碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

今期ドラマの隠れた佳作「アイのない恋人たち」

2024年03月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

今期ドラマの隠れた佳作

「アイのない恋人たち」

朝日放送・テレビ朝日系

 

先日、福士蒼汰主演「アイのない恋人たち」(朝日放送・テレビ朝日系)が幕を閉じた。

主な登場人物は30代の男女7人だ。売れない脚本家の真和(福士)。食品会社で企画開発をしている多門(本郷奏多)。交番勤務の警察官・雄馬(前田公輝)。3人は高校時代からの友人だ。

彼らは多門の同僚である栞(成海璃子)、ブックカフェを営む絵里加(岡崎紗絵)、区役所勤務の奈美(深川麻衣)たちと合コンで知り合う。

やがて多門と栞、雄馬と奈美、そして真和と絵里加という3組のカップルが出来る。しかし真和には、初恋の相手だった愛(佐々木希)という忘れられない女性がいた。

かつての「男女七人夏物語」のような、にぎやかな恋愛群像劇かと思いきや、全く違った。

それぞれが他者との距離感をうまくつかめないでいる。無理に本音を隠したり、逆に思わぬ形で本音をぶつけることで、相手も自分も傷つけてしまう。

恋愛も含め、自分がこれからどう進めばいいのか、戸惑うばかりの7人。そこには見る側と地続きの等身大の姿があり、時には自画像を突き付けられるような痛みがあった。

脚本の遊川和彦が描こうとしたのは、普通の人が日常を生きる中で抱える不安や迷い、同時にその先にある希望だったのではないか。

福士たちキャストの好演もあり、今期ドラマにおける“隠れた佳作”となった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.26)


ドラマ「舟を編む」原作をより深めた脚本、後半も期待

2024年03月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「舟を編む~私、辞書つくります~」

NHKBS

原作をより深めた脚本、後半も期待だ

 

ドラマ「舟を編む~私、辞書つくります~」(NHKBS)の主人公は、出版社に勤務する岸辺みどり(池田エライザ)だ。

ファッション雑誌の編集者だった彼女は、突然、辞書編集部への異動を命じられる。そこでは作業開始から13年という辞書「大渡海」の編纂が行われていた。

当初は戸惑っていたが、変わり者の主任・馬締光也(まじめみつや、野田洋次郎)に影響され、辞書作りにハマっていく。

原作は2012年に本屋大賞を受賞した、三浦しをん「舟を編む」だ。この小説では、営業部から引き抜かれてきた馬締の歩みが軸となっていた。また2013年に松田龍平主演で映画化された際も、ほぼ原作通りだった。

一方、このドラマでは原作の後半に登場する、みどりをヒロインに据えた。彼女は馬締のような言葉の天才ではない。ごく普通の女性だ。

いや、だからこそ見る側は、彼女を通じて言葉の面白さや奥深さ、辞書を編む作業やその意味を身近に感じることができる。

たとえば、「恋愛」の「語釈(語句の意味の説明)」を任されたみどりは、既存の辞書が「男女」や「異性」に限定していること気づく。感情論ではない根拠と、異性を外しても成立する語釈を探っていくのだ。

原作をより深めた、蛭田直美の脚本。それぞれの個性を生かした、池田や野田の演技。全10話の半ばまで来たが、後半も大いに期待できそうだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.19)


異なる脚本家と演出家による競作「ユーミンストーリーズ」

2024年03月13日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

夜ドラ「ユーミンストーリーズ」NHK

異なる脚本家と演出家による

競作としても楽しめる

 

興味を引く企画だ。ユーミンこと松任谷由実の楽曲に触発されて書かれた短編小説をベースに、3本のオムニバスドラマが作られた。夜ドラ「ユーミンストーリーズ」(NHK)である。

先週放送された1本目は、綿矢りさが原作小説を書いた「青春のリグレット」だ。

結婚して4年の菓子(かこ、夏帆)は夫・浩介(中島歩)の浮気を知り、2人の関係を修復しようと旅行に誘う。行き先は八ヶ岳のコテージ。だが、そこで浩介から離婚を切り出され……。

菓子が八ヶ岳に来たのは2度目だ。以前つき合っていた陸(金子大地)と一緒だった。陸を物足りない相手と思っていた菓子は、旅行の後で別れてしまう。

これからどうするのかと陸に訊かれ、「次につき合う人と結婚するかな?」と菓子。陸はたったひと言、「無理だよ」と突き放す。

岨手(そで)由貴子の脚本は原作を大胆にアレンジしている。過去と現在、2つの旅が交差する構成が見事だ。

かつて誰かを傷つけ、惨めな思いをさせてきた自分。そして今、深く傷つき、惨めな思いをしている自分。

しかし、そこにあるのは「リグレット(後悔)」だけではない。人生の岐路に立つ30代女性を、夏帆が繊細に演じていく。

今週放送されているのは柚木麻子原作の「冬の終り」。来週は川上弘美の「春よ、来い」だ。異なる脚本家と演出家による競作としても楽しめる。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.12)


「Eye Love You」テオ君の可愛らしさがハンパじゃない!

