家の中が何だか薄暗く感じます。これはミルの気持ちのせいばかりではありませんでした。実際に家の窓にある日除けが全て下ろされているのでした。日差しが差し込まない暗い中で彼が荷物を下ろすと、辺りは物音ひとつせず静寂そのものでした。彼は尚更に気持ちが萎えてしまい、祖父の部屋を覗く前に一杯の水を飲もうと台所へ続く居間のドアを開けました。
中は真っ暗です。彼はスイッチを付けようとしました。その瞬間です。パッとライトが付くと
「サプライズ!(ミルの故郷の言葉で)」
と複数の大きな声が家中に響き渡りました。流石に心臓がドッキリ!としたミルです。暫くは唖然として言葉も有りませんでしたが、彼が目につく人々の顔を眺めると、その人々の中に自分の祖父の顔がありました。彼はが如何にも子供っぽく目を輝かせながらミルの驚く様子を眺めているではありませんか。
「お祖父ちゃん…。」
ムッとしてミルは祖父を睨みつけるのですが、この状態なので、彼の祖父の頗る元気な様子が手に取るように分かりほっと溜息を洩らしました。
「酷いなぁ、皆も。」
ミルが振り返って玄関の方を見ると、自分を送って帰った筈の友人達の顔が2つ、にこやかにこちらの様子を覗いています。早く来いよ、ミルが手招きするまでも無く、2人は笑い声を上げて皆のいる居間まで飛び込んで来ました。
「やったなー!」「驚いたでしょう!」2人はハハハと大はしゃぎでミルの肩や背中をポンポンと叩くと、ミルと腕を組んで彼を皆の歓迎の渦の中へ巻き込んで行きます。お帰り。頑張ってるんだって。優秀だって有名だよ。そんなご近所さんや知人友人の声の中で、ミルは酷く嬉しくなると涙が溢れ出て来るのをどうする事も出来ないでいました。ありがとう。…、みんな…。そんな言葉を涙声で繰り返しながら、ミルはやはり1番の気掛かり、自分の祖父を人波の中から懸命に探し出すのでした。祖父を見つけたミルは人を掻き分けて彼に近付いて行きました。「酷いなぁ、心配したんだよ。」ミルは不平そうに祖父に声を掛けました。
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