碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「新宿野戦病院」クドカンが描く、愛あるサバイバル

2024年07月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

宮藤官九郎脚本

「新宿野戦病院」

クドカンが描く「愛あるサバイバル」

 

新たな「クドカンドラマ」の登場だ。宮藤官九郎脚本「新宿野戦病院」(フジテレビ系)である。

物語の舞台は新宿・歌舞伎町にある「聖まごころ病院」。

主人公は2人いる。ヨウコ・ニシ・フリーマン(小池栄子)は元軍医の日系アメリカ人だ。英語と日本語(岡山弁)のバイリンガル。外科医を探していたこの病院で働くことになった。

もう1人は院長(柄本明)の甥で美容皮膚科医の高峰亨(仲野太賀)だ。ポルシェを乗り回し、港区女子とのギャラ飲みに励んでいる。無邪気な「ゆとりモンスター」だ。

ヨウコの信条は「遅かれ早かれ死ぬのが人間。目の前にある命は平等に助ける」。確かに戦地では男も女も善人も悪人も命に区別はない。

一方、亨には貧乏人も金持ちも平等に助けるという発想がない。両者のギャップが笑いを生んでいく。

この2人を取り巻く人たちがまたクセが強い。

何が起きても動じない、ジェンダー不詳の看護師長・堀井しのぶ(塚地武雅)。ギャラ飲みとパパ活の区別にこだわる、内科医の横山勝幸(岡部たかし)。さらに地域の支援活動家、南舞(橋本愛)もかなりのワケアリだ。

そこに反社、ホスト、不法移民、トー横少女など歌舞伎町に生息する多様な人々がからんでくる。

すでに元暴力団の老人による発砲事件も起きた。やはりここは戦場なのだ。クドカンが描く「愛あるサバイバル」に注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!」2024.07.09)


水川あさみ主演「笑うマトリョーシカ」奥行きのあるヒューマンサスペンスを期待

2024年07月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

水川あさみ主演

「笑うマトリョーシカ」

奥行きのあるヒューマンサスペンスを期待

 

7月になり、夏の連続ドラマが始まった。その中で早くも先週金曜にスタートしたのが、水川あさみ主演「笑うマトリョーシカ」(TBS系)だ。

主要人物は3人いる。道上香苗(水川)は東都新聞文芸部の記者。厚生労働大臣として初入閣した代議士、清家一郎(桜井翔)。そして清家の有能な秘書である、鈴木俊哉(玉山鉄二)だ。

初回は、スピーディーな展開と濃厚な中身で見る側を引きつけていた。カギとなるのは、香苗が清家を取材した際に感じた、強い「違和感」だ。若き総理候補とも呼ばれる清家だが、「主体性」というものが希薄だった。ソツのない言動も、まるで「AI」のようだ。

その分、秘書の鈴木が不思議な威圧感を放っている。香苗の目には彼が「策士」に見えた。清家を操っているのは鈴木かもしれないのだ。高校時代からの友人である清家と鈴木が、いかにして現在の立場までたどり着いたのか、知りたくなる。

さらに、清家が学生時代に書いた「卒業論文」が登場した。テーマは、ヒトラーを操ったという、エリック・ヤン・ハヌッセンだ。これもドラマの中でどう機能していくのか、かなり興味深い。

原作は早見和真の同名小説で、そこでの主な語り手は鈴木だ。しかしドラマでは、香苗を軸に絶妙なトライアングルが形成されている。3人の俳優が拮抗する、奥行きのあるヒューマンサスペンスが期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.07.02)


米倉涼子主演『エンジェルフライト』古沢良太の脚本が見事

2024年06月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

米倉涼子主演

「エンジェルフライト」

古沢良太の脚本が見事だ

 

海外で亡くなった人たちの遺体を、日本にいる遺族の元に届ける。それを実現するのが、「国際霊柩送還士」というスペシャリストだ。

米倉涼子主演「エンジェルフライト」(NHK BS)は、知られざる彼らの活動を描いている。

伊沢那美(米倉)が社長、柏木(遠藤憲一)が会長を務める「エンジェルハース」は羽田空港内にある会社だ。遺体送還の依頼があれば、世界のどこへでも飛ぶ。 

海外で不慮の事故や災害に遭遇した遺体は、ひどい損傷を負った場合が多い。那美たちは遺体に丁寧なエンバーミング(遺体衛生保全)を施し、生前の姿に近づけるのだ。 

マニラでギャングの抗争に巻き込まれて亡くなった青年。開発支援でアフリカ某国に赴き、テロ事件で命を落とした人たち。那美は新人の凛子(松本穂香)と共に、体を張って使命を果たす。