2024年03月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

テオ君の可愛らしさがハンパじゃない!

二階堂ふみ主演「Eye Love You」TBS系

 

二階堂ふみ主演「EyeLove You」(TBS系)には大きな特色が2つある。

まず、ヒロインの侑里(二階堂)が、他者の心の声が聞こえる「テレパス」の能力を持っていること。そして、恋の対象がテオ(チェ・ジョンヒョプ)という年下の韓国人青年であることだ。

見ていると、「マカロニ・ウエスタン」を思い出す。1960年代から70年代にかけて人気を博した、イタリア製の西部劇だ。クリント・イーストウッド主演「荒野の用心棒」などがあった。

このドラマ、いわば日本製の韓国恋愛ドラマのようなものだ。なまじ相手の本音が分かってしまうため、恋愛を遠ざけてきた侑里。しかし、テオは韓国語なので心の声は理解できない。

誤解や気持ちのすれ違いはあったが、ようやく自分も好きだと伝えることができた。やや現実離れしている侑里の純情ぶりも、「和製韓流ドラマ」だと思えば微笑ましい。

それにしても、「テオ君」の愛玩動物的可愛らしさが半端じゃない。キュートなキャラクターは韓国恋愛ドラマには必須。

日本人俳優がキラキラした目で「僕は侑里さんの特別になりたいです!」などと言ったら、テレくさくて見ていられないだろう。韓流、恐るべし。

人の心を読む能力が登場する韓国ドラマには「君の声が聞こえる」などがあるが、本作は三浦希紗と山下すばるによるオリジナル脚本だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.03.05)

 


日曜劇場 「さよならマエストロ」音楽は人の心を救うことができる

2024年02月28日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「音楽は人の心を救うことができる」

日曜劇場

「さよならマエストロ

 ~父と私のアパッシオナート~

 

早い。もう2月が終わろうとしている。日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」(TBS系)も第7話まで放送された。

夏目俊平(西島秀俊)は世界的指揮者。娘の響(芦田愛菜)は、かつて有望なバイオリニストだった。

しかし彼女は5年前の「事件」でバイオリンを捨て、以来、俊平を拒絶し続けている。俊平も音楽から離れた。

しかも、俊平は妻で画家の志帆(石田ゆり子)から離婚を迫られている。音楽に没頭するあまり、自分や家族を顧みない夫に愛想をつかしたのだ。

「あなたが指揮棒振ってる間、私は人生棒に振ってた」と手厳しい。このドラマ、父娘を含む家族再生の物語なのだ。

最近、ようやく5年前の出来事の真相がわかってきた。「(父と)共演するには、私は(力が)足りなかった。そんなつまらないことで、私は家族を壊したんです」と響。沈む彼女を、市役所の同僚である大輝(宮沢氷魚)が支えていく。

音楽に愛された指揮者と不器用すぎる父親の両面を巧みに演じる西島。思春期から脱出できないもどかしさを抱えた娘を、丁寧に見せる芦田。終盤に向って、2人の更なる化学反応が楽しみだ。

今月6日、指揮者の小澤征爾さんが亡くなった。享年88。小澤さんは、「音楽は人の心を救うことができる」という俊平の言葉を体現する、真のマエストロだった。合掌。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.02.27)

 


反町隆史主演「グレイトギフト」クセが強くて先が読めない

2024年02月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

反町隆史主演

「グレイトギフト」

クセが強くて先が読めない!

