碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

ドラマ「夕凪の街 桜の国2018」  73年後の広島「原爆の日」に

2018年08月20日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



週刊テレビ評
NHK「夕凪の街 桜の国2018」
73年後の広島「原爆の日」を思う

8月6日夜に放送された「夕凪(ゆうなぎ)の街 桜の国」(NHK総合)は、NHK広島放送局開局90年ドラマだ。石川七波(常盤貴子)は東京に住む編集者。リストラの対象となっているだけでなく、父親の旭(橋爪功)に認知症の疑いがあることも悩みの種だった。

 ある日、旭が1人で家を出る。七波がめいの風子(平祐奈)と尾行すると、旭の向かった先は広島だった。まるで聞き込み調査のように街を歩き回る旭。やがて亡くなった姉、皆実の足跡を追っていることがわかり、ドラマの舞台は1955年の広島へと移っていく。

て働いている。同僚の打越(工藤阿須加)が彼女に思いを寄せるが、素直に受け入れることができずにいた。それは自分が被爆者だったからだ。原爆症の恐怖と、生き延びたことへの後ろめたさが常に消えなかった。

皆実が幸せを感じたり、美しいと思ったりするとき、彼女の中で原爆投下直後の地獄のような光景(市民が描いたと思われる絵が有効に使われている)がよみがえる。「お前の住む世界はここではないと誰かが私を責め続けている」というのだ。脚本の森下直は、「この世界の片隅に」などで知られる、こうの史代の原作漫画を丁寧にアレンジしながら、印象的なセリフを物語に埋め込んでいく。

打越との未来が見えた直後、皆実は原爆症で短い生涯を終えた。最期に胸の内で語る言葉は厳しく、そして切ない。「うれしい? 10年たったけど、原爆を落とした人は『やった! また1人殺せた』って、ちゃんと思うてくれとる?」

しかもドラマはここで終わらない。大人になった旭(浅利陽介)は広島の復興のために建設会社に入り、皆実を姉のように慕っていた被爆者で孤児の京花(小芝風花)を妻に迎える。それが七波の母だ。老人となった打越(佐川満男)から皆実の話を聞いた七波と風子はそれぞれに思いを巡らせる。

見終わって、あらためて痛感するのは、戦争や原爆はあまりにも多くの命を奪っただけでなく、辛うじて生き残った者たちをも長く苦しめてきたことだ。さらにこのドラマからは、そうした人たちを単なる被害者として描くのではなく、厳然たる事実と声なき声を継承し、静かに伝えていこうとする意思が感じられた。

戦後73年という長い歳月を経て、どこかぼんやりしかけていた戦争の、そして原爆の輪郭がはっきりとした像を結んだ。広島放送局の制作陣、加えて明るさと陰りの両方をみずみずしい演技で表現した川栄李奈に拍手を送りたい。

(毎日新聞 2018.08.18)

二宮和也主演「ブラックペアン」 影ある外科医にカタルシス

2018年06月04日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



二宮和也主演「ブラックペアン」 
影ある外科医にカタルシス

この10年間、TBS系「日曜劇場」には何人もの“名医”が登場した。「Tomorrow-陽はまたのぼる-」(2008年)の森山航平(竹野内豊)は産科手術も脳外科手術も手掛けた。「JIN-仁-」(09、11年)の外科医、南方仁(大沢たかお)は江戸時代にタイムスリップし、焼け火箸を電気メス代わりに止血を行い、当時は死病だったコロリ(コレラ)とも闘っていた。また「GM-踊れドクター」(10年)の総合診療医、後藤英雄(東山紀之)は問診だけで病名を言い当てた。

一方、苦戦した医師もいる。標高2500メートルの診療所が舞台の「サマーレスキュー~天空の診療所~」(12年)では心臓外科医の速水圭吾(向井理)がその腕前を発揮できなかった。医療設備が最小限で、患者の命を救うにはヘリで町の病院に搬送するのが一番だからだ。その5年後に現れたのが「A LIFE~愛(いと)しき人~」(17年)の沖田一光(木村拓哉)である。「心臓血管と小児外科が専門の職人外科医」だったが、肝心の手術シーンに緊迫感が希薄で術後の達成感もあまりなかった。

そして今期の「ブラックペアン」だ。渡海征司郎(二宮和也)は過去のどの医師とも違う。「手術成功率100%の天才外科医」だが、かなり傲慢。同僚の医師がお手上げとなった手術を肩代わりして大金を要求したりする。「オペ室の悪魔」というニックネームが象徴するダークなオーラを身にまとっている点がユニークなのだ。背景にあるのは一枚の胸部レントゲン写真で、そこに写っている手術器具「ペアン」と父の死にまつわる秘密が渡海に陰影と奥行きを与えている。そんな人物像を支えているのが、大胆さと繊細さの双方を演じてみせる二宮の力量だ。

