 | 日記

 「おや、智ちゃん笑ったね。」

清ちゃんの母の言葉に私は驚いた。自分の母さえ私の感情には無頓着、てんで気付かないというのに、あれぇと、私は半ば口を開いて目の前のおばさんを見上げた。

 今度はおばさんがニコッと目を笑わせた。おやっと私は思った。『おばさんは喜んでいる。』私はおばさんの目に湛えられた柔和な感情をこう読み取ったのだ。このおばさんは清ちゃんのお母さん、私の実のお母さんでは無いのに。そう思いながらも、私とのこの心の交流をおばさんも喜んでいるのだと私はこの時そう感じ取っていた。

 『不思議だ。』

私は思った。私はかつて母とこういう微笑ましい状態になった事が無いと。私は母と、今の場面の様なほのぼのとする気持ちの交流を感じ合う母子関係になった事が無かった。私にとって自分の母はあれせよこれせよと指図ばかりする人だったのだ。穏やかに慈しむ、そんな瞳で微笑まれた事等、私の記憶の中にいる母には皆無の事だった。

 「お…」

思わずこう言い掛けて、私は続く言葉を飲み込んだ。そんな私におばさんは何だいと優しい目と口調で問い掛けてくる。

「おばさん、の、その後は、何だい。何が言いたかったの?。」

私はこのおばさんの言葉にハッと我に返った。彼女との間に思わぬ相違が出来たからだ。実は私はお母さんと言いそうになったのだ。このよくできた人が私のお母さんだったらよかったのに。そんな事を考えていたなんて、清ちゃんのお母さんなのに…。私の母はあの出来の悪い無愛想な母なのだ。それは仕様が無い事なのだ。この時私はそう割り切ると自分を恥じた。私は玄関に佇みモジモジすると顔を曇らせた。頬が熱くなって来るのが自分でも分かった。

 おやぁ、と彼女は思った。目の前の子供の様子がおかしい。何かモジモジ恥ずかし気になったと思ったら顔が赤くなり、耳の裏まで赤くして玄関に項垂れて立っているでは無いか。ははぁん。彼女は内心自分の判断が正しかった事を確信した。この時玄関にいた子の耳には、どこぞのおばさんの言った通りだという彼女の呟きが聞こえて来た。

「智ちゃん、時間が分から無いんだね。」

彼女は内心の苦々しさを口に出すと目の前の子供に言った。そうなんだろうと。