 

反町隆史主演「グレイトギフト」(テレビ朝日系)は、かなりクセの強い医療ミステリーだ。

藤巻達臣(反町)は大学病院の病理医。コミュニケーションが苦手で、院内での存在感も薄い。ところが、未知の殺人球菌「ギフト」を発見したことで運命が変わる。

人間の体内に入ったギフトは瞬時に死をもたらし、その後消滅する。症状は心不全にしか見えず、完全犯罪が可能だ。

病院教授の白鳥(佐々木蔵之介)も、藤巻の同僚で心臓外科医の郡司(津田健次郎)も、ギフトを利用して巨大な権力を握ろうとしている。

一方、藤巻は入院中の妻(明日海りお)を盾に取られ、白鳥の命令に従ってギフトの培養を続けるばかりだ。いわば悪に加担しているわけで、正義のヒーローではない。

しかも妻と郡司は不倫関係だったりする。その優柔不断ぶりも含め、「藤巻どーする?」とツッコミを入れながら見るのがこのドラマの醍醐味だ。

また、藤巻の相棒的な検査技師・久留米(波瑠)も相当の変わり者。藤巻を恋愛対象ではなく「人間として好き」と言うが、敵か味方か不明だ。

さらに高級ラウンジのオーナーである杏梨(倉科カナ)や、病院事務長の本坊(筒井道隆)など、クセ強系の人物ばかりが並ぶ。

脚本は「ラストマン―全盲の捜査官―」などを手がけた、黒岩勉のオリジナル。先が読めないことがありがたい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.02.20)

 


「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」三拍子そろったVTRの出来の良さ

2024年02月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

三拍子そろったVTRの出来の良さ

「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」

 

この春、5周年を迎える「有吉のお金発見 突撃!カネオくん」(NHK)。今やNHKを代表する教養バラエティ番組となっている。

司会の有吉弘行とカネオくん(声は千鳥ノブ)やゲストとのやり取りが楽しいが、番組を支えているのはそれだけではない。何よりカネオくんの突撃調査、つまり取材VTRの出来の良さがある。

先週は特別編として、いくつかの「製造工場」を見せていた。たとえば、静岡県の工場では毎日20万丁もの豆腐を生産している。

大豆を水にひたす、豆乳の抽出、同じサイズに切るなどの工程を追っていたが、驚いたのは専用ロボットによるパック詰め。容器に豆腐を入れるのではなく、豆腐に容器をかぶせていくのだ。

また、ケーキ工場では1500万円の「卵割りマシン」が、1日に50万個の卵を処理。次に5000万円の「超ロングオーブン」がスポンジを焼き上げるが、仕上げは機械と職人の協働作業となる。

しかもショートケーキにイチゴをのせるのは、型崩れしないよう、店に到着してから行っていた。そんな工夫も小さな発見だ。

綿密な取材。丁寧な編集。わかりやすい説明。三拍子そろったVTRをより完璧なものにしているのが、視聴者の驚きや疑問を代弁するノブの話術と、明瞭かつキュートで耳に心地いい小坂由里子のナレーションだ。

長寿番組の秘密はこういうところにもある。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.02.13)

 


秀逸なおっさんの成長物語「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」

2024年02月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

秀逸なおっさんの成長物語

「おっさんのパンツが

  なんだっていいじゃないか!」

 

東海テレビ・フジテレビ系「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」は、今期出色の深夜ドラマだ。

主人公の沖田誠(原田泰造、好演)はリース会社の室長。「男が上を目指さないでどうする!」などと部下を叱咤してきた。しかし、本人には当然の言動も、部下たちにとってはパワハラやセクハラだったりする。

家庭内でも同様で、妻の美香(富田靖子)には愛想をつかされ、娘の萌(大原梓)には煙たがられ、息子の翔(城桧吏)には全否定される始末。特に、ひきこもりで、「男らしさ」の強制を嫌う翔が悩みの種だ。

そんな誠が翔の慕う大学生、五十嵐大地(中島颯太)と出会う。ゲイである大地から勧められたのが「モラルのアップデート」だった。

だが、凝り固まった偏見をなくし、倫理観とマナーを更新することは簡単ではない。失敗を重ねる誠の姿に、見る側もつい自身を投影してしまう。おっさんの成長物語として秀逸だ。

ある日、誠が気づく。性別や性的指向は「おっさんのパンツ」みたいなものだと。

何をはいても誰の迷惑にもならない。プライベートなことであり、公表する必要もない。それに家族だって違う人間だ。他者が大事にしているものを自分の尺度で否定してはいけない。

原作は練馬ジムの同名漫画。藤井清美の脚本が原作のメッセージをしっかりと伝えている。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.02.07)


ドラマ「不適切にもほどがある!」は、確信犯的問題作だ

2024年01月31日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

確信犯的問題作だ

「不適切にもほどがある!」

 