物語の軸となっていたのは心臓手術用機器「スナイプ」だったが、新たに手術支援ロボット「ダーウィン」や「カエサル」が登場してきた。こうした医療マシンを使った手術でトラブルが発生した時、土壇場で渡海が現れ、患者の命を救うのがパターンだ。そこに見る側のカタルシスがあるのは、機械に頼り過ぎる社会に向けた一種の寓話(ぐうわ)だからかもしれない。

最近、このドラマで加藤綾子が演じる治験コーディネーターに関して日本臨床薬理学会から抗議があった。その活動や服装が「実像からかけ離れている」というのだ。しかし、物語全体がドラマというフィクションであり、登場人物のキャラクターや仕事ぶりにドラマ的な演出や造形が施されているのは当然だ。現実から外れない内容に終始するのであれば、ドラマ自体の成立も危うくなる。

(毎日新聞 2018年6月2日 東京夕刊)


ハンディは「個性」 NHK朝「半分、青い。」 

2018年04月23日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


週刊テレビ評
NHK「半分、青い。」 
ハンディは「個性」爽やか

NHK連続テレビ小説「半分、青い。」がスタートした。ヒロインの誕生以前、母親の胎内にいた時点から描き始めるという、なかなか凝った作りの導入部だった。主人公の楡野鈴愛(にれのすずめ)(永野芽郁(めい))が生まれたのは1971年7月7日。岐阜県東濃地方の町で食堂を営む楡野宇太郎(滝藤賢一)と晴(松雪泰子)夫妻の長女だ。

鈴愛は小学3年生の時、左の耳が聴こえなくなってしまう。恐らく朝ドラ史上初の「ハンディキャップを持つヒロイン」の登場だ。開始前、そのことがどう描かれるのか気になっていたが、基本的に「障害ではなく個性なんだ」という姿勢であることがわかり、ほっとした。鈴愛は「障害のある女の子」ではなく、「個性的でユニークな女の子」なのだ。

聴力を失った左耳は常に耳鳴りがしているが、鈴愛は「左耳、面白い。小人(こびと)が歌って、踊ってる」と言う。この感性が素晴らしい。踊る小人は秀逸な「例え」だ。耳鳴りを小人に「見立てる」ことで、自分が持つハンディキャップの「解釈」も変わってくる。

思えば、人生のどんな出来事も自分の解釈次第なのかもしれない。もちろんこれは鈴愛というより、脚本の北川悦吏子の優れた表現力のおかげだ。その意味では、タイトルの「半分、青い。」こそ最高の例えと言えるだろう。

他にもこのドラマには楽しい例えがいくつも出てくる。鈴愛は母親の晴のことを、「怒ると(『マグマ大使』に出てくる)ゴアみたいだ」と言っていた。

また鈴愛と同じ日に生まれた萩尾律(佐藤健)の母、和子(原田知世)は、息子から「時々、説教臭い」と指摘され、「出来損ないの金八先生みたい」とNHKらしからぬ例えで自分のことを笑っていた。しかも武田鉄矢の「このバカちんが!」という物まね付きだ。

かつて「あまちゃん」(2013年)で話題となった80年代文化だが、他にも松田聖子の歌から温水洗浄便座までさまざまなアイテムを登場させて楽しませてくれている。成功例を踏まえた目配りが見事だ。

そしてドラマの序章を盛り上げたのは晴と和子だった。同時出産から子供を巡ってやり取りするシーンなど、これまでの朝ドラにないほど印象深く母親2人を描いている。キビキビした感じの松雪と、ホンワカした雰囲気の原田。それぞれが個性を生かして団塊世代の母親像を演じているのだ。

現在、鈴愛は高校3年生。永野芽郁の生き生きとした表情が、見る側を朝から元気にしてくれる。同じ高校に通う律との関係に注目しながら、この爽やかな青春ドラマを楽しみたい。

(毎日新聞 2018年4月21日)

石原さとみ主演「アンナチュラル」 新感覚サスペンスの醍醐味

2018年03月20日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


石原さとみ主演「アンナチュラル」
新感覚サスペンスの醍醐味

今期のドラマもゴールが迫ってきた。途中で息切れした作品も少なくないが、石原さとみ主演「アンナチュラル」(TBS系)はその逆だ。最終回を迎えるのが惜しいほど充実度が高まっている。

物語の舞台は民間組織の「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。警察や自治体が持ち込む、死因のわからない遺体を解剖し、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」の正体を探っていく。メスを握るのは法医解剖医の三澄ミコト(石原)や中堂系(井浦新)だ。