23日放送の第3話では、ソウルで急死した大衆食堂主人の恵(余貴美子)と、やはり現地で客死した会社社長の大波(井上肇)を同時に送還する事態が発生した。

悪天候で遺体を運べる便が限られ、那美たちはどちらを優先的に空輸するか、苦渋の選択を迫られる。

恵と大波、それぞれが歩んできた人生だけでなく、彼らの帰りを待つ人たちの思いも織り込まれた物語。予測を超えた鮮やかな展開を見せる、古沢良太(「どうする家康」など)の脚本が見事だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.06.26)


「探検ファクトリー」もの作りニッポンの真骨頂と矜持

2024年06月19日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「探検ファクトリー」NHK

〈オトナの工場見学〉で見えてくる

もの作りニッポンの真骨頂と矜持

 

土曜昼の「探検ファクトリー」(NHK)。テーマは「日本のもの作り」だ。お笑いコンビ・中川家の2人と吉本新喜劇座長のすっちーが、全国各地の「町工場」を訪ね歩いている。

始まったのは2022年4月だ。37年間も続いた「バラエティ生活笑百科」の後継枠だが、堂々の3年目に突入した。

記憶に残る回が何本かある。ノーベル賞の晩餐会でも使われる、高級スプーンやフォークを製造する新潟県燕市の工場。

バチカン宮殿や皇居からも注文が入るという山形県の絨毯(じゅうたん)工場。原盤作成からジャケット製作までを行う、横浜市のアナログレコード工場などだ。

共通するのは機械による大量生産ではなく、手仕事が中心であること。独創的なアイデアを実現する高い技術力を持つこと。そして働く人たちの濃いキャラクターだ。

先週の舞台は秋田県大仙市。体重や体脂肪を測る「体組成計」の工場だ。

体重はともかく、体脂肪をどうやって計測しているのか。以前から不思議だったが、今回判明した。 

体に微弱な電気を流し、その「流れにくさ」の数値を測定。独自の計算式に当てはめて筋肉や脂肪の量を導き出すのだ。

体組成計は4つのセンサーを持つ精密機器だ。それを1台ずつ手作業で組立てている。

「オトナの工場見学」で見えてくるのは、もの作りニッポンの真骨頂と、それを支える人たちの矜持(きょうじ)だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.06.18)

 


石橋静河主演「燕は戻ってこない」親子とは、夫婦とは、そして家族とは何なのか・・・

2024年06月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

石橋静河主演 

ドラマ10「燕は戻ってこない」NHK

親子とは、夫婦とは、

そして家族とは何なのか

 

石橋静河主演「燕は戻ってこない」(NHK)のテーマは代理出産だ。

毎回、冒頭に以下の文章が表示される。

「現在、第三者の女性の子宮を用いる生殖医療『代理出産』について、国内の法は整備されていない。倫理的観点から、日本産婦人科学会では本医療を認めていない」。

このドラマが、グレーゾーンにある微妙な医療行為を扱っていることへの配慮だ。

派遣社員のリキ(石橋)は経済的な苦しさから代理出産を引き受ける。依頼主は元バレエダンサーの草桶基(くさおけ もとい、稲垣吾郎)と妻の悠子(内田有紀)だ。

「代理母」として妊娠・出産すれば1千万円の報酬を得られるはずだが、内心は複雑だった。

さらに自分勝手な論理でリキを縛ろうとする基。彼女を「産む機械」としか見ていない基の母(黒木瞳)。本心では代理出産に賛成できない悠子。リキを取り巻く人たちの思いも交錯していく。

原作は桐野夏生の同名小説だ。最近、「セクシー田中さん」(日本テレビ系)で原作者と脚本家の関係をめぐる問題が起きたが、本作については心配ない。

原作の「核」となるものを、脚本がしっかりと反映しているからだ。朝ドラ「らんまん」などを手がけた長田育恵が、リキはもちろん、揺れ動く悠子の心理も丁寧にすくい上げる。