1月ドラマというより、早くも「今年のドラマ界」の収穫かもしれない。宮藤官九郎脚本「不適切にもほどがある!」(TBS系)だ。

中学校の体育教師である小川市郎(阿部サダヲ)は、昭和61年から令和6年へとタイムスリップ。

そこで出会うヒト・モノ・コトに驚きながらも、ぬぐえない「違和感」に対しては、「なんで?」と問いかけていく。

初回の見せ場の一つが、会社員の秋津(磯村優斗)が居酒屋でパワハラの聴き取りを受けているところに遭遇した場面だ。

秋津は部下の女性への言動が問題視されていた。「期待しているから頑張って」がパワハラだと専門部署の社員。当の女性は会社を休んだままだ。

聞いていた市郎が思わず言う。

「頑張れって言われて会社を休んじゃう部下が同情されて、頑張れって言った彼が責められるって、なんか間違ってないかい?」。

専門社員は、何も言わずに寄り添えばよかったと答える。

しかし、市郎は「気持ち悪い!なんだよ、寄り添うって。ムツゴロウかよ」。

さらに、「冗談じゃねえ!こんな未来のために、こんな時代にするために、俺たち頑張って働いてるわけじゃねえよ!」。

このドラマ、「昭和のおやじ」が令和の世界で笑われる話ではない。「コンプライアンス全能」の現代社会に、笑いながら疑問符を投げつける、確信犯的問題作だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.01.30)

 


木梨憲武&奈緒「春になったら」 ドラマは時々、 現実との不思議な符合をみせることがある

2024年01月25日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

木梨憲武&奈緒「春になったら」

ドラマは時々、

現実との不思議な符合をみせることがある

 

月10ドラマ「春になったら」(カンテレ・フジテレビ系)は、父と娘の物語だ。椎名雅彦(木梨憲武)は62歳の実演販売士。一人娘で助産師の瞳(奈緒=写真)と2人暮らしだ。

今年の元日、互いに伝えたいことがあると言い出した。「3カ月後に結婚します!」と宣言する瞳。雅彦は「3カ月後に死んじゃいます!」と告白する。

当初、瞳は雅彦の冗談だと思っていたが、そうではなかった。ステージ4の膵臓がんで余命3カ月とわかったのだ。

雅彦のほうは、瞳の相手である川上一馬(濱田岳)が売れないお笑い芸人で、しかもバツイチの子持ちと知って猛反対。2人の怒涛の3カ月が始まった。

ドラマは時々、現実との不思議な符合をみせることがある。昨年末に「ステージ4の膵臓がん」を公表した、経済アナリスト・森永卓郎氏(66)の顔が浮かんだ。

森永氏は「最後まで闘う」と言って入院し、治療に専念している。一方、雅彦は治療を拒み、「やりたいことをやって死ぬ」と覚悟を決めている。

どちらが正しい、間違っているという話ではない。個々の人生観や死生観にかかわる選択であり決断だ。雅彦は「死ぬ前にやりたいことリスト」を作って動き出す。

脚本は福田靖(朝ドラ「まんぷく」など)のオリジナル。達者な演技の奈緒はもちろん、“俳優・木梨”の頑固おやじもいい味を出している。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2024.01.24)

 

 


「となりのナースエイド」単なる”医療系お仕事ドラマ”ではなさそうだ

2024年01月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「となりのナースエイド」

単なる「医療系お仕事ドラマ」

ではなさそうだ

 

これはまた面白い題材を持ってきたものだ。川栄李奈主演「となりのナースエイド」(日本テレビ系)である。

ナースエイドとは、ナース(看護師)をサポートする「看護助手」のこと。患者ためのベッドメイキング、食事の介助、移動の手助けなど、看護師の資格がなくても可能な作業だけを行う。

主人公の桜庭澪(川栄)は、大学病院の統合外科に配属された、新人ナースエイド。この仕事に意欲を燃やしているが、ナースエイドを見下すような医師やナースもいて、ちょっと複雑な気分だ。

しかも初日から騒動が起きる。待合室にいた外来患者の様子がおかしい。澪は医師に急いで診察するよう進言するが、拒否される。

エイドが医師にアドバイスするのはNGなのだ。結果的にその患者を助けることになったが、澪には「前向きバカ」のニックネームが付く。

さらに澪は、天才外科医・竜崎大河(高杉真宙)が手術を担当する患者(梶原善)の異変も見抜いてしまう。そんな澪の観察力と知識は普通ではない。竜崎も彼女が何者なのか気になり始める。