まず「不自然な死」というテーマとUDIラボという設定が新機軸だ。架空の組織だが妙なリアリティがある。また沢口靖子が活躍する科捜研は警察組織の一部だが、こちらはあくまでも民間。ミコトたちに捜査権はない。検査や調査を徹底的に行っていく。

これまでに集団自殺に見せかけた事件の真相や、雑居ビルの火災で亡くなった人物の本当の死因を究明してきたが、物語は常に重層的で簡単には先が読めない。

中でも出色だったのが第7話(2月23日放送)だ。顔を隠した高校生Sがネットで「殺人実況生中継」と称するライブ配信を行う。そこには彼が殺したという同級生Yの遺体も映っていて、ミコトに「死因はなんだ?」と問いかけるのだ。しかもミコトが誤った場合、人質Xの命も奪うと言う。背後にあったのはいじめ問題だが、当事者たちの切実な心情を、トリックを含む巧緻なストーリーで描いていた。

「不自然な死」は当初、非日常的、非現実的なものに見える。しかしミコトたちの取り組みによって、それが日常や現実と密接な関係にあることが分かってくるのだ。物語に高度な医学的専門性が織り込まれているが、説明不足で理解できなかったり、逆に説明過多で鬱陶しくなったりもしない。

この新感覚サスペンスともいうべきドラマを支えているのが野木亜紀子の脚本だ。一昨年の「重版出来!」(TBS系)や「逃げるは恥だが役に立つ」(同)とは全く異なる世界を対象としながら、綿密なリサーチと取材をベースに「科捜研の女」ならぬ「UDIラボの女」をしっかりと造形している。特にミステリー性とヒューマンのバランスが絶妙で、快調なテンポなのに急ぎ過ぎない語り口にも好感がもてた。

ミコトたちが仕事の合間に、おやつなどを食べながら雑談するシーンがよく出てくる。まるで女子カーリングのモグモグタイムだ。こうした話の筋を一瞬忘れる時間が、実はドラマをよりドラマチックなものにしている。できればシリーズ化をと願わずにいられない、今期最大の収穫だ。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2018.03.16)

フェイクをテコに家族、生き方問う「anone」

2018年02月11日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


週刊テレビ評
坂元裕二脚本「anone」 
フェイクをテコに家族、生き方問う

広瀬すず主演「anone(あのね)」(日本テレビ系)が、回を重ねるごとに面白くなっている。

主な登場人物は5人だ。アルバイトをしながら、ネットカフェで寝泊まりしている辻沢ハリカ(広瀬)。小さな印刷会社を経営していた夫と死別し、現在は法律事務所の事務員をしている林田亜乃音(田中裕子)。夫や息子のいる家を出て、アパートで1人暮らしをしている青羽るい子(小林聡美)。カレー屋をしていたが、医者からがんで余命半年と言われた持本舵(阿部サダヲ)。そして林田印刷所の元従業員で、今は弁当屋で働く中世古理市(瑛太)である。

亜乃音と理市はともかく、5人は元々無関係だった。ある日、亜乃音が印刷工場の床下に隠された、大量の1万円札を見つける。しかもそれは偽札だった。その「大金」がきっかけとなって、出会うはずのなかった彼らがつながっていく。これまでに少しずつ、それぞれの過去と現在がわかってきたが、まだまだ謎だらけだ。

脚本を書いたのは坂元裕二。松雪泰子主演「Mother」(2010年)、満島ひかり主演「Woman」(13年)に続く、「母性」をテーマとした3作目だ。しかし広瀬は当然のことながら松雪や満島のような「母親」そのものではない。無意識ながら母性を探し求める、いわば「さすらい人」だ。そして今回、キーワードとなっているのが「フェイク(偽物)」である。

このドラマには偽札だけでなくさまざまなフェイクが登場する。ハリカは森の中の家で、祖母(倍賞美津子)に可愛がられて暮らした記憶を持つ。しかし実際にはそこは施設であり、虐待を受けながら生きていたのだ。その記憶は自分の心を守るためのものだった。

亜乃音には自分が産んだ子ではないが、19歳で家出した娘、玲(江口のりこ)がいる。大事に育ててきた娘と離れてしまったことにこだわっている。また、るい子は夫や息子と心が通わない。高校時代に望まぬ妊娠をして、その時に生まれなかった娘の姿が見える。セーラー服を着た幻影と会話することで自分を保ってきたのだ。さらに妻子のいる理市も、玲と彼女の息子が住む部屋に通っている。彼にとっての家族とは何なのか。

「偽物」に目を向けることで、逆に「本物」とか、「本当」とされるものの意味が見えてくる。また「偽物」と呼ばれるものが持つ価値も浮かび上がってくる。それはフェイクニュースのような社会問題とは違い、個人にとっての価値や意味だ。現代の親と子、夫と妻、そして生き方そのものさえ、フェイクという視点から捉え直す。坂元裕二の野心作であるゆえんだ。