親子とは、夫婦とは、そして家族とは何なのか。デリケートかつスリリングな展開が続いている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.06.11)


「JKと六法全書」ヒロインが体現するギャップの面白さ

2024年06月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

金曜ナイトドラマ

「JKと六法全書」

ヒロインが体現する「ギャップ」の面白さ

 

朝ドラ「虎に翼」の主人公、猪爪寅子(伊藤沙莉)のモデルは三淵嘉子。戦前に女性初の弁護士となり、戦後は判事を務めた。女性の法曹界進出における先駆者だ。

そして2024年、ついに女性弁護士ならぬ「JKB=女子高生弁護士」が登場した。「JKと六法全書」(テレビ朝日系)の桜木みやび(幸澤沙良)である。

確かに、司法試験の受験や弁護士資格には年齢制限がない。みやびは祖母である桜木華(黒木瞳)が経営する法律事務所に所属。高校の制服のままで法廷に立っている。

このドラマを駆動しているのは、ヒロインが体現する「ギャップ」の面白さだ。

ごく普通の女子高生がヤクザの組長になる「セーラー服と機関銃」や、不良女子高生が刑事になった「スケバン刑事(デカ)」などと同様、女子高生と弁護士の組み合わせもかなりトリッキーだ。

みやびは、これまでに詐欺事件や殺人事件などを扱ってきた。

日常ではちょっと地味めな高校生である彼女が、法廷では堂々の弁論で被告の無罪を勝ち取っていく。このギャップが見る側に快感を与えるのだ。

思えば、8年前の「咲―Saki―」(MBS・TBS系)で、天才的な「女子高生雀士(じゃんし)」に扮して注目されたのが浜辺美波だった。

みやび役の幸澤は今回が主演第2作。2つの顔を持つ17歳を生き生きと演じており、今後が期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.06.04)

 

JKBの桜木みやび(幸澤沙良)

 


吉田鋼太郎「おいハンサム‼2」最後までハンサムだった

2024年05月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

最後までハンサムだった

吉田鋼太郎主演「おいハンサム‼2」

東海テレビ制作・フジテレビ系

 

吉田鋼太郎主演「おいハンサム‼2」(東海テレビ制作・フジテレビ系)は2年ぶりの続編だ。

舞台は前シーズン同様、源太郎(吉田)が妻の千鶴(MEGUMI)と暮らす伊藤家。3人の娘は独立しているが、何かあると実家に顔を出す。

独身の長女・由香(木南晴夏)は、いまだに元カレの大森(浜野謙太)と縁が切れないままだ。また夫の浮気で離婚した次女の里香(佐久間由衣)は、会社の屋上で出会った謎の男(藤原竜也)が気になって仕方ない。

そして三女の美香(武田玲奈)は、婚約者・ユウジ(須藤蓮)の浮気疑惑でモヤモヤが続いている。そんな家族の前で、ちょっとハンサムな顔をして人生訓を述べる源太郎も以前と変わらない。

軸となるのは、オムニバス形式のような同時並行で描かれていく娘たちの日常だ。何か事件や大きな出来事が起こるわけではないのに、目が離せない。

それは、ややトンチンカンな男選びも含め、彼女たちが「素の自分」で世間と向き合っているからだ。迷ったり悩んだりする姿がチャーミングかつユーモラスで、つい応援したくなる。

25日の最終回、源太郎の訓示は「選択」について。選ぶことは大切だが、正解を求め過ぎない。自分の選んだ道を正解にしていく。その上で、選択の責任は自分でとること。

そう語る源太郎は、やはり最後までハンサムだった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.29)


「9(ナイン)ボーダー」悩めるボーダーたちへの応援歌

2024年05月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

川口春奈主演「9(ナイン)ボーダー」

悩めるボーダーたちへの柔らかな応援歌

 