この作品、単なる「医療系お仕事ドラマ」ではなさそうだ。確かにナースエイドは「患者に寄り添い心を癒すプロ」だが、その柔らかなイメージの奥に意外なサスペンス性を潜ませている。

民放ゴールデン・プライム帯の連ドラ初主演となる、川栄の演技も見ものだ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.01.16)

 


「義母と娘のブルース」いつか復活して欲しい名シリーズ

2024年01月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「義母と娘のブルースFINAL

  2024年謹賀新年スペシャル」

いつか復活して欲しい名シリーズだった

 

正月2日に「義母と娘のブルースFINAL2024年謹賀新年スペシャル」(TBS系)が放送された。18年に連ドラとして登場し、20年と22年のスペシャルを経て、ついに完結である。

主人公は、かつて業界トップの金属会社の部長だった亜希子(綾瀬はるか)。ライバル会社の良一(竹野内豊)と結婚し、8歳の娘の義母となった。

病気で余命わずかだった良一と亜希子が到達した夫婦像は「二人三脚」ではなく「リレー」。娘というバトンを引き受けて走るリレーだった。

このドラマは成長した娘・みゆき(上白石萌歌)が語る、「義母」と「家族」をめぐる物語だ。

足掛け7年の放送だったが、亜希子のキャラクターが常に際立っていた。

家でも外でもビジネスウーマンの姿勢を崩さない。奇妙なほど事務的で丁寧な話し方。何事にも戦略的に取り組むバイタリティー。それでいて、どこか抜けているから目が離せない。

笑わせたり泣かせたりの展開を通じて、夫婦や親子について考えさせてくれた。

脚本は「大奥」(NHK)などの森下佳子。今回も印象的な場面と台詞が並んだ。

みゆきの結婚式で亜希子が言う。「13年間、あなたそのものが私の奇跡でした」。また、亜希子の健康を心配するみゆきは「子どもに死ぬ背中を見せるのは親のミッションだよ!」。

いつか復活して欲しい名シリーズだった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2024.01.09)


2023年の「秀作ドラマ」トップ5

2023年12月30日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「TV見るべきものは‼」年末拡大版

2023年の「秀作ドラマ」トップ5

 

今年もまた、数えきれないほど多くのドラマが放送された。中には話題を呼んだ大作もあれば、痛々しいほどの不発弾もある。

その一方で、「文化としてのドラマ」という意味で高く評価したい秀作や意欲作も存在した。トップ5の順位をつけてはいるが、それぞれに個性的で魅力的な作品だ。2023年の成果として、ここに記しておきたい。

第5位 「何曜日に生まれたの」(ABCテレビ・テレビ朝日系、8月6日~10月8日放送)

1960年代のヒット曲、ザ・ホリーズの「バス・ストップ」が印象的なこのドラマ、脚本は野島伸司だ。黒目すい(飯豊まりえ)は高校時代のバイク事故をきっかけに、その後10年にわたって引きこもっている。事故を起こしたのはサッカー部のエース、雨宮淳平(YU)だった。

そんなすいが、作家の公文竜炎(溝口淳平)の依頼で新作小説のモデルを務める。売れない漫画家の父・丈治(陣内孝則)が、その小説を原作に作品を描くことになったからだ。

すいの言動を盗聴する、公文や編集者の来栖(シシド・カフカ)。外に出たり人と接したりすることで、徐々に精神的な回復を見せる、すい。最終的に、盗聴を逆利用して、過去の出来事に心を縛られていた公文も救うことになる。

虚構と現実、過去と現在が交錯する物語展開は、まさに野島ワールド。やや現実離れした設定だが、野島が練り上げた台詞の妙と飯豊の自然体の演技が、物語に不思議なリアリティを与えていた。

第4位 「フェンス」(WOWOW、3月19日~4月16日放送)

2022年に本土復帰50年を迎えた沖縄が舞台のドラマだ。雑誌ライターの小松綺絵(松岡茉優)は、米兵による性的暴行事件の被害を訴えるブラックミックスの女性、大嶺桜(宮本エリアナ)を取材するためにやって来た。

