時間?、私はキョトンとした。私にはおばさんの言わんとする所が分から無かった。そうして私達2人の意思疎通が急に絶たれた事に戸惑っていた。何だろう、今までおばさんと気持が通じ合っていたと思っていたのに…。
私は如何にも他人だという様に鼻白んだ素振りで、平然と固まった白い顔付きの目の前のおばさんの顔を見上げた。何か言葉を発したくても何と言って良いのかわから無い。すると『時間』私の心の中におばさんの言った一単語がクローズアップされて来た。「時間…」。
『時間…、…そう言えばさっきおばさんは、時間が何とかと言っていたっけ。』
私は時間時間と、この言葉を脳裏に繰り返した。私はパラパラと自分の記憶を早送りする事で今日ここに来てからの私達2人の言動についてを翻った。そうする事でその脳裏に浮かぶ映像を鑑みてみた。すると、「今何時かな?」と自分に向けて口にするおばさんの顔が大きく浮かんで来た。これだ!、これに違いない。私は思った。今何時か、この言葉を糸口に、私は今不機嫌になっているこのおばさんの機嫌が元に戻る方策を探るのだ!。
「時間、」
おばさんは時間が知りたいのか、と私は遠慮がちに彼女に問い掛けた。
私の目の前に立ちはだかる清ちゃんのお母さん、彼女は私のこの小さな問い掛けに、ああんと口を開いた。
「分かるのかい。」
ちらっと不安そうな表情を見せて、彼女は一瞬背中の時計を振り返って見た。元通りに顔を戻した時の彼女の顔は、先程の高飛車な顔付きとは違い、何時ものこの店の遜ったお上の顔に戻っていた。しまったという様な後悔の念が、彼女のその表情を曇らせていた。彼女は店先に佇む自分の子の幼友達の顔から彼女の視線を外すとその子の顔をまともに見る事が出来ずに瞳を伏せた。