うまいタイトルをつけたものだ。川口春奈主演「9(ナイン)ボーダー」(TBS系)である。ここでは20代や30代といった各年代の最終年やその状態を指している。

孔子は「三十にして立つ、四十にして惑わず、五十にして天命を知る」などと、節目の年齢における理想像を「論語」で示した。

だが、実際に29歳や39歳というボーダーに立った時、何となく焦りを感じたり、どこか落ち着かない気分になる人は少なくないはずだ。

銭湯を営む大庭家の長女・六月(木南晴夏)は39歳。会計事務所を経営しているが、別居中だった夫と離婚した。

次女で29歳の七苗(川口)は勤めていた会社を勢いで辞めてしまった。そして、やや引っ込み思案の三女・八海(畑芽育)は19歳の浪人生だ。

3人は、「私、これからどうしたいんだ?」という迷いの中にいることで共通している。

しかし、彼女たちは基本的に元気だ。七苗がつき合い始めた記憶喪失の青年・コウタロウ(松下洸平)や、六月を慕う部下の松嶋(井之脇海)など、心優しき男たちが近くにいる。何より三姉妹が互いに支え合う姿がほほ笑ましい。

脚本は「恋はつづくよどこまでも」(TBS系)などで知られる金子ありさだ。

やりたいことや夢には時間制限がないこと。年齢で線引きして諦めないこと。このドラマは、悩めるボーダーたちへの柔らかな応援歌だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.21)

 

 


土曜ドラマ「パーセント」 NHK大阪が手掛ける野心作

2024年05月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

土曜ドラマ「パーセント」NHK

NHK大阪が手掛ける野心作

 

土曜ドラマ「パーセント」(NHK)の舞台は、ローカルテレビ局の「Pテレ」。主人公はバラエティ班で働く吉澤未来(伊藤万理華)だ。

ある日、提案していた学園ドラマの企画が採用される。念願のドラマ班に異動し、自分の企画を実現できると喜ぶ未来。

しかし、編成部長は条件を付ける。それはドラマの主人公を障害者の設定にすること。局が進めるキャンペーン「多様性月間」の一環だった。

やがて未来は、劇団に所属する車椅子の女子高生・ハル(和合由衣)と出会う。

障害の当事者である彼女に障害者の役を演じてもらおうとするが、「障害にめげずとか、乗り越えてとか、好きじゃない」と拒否される。

「障害者が何かしら壁を感じる時、社会のほうに問題がある。それは障害者が乗り越えることじゃない」と言い切った。

このドラマは、単なる「お仕事ドラマ」でも「障害者ドラマ」でもない。

管理職の30%に女性を登用する「クオータ制」や、従業員に占める障害者の割合を定めた「障害者雇用促進法」の意義は大きい。

だが、数値の設定だけでは解決しない問題があることを、物語に取り込もうとする野心作だ。

脚本は劇作家で演出家の大池容子によるオリジナル。制作統括は「カムカムエヴリバディ」などの安達もじり。

「バリバラ」を制作している、NHK大阪が手掛けるドラマであることも注目だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.05.14)

 


石原さとみ主演「Destiny」後半戦も期待できそうだ

2024年05月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

石原さとみ主演「Destiny」

後半戦も期待できそうだ

 

5月7日、石原さとみ主演「Destiny」(テレビ朝日系)が前半戦の第1部を終える。

横浜地検中央支部の検事・西村奏(石原)は、胸の奥に2つの重荷を抱えて生きてきた。

1つは大学時代の友人・カオリ(田中みな実)が、運転していたクルマを大破させて死亡したこと。2つ目が15歳の時に起きた、東京地検特捜部の検事だった父・英介(佐々木蔵之介)の自殺だ。

カオリの死をめぐっては、当時奏の恋人だった真樹(亀梨和也)がクルマに同乗しており、その後、消息不明となっていた。ところが真樹が突然現れ、奏は12年前に何があったのかを知る。

しかも真樹の父で弁護士の野木(仲村トオル)が、奏の父の死に関与していたことも浮上してきた。

奏が独白する。「罪を犯すか、犯さないか、紙一重なんだよね。人なんて分からない」

奏は検事という立場を生かしながら、父の死の真相を探り始めた。さらに真樹との再会で、婚約者である医師の奥田(安藤政信)との関係も微妙なものとなりそうだ。

サスペンスとラブストーリーの融合を目指した吉田紀子の脚本は、その構成力で見る側を引き込んでいく。

また3年ぶりの連続ドラマ復帰となる石原。過去と現在が交錯する展開の中で、抑制の利いた演技で感情の揺れを表現するなど、成熟度が増している。後半戦も期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.05.07)