(毎日新聞 2018.02.08)

昨年のドラマ界リードしたTBS

2018年01月06日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


週刊テレビ評
昨年のドラマ界リードしたTBS 
力ある作り手の個性が光った

昨年もさまざまなドラマが放送されたが、年間を通じてリードしてきたのはTBSだ。その導火線となったのが一昨年10月期の「逃げるは恥だが役に立つ」(新垣結衣、星野源)である。契約結婚という新たな恋愛の形を、絶妙な表現で提示して注目を集めた。

年が明けると、「カルテット」(松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平)が登場した。4人の男女が鬱屈や葛藤を押し隠し、また時には露呈させながら交わす会話が何ともスリリングだった。この“行間を読む”楽しみこそ、坂元裕二脚本ならではのものだ。 

続く4月期には、“共感しづらいヒロイン”のダブル不倫のてん末を描いた「あなたのことはそれほど」(波瑠、東出昌大)が話題となった。「カルテット」も「あなそれ」も、いわゆる万人向けのドラマではない。どこまで伝わるか、伝えられるかを探った実験作だ。結果としてドラマ表現の幅を押し広げたことに拍手を送りたい。

さらに10月期が充実していた。 ドラマの王道感に満ちた日曜劇場「陸王」(役所広司、竹内涼真)。マニアックな笑いのクドカンドラマ「監獄のお姫さま」(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀、満島ひかり)。そしてチーム医療のリアルをしっかり取り込んだ「コウノドリ」(綾野剛、吉田羊)の3本が並んだのだ。

この1年のTBS作品は、よく練られた脚本、興味深い登場人物、物語にふさわしいキャストに支えられており、その作り方は基本的に正統派だ。また「チーム半沢」と呼ばれる「陸王」の伊與田英徳や福澤克雄、「カルテット」の土井裕泰、「あなそれ」「監獄のお姫さま」の金子文紀など、力のある作り手による“署名性のドラマ”になっていたことも特色だ。

たとえば福澤は、過去に日曜劇場の「南極大陸」や「華麗なる一族」なども手がけてきた。スケールの大きな“男のドラマ”の見せ方が実に達者だ。物語の緩急のつけ方。キャラクターの際立たせ方。映像におけるアップと引きの効果的な使い方などに、“福澤調”とも言うべき個性が光る。

かつてTBSのドラマ部門には「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」の久世光彦、「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎(りんご)たち」の大山勝美や鴨下信一といった看板ディレクターがいた。いつの頃からか映画は監督のもので、ドラマはプロデューサーのものという雰囲気ができている。しかし、ドラマもまた演出家の個性と力量で作品の出来が左右されるはずなのだ。

他局も含め、今年もまた続きが気になるドラマ、クセになるドラマを1本でも多く見せてほしい。

(毎日新聞 2018年1月5日 東京夕刊)


雑で緻密なクドカン脚本「監獄のお姫さま」 

2017年11月27日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


週刊テレビ評
「監獄のお姫さま」 
雑で緻密なクドカン脚本


この秋、最も楽しみにしていたドラマが宮藤官九郎脚本「監獄のお姫さま」(TBS系、火曜午後10時)だ。脚本家として、すっかり巨匠となったクドカンだが、変わらないヤンチャぶりとマイペースがうれしい。

6年前、女子刑務所で知り合った4人の受刑者(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀)と1人の刑務官(満島ひかり)。出所した彼女たちが、ある事件にからんだ復讐(ふくしゅう)を果たそうとするのが、このドラマである。

初回で、ターゲットとなる会社社長、板橋(伊勢谷友介)を拉致してしまう。彼の婚約者を巡る殺人事件で逮捕された、「爆笑ヨーグルト姫」こと先代社長の娘(夏帆)の冤罪(えんざい)を晴らすのが目的だ。

第2話以降、刑務所での様子も描かれてきた。小泉の罪は夫に対する殺人未遂だが、他のメンバーの罪状や事情も徐々にわかってくる。そして物語の軸となる「姫」が、獄中で板橋の子を出産した経緯も明かされた。

クドカンドラマの特色は、登場人物たちのキャラクターが物語を生むことだ。どんな人物なのか。これまでどう生きてきたのか。それがそのままストーリーにつながっていく。

「冷静に!」が口癖の馬場カヨを演じるのは、「あまちゃん」(NHK、2013年)の小泉。満島、坂井、そして森下たちは、「ごめんね青春!」(TBS系、14年)のメンバーだ。

