『丁度いいのかもしれない。』彼女は思いました。
彼女の従妹は、丁度彼女が思い浮べた資産家の坊ちゃんと同じ様に、あっけらかんとした人の良い笑顔をその扁平で丸い顔に浮かべていました。彼女は面長で頬の高い自分の顔を元通り兄の方へ向け直して考え始めました。
『あんな大した事の無い顔の従妹が好みだなんて、こっちから願い下げというものだわ!』
今迄、特別器量の良い私と不細工な顔のあの子を見比べて考えていたなんて…、そもそもそれが間違っていたんだわ。そう考えが及ぶと彼女は無性に可笑しくなりました。彼女はくくく…と忍び笑いを始めました。
兄は自分の目の前で行われる妹のこの表情の変化に彼女の従妹への傲り昂りの感情を読み解くと、内心の高慢ちきな動きを察知して顔を曇らせました。俯いた彼の顔には酷く暗い影が差して、眉間にも皺が寄り始めました。「如何しよう。」思わず彼は呟くと、妹同様やはり何やら考え始めました。
そんな兄の変化には気付かず、妹の方は考えれば考える程目の前が明るく開けてくる様でした。頬がバラ色に輝いて来ました。自分が将来出会うだろう大きな資産家を思い浮かべると、その人と恋をして、ウェディングドレスを着て花嫁になる自分の姿が浮かんで来ます。また、その後の生活を思い浮かべると、湖の傍のお城や、様々に花が咲く野原や背景の山、蝶や鳥が遊んで、空には虹が掛かっています。夜には舞踏会の様なパーティに溢れるご馳走。夜空に打ち上げられ、弾ける花火の美しさ、その響き渡る音さえ耳に響いてくるようでした。執事や召使が沢山いて…、と、夢見る瞳でここ迄考えて来ると、彼女は幸せの極地にいるのでした。
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