こっちは子供、あっちは夫という意味でした。母では問題が解決しないと悟った私は、それ以降、何か問題が起こると真っ先に父に相談する事にしたのでした。何しろ私には、家の中に父しか頼る相手が居なかったのです。
さて父は、不思議なくらいに私の言う事をふんふんと聞いてくれました。また、驚く事にその内容をよく理解すると、あれこれと相談に乗ってくれたのでした。私の様々な質問にも嫌がらずにその都度きちんと答えを出し、日々の問題を提示すると、父は話を聞いた後で母にあれこれと指図して使いに出すと、実際に幾つかの問題を解決してくれたのでした。この為私の父に対する信頼は絶大な物になり、この頃の私は全く父を尊敬していたのでした。
しかし、母は父からその手の話を聞く事や、指示された内容を実行するのが酷く億劫であり、子供の為の諸事が日増しに増えて来た事が大変面倒でならないのでした。
『この子の話なら無視できるのに…』
母は夫経由で問題の解決を指図されると、自分自身が動かない訳にはいかなくなるという事に困っていました。何故ならその話の大半は揉め事であり、あちらこちらで実際に自分が相手と顔を突き合わせて嫌々話をしたり、また、自分が相手の前で直接頭を下げて頼んで来たりする事になるのでした。以前の様に自分が子供から直接話を聞いて、自分の所でその話を反故にしてしまった時の方が、今より余程楽な子育てだったのにと思うのでした。
「昔を今にだわ。」
と、彼女は呟き溜め息を吐きました。『こんな子供の事なんて如何でもいい事なのに。』と母は考えるのでした。『子供の話を真面目に取り合うだなんて、あの人の気持ちが知れないわ。』加えて、『子供の話をする時の、あの人の話も分からない。』そんな風な様子で、彼女は彼女なりに酷く困っていたのでした。
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