クドカンドラマのツボを熟知している彼女たちの会話、いや、おばちゃんたちの「わちゃわちゃ」したダベリを聞いているだけでおかしいのに、朝・昼・晩の食事ごとに流れる「ごはんの歌」みたいな、おちゃめな仕掛けもたくさんあって、つい笑ってしまう。

別世界のようでいて、どこか世間と地続きでもある女子刑務所。クドカンは、この密度の高い閉鎖空間を生かしながら、物語にマニアックな笑いをちりばめ、個性派女優たちが快演や怪演でそれに応えているのだ。

このドラマでは、17年12月の「現在」と、刑務所時代などの「過去」を頻繁に行き来することになる。時間のジャンプや連続ワープみたいなものだが、時間軸が錯綜(さくそう)するので、一見分かりづらいかもしれない。

しかし、時間を操ることは、ドラマという「劇的空間」ならではの醍醐味(だいごみ)。見る側が鼻面を引き回される、もしくは終始翻弄(ほんろう)されるのもまた、クドカンドラマの快感だ。

そういえば、拉致されている板橋社長が、彼女たちの「企て」と「行動」について、こんな感想を口にしていた。「雑なのか緻密なのか、わからない」と。言い得て妙というだけでなく、このドラマの面白さも見事に表現している。

(毎日新聞 2017年11月24日 東京夕刊)

君は「カマキリ先生」を見たか!?

2017年10月16日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。

今回は、NHKEテレ「香川照之の昆虫すごいぜ!」について書きました。


「香川照之の昆虫すごいぜ!」 
君は「カマキリ先生」を見たか!?

それは突然、やってくる。何しろ「不定期放送」なので、油断していると見逃してしまうのだ。主人公は、人にして人にあらず。その名を「カマキリ先生」という。演じるのは名優、香川照之。そして栄えの冠番組が「香川照之の昆虫すごいぜ!」(NHKEテレ)である。

タイトル通りの昆虫番組だが、子供向けという既成概念を超えたインパクトがある。あの香川が、カマキリの着ぐるみ(その監修も香川自身)姿となり、原っぱや河原で昆虫採集にまい進するのだ。

聞けば、香川が民放のトーク番組で無類の昆虫好きを表明し、「Eテレで昆虫番組をやりたい!」と望んだのだという。確かに捕虫網を操る技術はもちろん、昆虫に関する知識も半端ではない。

前回の放送は8月で、テーマは「タガメ」。昆虫少年の頃に一度触っただけで長いご無沙汰となり、40年ぶりの再会だった。きれいな水にしか生息しないにもかかわらず、小魚やカエルを食べてしまう、どう猛なタガメ。香川はタガメを「殺人犯」に、自らを「タガメ捜査一課長」に見立て、全国の子供たちにも応援をお願いして大追跡を敢行した。そして有力な目撃情報に導かれて栃木まで出張(でば)る。結局、4時間かけて全長7センチの犯人を現行犯逮捕したのだった。

今月9日に放送された最新作では、日本最大のトンボ「オニヤンマ」の捕獲に挑んだ。神奈川県某所の森に入ったカマキリ先生は、オニヤンマを発見するやいなや、まるで座頭市の仕込みづえのような速さで捕虫網を切り返し、次々と大物を捕獲していく。

オニヤンマが時速60キロという猛スピードで飛べるだけでなく、4枚の羽根を巧みに動かして、ヘリコプターがホバリングをするように空中で停止する妙技の秘密も解明。さらにオニヤンマ以上の速さで飛行しながら、エサとなる虫を捕まえるギンヤンマの離れ業を体感しようと、香川はクレーンでつり上げられた状態で、時速70キロのボールをキャッチする実験を行うのだ。その根性には頭が下がる。

番組の面白さを支えているのは一にも二にも香川の狂気、いや本気だ。何かを徹底的に好きになるって、こんなにすてきなことなのだと教えてくれる。また、「人間よ、昆虫から学べ!」というカマキリ先生の主張は、「スマホの中だけが世界じゃないよ!」という子供たちへの熱いメッセージだ。

歌舞伎の世界では「九代目市川中車(ちゅうしゃ)」である香川だが、今後「市川虫者」を名乗るのもいいかもしれない。ちなみに番組を見逃した人のために、21日午後4時半から、うれしい再放送があるそうだ。

(毎日新聞 2017年10月13日 東京夕刊)


WOWOW『プラージュ』は、「訳あり」と「おかしみ」が絶妙

2017年09月10日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。

今回は、WOWOWのドラマ「プラージュ」 について書きました。


週刊テレビ評
WOWOW「プラージュ」 
「訳あり」と「おかしみ」絶妙

この夏、最も見応えがあるドラマは何かと聞かれたら、WOWOW「プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~」(土曜午後10時)と答える。原作は「ストロベリーナイト」などで知られる誉田哲也の同名小説。主演は「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)で大ブレークした星野源だ。全5話の放送は今週末の9日に緊迫の最終回を迎える。