日曜劇場「アンチヒーロー」魅力的なダークヒーローの登場

2024年05月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

日曜劇場「アンチヒーロー」TBS系

法はそれほど単純でも

一面的でもないことを教えてくれる

 

NHK朝ドラ「虎に翼」のヒロイン・猪爪寅子(伊藤沙莉)は、弁護士になることを目指して大学で法律を学んでいる。彼女が法に対する信念を表明する場面があった。

「私はね、法は弱い人を守るもの、盾とか傘とか温かい毛布とか、そういうものだと思う」。

確かに正論だが、法はそれほど単純でも一面的でもない。それを教えてくれるのが、今期の日曜劇場「アンチヒーロー」(TBS系)だ。

主人公である弁護士、明墨正樹(長谷川博己)は言う。「(依頼人が)本当に罪を犯したかどうか、我々弁護士には関係ないことだ」と。法の扱い方によっては、有罪であるべき人間も無罪に出来るということだ。

最初の案件は町工場社長の殺害事件。逮捕・起訴されたのは社員の緋山(岩田剛典)だ。

検察側は監視カメラの映像や現場にあった緋山の指紋、被害者から採取した皮膚のDNA鑑定、そして有力な証言などを並べて有罪を主張した。

明墨は違法すれすれの調査も辞さずに反証材料を集め、検察側の論拠を撃破してしまう。

さらに検察官と法医学者による証拠の捏造も暴いていく。最終的に緋山は無罪となるが、その真相は……。

明墨を突き動かしているのは、自分たちの都合でシロ(無罪)もクロ(有罪)にしてしまう、検察という権力に対する怒りだ。魅力的なダークヒーローの登場である。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.04.30)


「花咲舞が黙ってない」正義感だけではない強い憤り

2024年04月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

正義感だけではない強い憤り

今田美桜主演

「花咲舞が黙ってない」

 

第1シーズンの放送が2014年、第2シーズンはその翌年だった。「花咲舞が黙ってない」(日本テレビ系)が9年ぶりの復活である。

銀行本店が問題を抱えた支店を指導する「臨店班」。そこに配属された花咲舞が水面下の不祥事や悪事に立ち向かう。

最大の武器は、たとえ相手が上司であっても、間違ったことや筋の通らないことには、「お言葉を返すようですが!」と一歩も引かないガッツだ。

新シーズンでは、かつて杏が演じた舞は今田美桜に。臨店班の先輩・相馬も上川隆也から山本耕史にバトンタッチした。しかし、ドラマの基本構造は変わっていない。

第1話では、立場を利用して顧客から裏金を得ていた支店長をやり込めた。

そして第2話では、顧客の機密情報をライバル社に流すことで、有利な再就職を目論んだ中年行員にストップをかけた。

いずれの場合も、舞は正義感だけで相手を“成敗”するわけではない。そこには、立場の弱い者や抑圧されてきた者に対する共感からくる、強い憤りがあるのだ。

「私もこの銀行が正しいとは思っていません」と舞。だが、「銀行員としての道を踏み外してやったことは、働いている全ての行員を侮辱する裏切り行為です!」と言い切った。

そんな舞を「不祥事隠ぺい」の道具として扱う、執行役員(要潤)たちの存在も物語に適度な緊張感を与えている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.04.23)


「くるり~誰が私と恋をした?~」テーマは、自分って何?

2024年04月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「くるり~誰が私と恋をした?~」

「自分って何?」という

普遍的テーマが潜んでいる

 

火曜ドラマ「くるり~誰が私と恋をした?~」(TBS系)。主演は、これがゴールデン・プライム帯での連ドラ単独初主演となる生見愛瑠だ。

緒方まこと(生見)は階段からの転落事故で記憶を失ってしまう。名前はもちろん、自分に関する情報は皆無。唯一の手掛かりは、ラッピングされた男性用の指輪だった。

やがて彼女を知っているという男たちが現れる。会社の同僚で「唯一の男友達」と称する朝日結生(神尾楓珠)。フラワーショップの店主で、「元カレ」だという西公太郎(瀬戸康史)。さらに偶然出会った年下の青年、板垣律(宮世琉弥)も何やら訳アリふうだ。

