捨てる神あれば救う神あり、のことわざに即して言えば、
がんに変える遺伝子あれば、がんを抑える遺伝子あり、です。
神さまの場合捨てる方はすぐ現れますが、救う方はなかなか出てきません。
がんの場合もこの本ではこう書かれています。
p47 「がん抑制遺伝子の発見は、がん遺伝子とは違って一筋縄ではいきませんでした」
救う神ならぬ「がんを抑える遺伝子がある」と理論的に予測したのは1970年代に米国のクヌッドソンという遺伝学者でした。その理論を「2ヒットセオリー」と呼びます。この理論を理解するためには人間の細胞についての理解、特に染色体に対する理解が前提になります。
【そういうものへの知識がまるでないkaeru が書き進めるとすれば、それらの理解があったとしてを前提にします。】
クヌッドソンが目をつけたのが網膜芽細胞腫というがんです。このがんの発症は2通りのパターンがあることが知られていました。ひとつは孤発性(バラバラに発症する)で1歳以上に起こり、片眼だけにがんができるものです。もうひとつは家族性(近親者に発生する)で1歳以下に起こり、両眼にがんができるのです。なぜ2通りのパターンがあるのかーーその理由を考えたクヌッドソンは、「2ヒットセオリー」という理論を提唱したのです。
私たちの細胞のなかでは染色体が対をつくっており、同じ遺伝子が2個ずつあります。クヌッドソンは、「網膜芽細胞腫の原因となる遺伝子の対の一方が変異しても、もう一方が正常ならがんにはならない。しかし、もう一方も変異すると発症する」と考えました。これが、2ヒットセオリーです。この説に基づけば、2通りの発症パターンをうまく説明することができます。
【 本ではここp49に図が示されて理解を助けてくれてます。】
片眼だけにがんができる子どもは、もともとは遺伝子が2個とも正常で、2個とも変異した場合にだけこのがんになります。2個とも変異を起こす確率は低いので、1歳以上になってから、片眼だけががんになる場合が多いのです。一方、生まれつき遺伝子の一方に変異がある子どもは、体中の細胞にその変異をもっていますから、残りの1個が変異するだけでがんになります。だから、1歳以下で発症し、しかも両眼にがんができたり、骨にも肉腫ができることが多いというわけです。
この理論が正しい理論だと証明されたのが1986年で、染色体のどこにあるかが突き止められたのです。
以下、本より該当部分
Rb1と名付けられたこの遺伝子は、細胞周期を途中で止める働きをもつことがわかりました。この働きによって、DNAが損傷を受けた細胞がそれ以上増殖しないように抑えているのです。このため、この遺伝子が2個とも変異して働かなくなると、傷ついたDNAをもつ細胞がどんどん増殖してしまいます。こうして、がん抑制遺伝子という概念ができあがり、それが2つとも変異して働かなくなることでがんが引き起こされるというしくみがはっきりしました。