主人公は旅行代理店に勤めていた吉村貴生(星野)。酒に酔って、怪しい連中に覚醒剤を打たれてしまう。結局逮捕され、執行猶予付きとはいえ前科1犯に。会社はクビ。住む部屋も失った貴生を受け入れてくれたのが、物語の舞台となるシェアハウス「プラージュ」だ。確かに訳ありばかりが暮らしており、その「訳」こそがこのドラマのキモである。

オーナーの朝田潤子(石田ゆり子)は犯罪がらみで父親を亡くしている。高校時代に傷害致死事件を起こした小池美羽(仲里依紗)は、行きずりの男たちの相手をして稼いでいる。矢部紫織(中村ゆり)にはコカイン所持で逮捕歴がある。親切な弁当屋でアルバイトをしていたが、逃亡中の元カレが訪ねてきたことで店を辞めた。

古着屋で働いている中原通彦(渋川清彦)は恋人を守るため人を殺した過去を持つ。加藤友樹(スガシカオ)は殺人の罪で5年間服役し、現在は再審公判中。その加藤を題材に記事を書くため潜入取材を続けてきた、ライターの野口彰(真島秀和)も住人である。そこに加わったのが、思わぬことから「前科者」となった貴生だ。再就職しようと動いてみて、ハードルが高いことを痛感。今は潤子が営むカフェを手伝っている。

いずれも犯した罪は償っているものの、社会からはみ出してしまった者に対する世間の目は厳しく、普通に暮らすこと自体が難しい。「犯罪者は社会に受け入れられるのか」という重いテーマがこのドラマの根底にある。しかし単に重くて暗いわけではない。星野源ならではの“おかしみ”が絶妙の空気感を生んでいるからだ。

さらに石田ゆり子をはじめ芸達者がそろっており、それぞれが抱える葛藤と複雑な心理が、住人たちとの関係性の中で描かれていく。特に仲里依紗は、幼いころからの過酷な体験が原因で、自分の感情をうまく表現できない女性という難しい役を好演している。

タイトルのプラージュは「海辺」や「浜辺」という意味のフランス語。それは海と陸の境目ではあるが、どこか曖昧だ。思えば人間における「向こう側」と「こちら側」の境界線もまた、あるようでないのかもしれない。

(毎日新聞 2017年9月8日 東京夕刊)

NHK朝ドラ「ひよっこ」は、市井に生きる私たちの物語

2017年07月30日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。

今回は、NHK朝ドラ「ひよっこ」について書きました。


【週刊テレビ評】
NHK「ひよっこ」 
市井に生きる私たちの物語

後半戦に入ったNHK連続テレビ小説「ひよっこ」が猛暑に負けないほど熱を帯びている。茨城から集団就職で上京した主人公、谷田部みね子(有村架純)。勤めていたラジオ工場が閉鎖され、現在は赤坂にある洋食店のホール係だ。

舞台が赤坂に移ってから登場人物の厚みがぐっと増した。みね子が働く「すずふり亭」の女主人(宮本信子)やシェフ(佐々木蔵之介)たちが、地に足をつけて生きる大人の世界を見せてくれる。また、みね子が住むアパート「あかね荘」では、謎の会社員(シシド・カフカ)や漫画家志望の男たちなど多彩な青春像が描かれている。

しかも、みね子はこの町で恋をした。相手は同じアパートの住人で、慶応大学の学生である島谷純一郎(竹内涼真)。地方で会社を経営する名家の後継ぎ息子だ。しばらくは幸せな2人だったが、純一郎の実家が傾き、父親から政略結婚の話がくる。純一郎は親と縁を切ってでも、みね子と一緒にいることを選ぼうとする。

24日放送の第97回。純一郎は、みね子に事の経緯を説明し、たとえ貧乏になっても自分らしく生きたいのだと言い出す。

そんな純一郎に対し、今度はみね子が決意を込めた表情で語り始める。それはこのドラマの本質に迫る一人語りであり、2分を超える長ゼリフだった。流れては消えてしまうドラマの言葉を、あえて以下に再現してみたい。

「そんな簡単なことじゃないです。貧しくても構わないなんて、そんな言葉、知らないから言えるんです。貧しい、お金がないということがどういうことなのか、わからないから言えるんです。いいことなんて一つもありません。悲しかったり、悔しかったり、さみしかったり、そんなことばっかしです。お金がない人で、貧しくても構わないなんて思ってる人はいないと思います。それでも明るくしてんのは、そうやって生きていくしかないからです。(中略)私は貧しくて構わないなんて思いません。それなのに島谷さんは持ってるもの捨てるんですか? みんなが欲しいと思っているものを自分で捨てるんですか? 島谷さん、私、私、親不孝な人は嫌いです」

