「大体、義姉さんの子でもないのに、如何してあなたが手を出したりするんです。親がちゃんといるのに。解せないなぁ。」
そう父が憤然として言うと、伯母は肩を落として力なく言うのでした。
「義姉さんがそう言っていたのよ。お義父さんがそう希望しているという話だったものだから。それに、澄さんの時の事を思い出してごらんって言われたものだから。」
「澄だって。」
「これは蛍の事なのに、如何して澄が出てくるんだ。」
と蛍さんの父は合点がいかないなぁと、口に出します。
「大体澄は怪我じゃなく病気で亡くなったんだよ。」
怪我をして危ない蛍とどう関係があるというんだ。そう父があなたの言う事は本当に解せないなぁと義姉に言うと、
伯母は答えました。
「澄さんが酷い病で、あれだけ苦しんで亡くなった事を、私や義姉さん、義兄さん、お義父さんやお義母さんだって、家の人だって、皆まだ確りと覚えているんです。」
あなたは家にいなかったから知らないんでしょうけど、それは酷い苦しみようで、傍で見ていた私達でさえ気の毒で、可哀そうで、
何もできないもどかしさを嫌という程味わったんですよ、またあの時のような苦しみや悲しみを繰り返したくないんですよ、
義姉さんも私も、そしてお義父さんもそうらしいと義姉さんが言うものだから、止む無く私が始末を引き受けたんです。
伯母がそう説明すると、蛍さんの父は眉間に皺をよせました。
「澄がそんなに苦しんだなんて、私は初耳だなぁ。」
本当の話ですかと彼は言うと、あなたの言う事は如何も信用できない、こんな場面を目の当たりにした後なら尚更でしょう、
父に聞いて真実を問いただしてみないと、大体私がここへ来たのだって父に言われての事です。父があなた達と同じ意見だとは思えなぃなぁ。
そう蛍さんの父は自分の考えを示します。伯母は、ではお義父さんに確かめてみられたらいいでしょう。
そう言うと、つーっと廊下へ出て行こうとしました。
「何処へ行くんです、逃げるんですか。」
蛍さんの父がきつい声で言うと伯母は沈んだ声で答えました。
「お医者様を呼びに行って来るんです。」
手当てしてもらうんでしょう、腫れが段々酷くなって来ましたからね。
そう伯母が言った通り、蛍さんの額には大きなたん瘤が出来て、瞼のあたりまで腫れが広がって来ていました。
「たん瘤が出来たのなら大丈夫なんじゃないですか。案外大した怪我じゃないのかもしれませんよ。」
腕白盛りの男の子を何人か持つ伯母は、安堵したように微笑むと、病室に父を1人残して廊下に出て行ってしまいました。
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