主人公が記憶喪失という設定のドラマは珍しくない。たとえば木村拓哉主演「アイムホーム」(テレビ朝日系)がそうだったように、自分が何者で、何をしてきたのか。家族も含め周囲の人たちにとっての自分は、一体どんな人間だったのか。それが分からないことがサスペンスを生むからだ。

このドラマも、まことと3人の男をめぐる一種のミステリーになっている。しかし、それ以上に注目したいのは、「過去の自分」探しと「未来の自分」づくりが、同時進行していく物語の新しさだ。そこには「自分って何?」という普遍的なテーマが潜んでいる。

記憶喪失モノは暗くなりがちだが、生見の明るさを生かした出色のラブコメになりそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.04.16)


「アリバイ崩し承りますスペシャル」 浜辺美波は異色探偵がよく似合う

2024年04月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「アリバイ崩し承りますスペシャル」

浜辺美波は異色探偵がよく似合う

 

6日夜に放送された、浜辺美波主演「アリバイ崩し承りますスペシャル」(テレビ朝日系)。2020年の連ドラが単発形式で復活したのだ。

主人公は、亡き祖父から古い時計店と「アリバイ崩し」の能力を受け継いだ美谷時乃(浜辺)だ。原作は大山誠一郎の同名小説だが、ドラマは大きなアレンジを加えている。

時乃にアリバイ崩しを依頼するのが新米刑事ではなく、中年の管理官(安田顕)であること。もうひとつが、刑事の話を聞くだけで推理していた時乃を、現場にも行けるようにしたことだ。

今回の事件の被害者は、1人暮らしの資産家・富宰建一(春海四方)。重要参考人となった3人の甥や姪の中で、犯人の最有力候補は元シェフの朝倉正平(矢本悠馬)だった。しかし、朝倉には鉄壁のアリバイがあった。

宅配便のシステムを利用したトリック。替え玉によるアリバイ工作。時乃はそれらを見破っていくが、朝倉は逆転劇を仕掛けてくる。全体はライト感覚なミステリードラマでありながら、見る側を最後まで引っ張るストーリー展開は本格的だ。

何より、少ない手がかりをもとに明るく楽しそうに「アリバイ崩し」に挑む異色探偵が、浜辺によく似合う。前作から4年。朝ドラ「らんまん」や映画「ゴジラ-1.0」などを経て、硬軟自在な表現にも磨きがかかっている。

いずれ連ドラの新シーズンも期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.04.10)


Nスぺ「未解決事件/下山事件」歴史の闇に光を当てた秀作

2024年04月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHKスペシャル

「未解決事件 File.10 下山事件」

現在につながる歴史の闇に光を当てた秀作

 

3月30日の夜、NHKスペシャル「未解決事件File.10 下山事件」が放送された。これまでに「グリコ・森永事件」や「地下鉄サリン事件」などを扱ってきたシリーズの最新作である。

下山事件に関しては、松本清張「日本の黒い霧」をはじめ、長年様々な考察が行われてきた。現時点で、新たな視点や知られざる事実の提示は可能なのか。それが注目ポイントだった。

大きな軸の一つが、下山事件を担当した主任検事・布施健たちが残した極秘資料だ。

15年におよぶ捜査の内容が記された、700ページの膨大な資料を4年かけて解析し、取材を進めていく。浮かび上がってきたのは、GHQ直轄の秘密情報組織「キャノン機関」がソ連に送り込んだ、韓国人二重スパイの存在だ。

さらに制作陣は、キャノン機関に所属していた人物をアメリカで見つけ出す。二重スパイの写真を見せると、面識があったと証言した。

またGHQの下部機関であるCIC(対敵情報部隊)にいた人物の遺族とも面談し、本人が「あれは米軍の力による殺人だ」と語っていたことを聞き出す。事件はアメリカの反共工作の中で起きていたのだ。

番組は森山未來が布施検事を演じるドラマ編と、ドキュメンタリー編の2部構成。両者は合わせ鏡のように補完しあいながら、現在の日本社会に繋がる歴史の闇に光を当てており、見応えがあった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.04.02)