近年の朝ドラで、これだけ真実味のあるセリフを聞いたことがない。 ドラマというフィクションだからこそ伝えられる人生のリアルであり、生きることの重みだ。

脚本は「ちゅらさん」などを手がけた岡田恵和。みね子は「とと姉ちゃん」や「べっぴんさん」のように、功成り名遂げた実在の人物がモデルではない。市井に生きる、私たちの物語なのである。

(毎日新聞 2017年7月28日夕刊)


「あなたのことはそれほど」 共感できないヒロインに興味 

2017年06月25日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。

今回は、ドラマ「あなたのことはそれほど」について書きました。


「あなたのことはそれほど」 
共感できないヒロインに興味

今期は、「小さな巨人」(TBS系)、「緊急取調室」(テレビ朝日系)、「CRISIS 公安機動捜査隊特捜班」(フジテレビ系)など刑事ドラマが林立していた。おかげで目立ったのが、今週最終回を迎えた「あなたのことはそれほど」(TBS系)である。

ヒロインは、優しい夫・涼太(東出昌大)との2人暮らしに物足りなさを感じていた美都(波瑠)。中学時代に憧れていた同級生・有島(鈴木伸之)と出会い、不倫関係に陥る。原動力は美都がこの再会を「運命」と感じたことだ。一方の有島は妻・麗華(仲里依紗、好演)の出産という、実にわかりやすいタイミングだった。

このドラマが異色なのは、主な登場人物である4人の誰にも「共感」できない、もしくはしづらいことだ。何よりヒロインである美都のキャラクターが乱暴で、既婚者意識や倫理観どころか、躊躇(ちゅうちょ)という文字さえほとんどない。

また不自然な笑顔で美都への愛情を主張する涼太。美都にとっては「運命の人」かもしれないが、夫としても愛人としても軽過ぎる有島。そして、じわじわと怖くなっていく麗華。いわゆる「共感」とは距離のある人物ばかりである。

美都の暴走や涼太の狂気には息苦しいコンプライアンス社会からの無意識の脱出、逃走という要素があったのかもしれない。結果的に多くの視聴者の関心を集め、特に若者たちの間で話題になった。

大学の二つの授業で、学生たちに「見ている人は?」と聞いてみて驚いた。ある授業では、なんと約60%の学生が、そして別の授業でも約50%の学生が手を挙げたのだ。過去20年、同様の“教室内視聴率調査”を行ってきたが、この数字はとびぬけて高い。同じ枠の「逃げるは恥だが役に立つ」や「カルテット」も遠く及ばない。

視聴理由については、「縛られないヒロインの行く末」「正常な人がいないドラマ」「罪悪感のない妻とサイコパスな夫」「普通に見えた人が徐々に変わっていく怖さ」などが並んだ。

全体として、ヒロインに対して一般的な「共感」を抱いているわけではなく、また単純な「反感」でもない。自分たちとは大きく異なるがゆえに気になる。むしろ共感できないからこそ見たい。いわば、のぞき見感覚で4人の様子を観察していたようだ。また制作側によるフェイスブックやツイッターなどSNSを活用した情報発信も有効だった。

若者のテレビ離れ、ドラマ離れがずっと言われてきた。今回の局地的調査によれば、「あなたのことはそれほど」は、この20年間で「大学生に最も見られたドラマ」ということになったのだ。

(毎日新聞 2017年6月23日)



「緊急取調室」 チームプレーの滋味が魅力

2017年05月21日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評



「緊急取調室」 
チームプレーの滋味が魅力

いきなり先月の話で恐縮だが、4月12日に放送された「天海祐希・石田ゆり子のスナックあけぼの橋」(フジテレビ系)が、いまだに忘れられない。天海がスナックのママで、石田がチイママという設定の単発バラエティーだ。2人が、客としてやって来た小栗旬、西島秀俊、田中哲司らから“ここだけの話”を引き出していた。

元々、お目当ては石田だった。「逃げ恥」はもちろん、最近のお酒のCMで見せる“ほどよいユルさ”もすてきだ。この番組でも、ネットに「ポンコツ」と書かれたことをネタに周囲を笑わせていた。

ところが、番組を見終わって印象に残っていたのは、石田ではなく天海だったのだ。ママという役どころを超えた客への気配りが見事で、それぞれとの関係を踏まえ、投げるボールの速さも角度も微調整している。事前に仕込んだ相手に関する情報も、カードの切り方が達者なのでわざとらしくない。結果的に小栗も西島も“素”かと思わせるほど自然に話していた。

さて、本題の「緊急取調室」(テレビ朝日系)である。刑事ドラマとしては一種の“変則技”だ。通常の刑事ドラマは犯人を追いかけ、逮捕するまでを見せる。それに対して、このドラマでは逮捕が始まりで、目の前にいる容疑者との勝負が描かれる。いかにして容疑者に犯行を認めさせるか(場合によっては真犯人ではないことを認めさせるか)という取調室での心理戦が見どころだ。

密室の中で向き合う容疑者と取調官。動きも少なく退屈しそうなのに、一気に見てしまう。それは事件の背後に隠された、金や欲や見えなど人間の業のようなものが徐々にあぶり出されていくからだ。脚本家・井上由美子の手腕である。

夫を憎む妻(酒井美紀)は、夫婦で犯した罪を隠蔽(いんぺい)するため、皮肉にも夫と協力し合う。また犯罪者の娘として生きてきた女性教師(矢田亜希子)は、長年抱えてきた社会への恨みを暴発させる。そんな容疑者たちに対し、天海をはじめ大杉漣、でんでん、小日向文世といったメンバーが、それぞれ得意の揺さぶりをかけるのだ。

たとえば昔ながらのあめとムチによる「北風と太陽」作戦。また突然「敵(取調官)が味方になる」ことで容疑者をかく乱したりもする。ただし、決してヒロイン1人が活躍するわけではない。あくまでもチームプレーの勝利だ。それがこのドラマに滋味を与えている。

天海は「スナック取調室」のママかもしれない。同僚の刑事たちは常連。容疑者はいちげんの客である。ママと常連たちが醸し出す空気に酔い、容疑者はつい素の自分(真相)を明かしてしまうのだ。

(毎日新聞 2017.05.19)

毎日新聞で、「週刊テレビ評」の連載開始

2017年04月13日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評


倉本聰脚本『やすらぎの郷』
82歳の果敢な挑戦

倉本聰脚本『やすらぎの郷』(テレビ朝日系)が始まった。放送は平日の昼どき。視聴者としてどこかないがしろにされている高齢者層に向けた、まさに「シルバータイムドラマ」である。

物語の舞台は、テレビに貢献した者だけが入れるという無料の老人ホーム「やすらぎの郷」だ。過去と現在のギャップ、病や死への恐怖など、大物たちはそれぞれに葛藤を抱えている。演じるのは倉本の呼びかけに応じた浅丘ルリ子、有馬稲子、八千草薫など本物の大女優たちであり、虚実皮膜の人間喜劇が期待できそうだ。

主人公はベテラン脚本家の菊村栄(石坂浩二)。第1回では認知症だった妻(風吹ジュン)の死が描かれた。徘徊を繰り返し、夫さえ判らなくなった妻が亡くなったことを介護からの解放と感じ、「ホッとした自分が情けなかった」と菊村が言う。きれい事だけでは済まない人生の断面がそこにある。

また第2回では、東京を離れることを親友であるディレクターの中山(近藤正臣)に打ち明ける。自分も入りたいと言い出す中山。無理だと答える菊村。テレビ局にいた人間を除外するのはホームの創立者の方針だった。理由は「テレビを今のようなくだらないものにしたのはテレビ局そのものだから」。ドラマの台詞とはいえ、この痛烈なテレビ局批判は秀逸だ。

思い浮かぶのは1974年から翌年まで放送された、倉本の『6羽のかもめ』(フジテレビ系)である。最終回の“劇中劇”で、政府はテレビが国民の知的レベルを下げることを理由に「テレビ禁止令」を出す。テレビ局は廃止、家庭のテレビは没収となってしまう。ドラマの終盤、山崎努演じる放送作家が酒に酔った勢いでカメラに向かって憤りをぶつけた。

「(カメラの方を指さす)あんた!テレビの仕事をしていたくせに、本気でテレビを愛さなかったあんた!(別を指さす)あんた!――テレビを金儲けとしてしか考えなかったあんた!〔中略〕 何年たってもあんたたちはテレビを決してなつかしんではいけない。〔中略〕なつかしむ資格のあるものは、あの頃懸命にあの情況の中で、テレビを愛し、闘ったことのある奴。それから視聴者――愉しんでいた人たち」

このドラマから42年、テレビは中身の質より視聴率で評価することを続けてきた。その間、置き去りにされたのがシニア世代の視聴者だ。今回、倉本は彼らの“声なき声”に応えたのだ。『やすらぎの郷』は、生きるとは何かを問う人間ドラマであると同時に、テレビと真剣に向き合ってきた82歳の脚本家の果敢な挑戦でもある。

(毎日新聞夕刊 2017.04.07)