桜の経営するカフェバーを訪ね、彼女の祖母・大嶺ヨシ(吉田妙子)が沖縄戦体験者で平和運動に参加していることや、父親が米軍人であることを聞く。

一方、綺絵は都内のキャバクラで働いていた頃の客だった沖縄県警の警察官・伊佐兼史(青木崇高)に会い、米軍犯罪捜査の厳しい現実を知る。

浮かび上がってくる事件の深層。ジェンダーや人種、世代間の相違、沖縄と本土、日本とアメリカなど、さまざまな“フェンス”を乗り越える人間の姿が描き出されていく。

脚本は「アンナチュラル」(TBS系)などの野木亜紀子だ。制作会社はNHKエンタープライズ。沖縄の現在と正面から向き合う、緊張感に満ちたクライムサスペンスだった。

第3位 「日曜の夜ぐらいは…」(ABCテレビ・テレビ朝日系、4月30日~7月2日放送

一見、どこにでもいそうな女性たちの物語である。足の不自由な母(和久井映見)を支えながら働くサチ(清野菜名)。地方在住の若葉(生見愛瑠)は祖母(宮本信子)と同じ工場に勤務。そして翔子(岸井ゆきの)は1人暮らしのタクシー運転手だ。

それぞれの鬱屈を抱えて生きる彼女たちが、ラジオのリスナー限定バスツアーで知り合う。その時3人で買った宝くじが当たり、3000万円を得たことで事態が動き出す。結局、共同出資でカフェを開くことになった。

サチに金の無心をする父親(尾美としのり)や、若葉の有り金を持ち去る母親(矢田亜希子)を振り切り、翔子の口癖である「つまんねえ人生」を変えることはできるのか。

生きることに不器用で、幸福になることを恐れているような3人が何とも切なく愛おしい。等身大の女性の微妙な感情を、脚本の岡田恵和が繊細にすくい上げていく。清野たちのリアルな演技も見どころだった。

第2位 「ブラッシュアップライフ」(日本テレビ系、1月8日~3月12日放送)

主人公は地方の市役所に勤務する近藤麻美(安藤サクラ)だ。仲のいい幼なじみ(夏帆と木南晴夏)もいて、何の不満もなく暮らしていた。

ところがある日、交通事故で死亡してしまう。気がつくと「死後案内所」にいた。受付係(バカリズム)から「来世ではオオアリクイ」だと告げられ、抵抗した麻美は「今世をやり直す」ことを選ぶ。ただし前よりも「徳を積む」必要があった。

麻美は再度の誕生から社会人へと至る「2周目の人生」を歩み始める。周囲に悟られることなく人生に修正を施すため、勝手な“善行”に励む様子が何ともおかしい。しかも、このやり直しが何度も続くのだ。

日常的「あるある」満載の脚本はバカリズム。シリアスなのにユーモラスな言葉の連射と軽快なテンポが心地よかった。

人生のやり直しを通じて「生きること」の意味を探る秀作であり、第39回ATP賞グランプリなどを受賞した。制作会社は日テレ アックスオン。

第1位 「グレースの履歴」(NHK・BSプレミアム、3月19日~5月7日放送)

製薬会社の研究員である蓮見希久夫(滝藤賢一)は、子どもの頃に両親が離婚し、唯一の肉親だった父も他界した。家族は家具のバイヤーである妻、美奈子(尾野真千子)だけだ。

仕事を辞めることにした美奈子は、区切りの欧州旅行に出かけ、不慮の事故で急死してしまう。希久夫は現れた弁護士から、実は美奈子が命にかかわる病気の治療を続けていたことを告げられる。

遺されたのは、美奈子が「グレース」と呼んでいた愛車、ホンダS800だけだ。そのカーナビには彼女が打ち込んだ、いくつもの住所が残されていた。

このドラマ、今は亡き愛する人が仕掛けた謎を追う、いわばロードムービーである。古いクルマでの移動だからこそ味わえる、美しい日本の風景。歴史のある街で出会う、かけがいのない人たち。

そこには人生の苦みや痛みもあるが、まさに再び生きるための旅だ。それを深みのある映像と、絞り込んだ台詞で構成することによって成立させていた。

制作会社はオッティモ。見事な“大人のドラマ”の原作・脚本・演出は、「スローな武士にしてくれ~京都 撮影所ラプソディ―」などの源孝志だ。

2024年への期待

最近の傾向ではあるが、今年は特に漫画原作のドラマが目立った。「きのう何食べた? season2」(テレビ東京系)や「波よ聞いてくれ」(テレビ朝日系)といった佳作もあるが、原作に“おんぶに抱っこ”の作品も皆無ではない。

今回挙げた5作は、結果的にいずれも「オリジナル脚本」だ。ドラマの根幹である人物像とストーリーがゼロから創り上げられている。そこにはドラマならではの新たな挑戦があり、ドラマでしか堪能できない醍醐味がある。

来年も、漫画や小説を足場にしたドラマに加え、1本でも多くのオリジナル作品が登場することを期待したい。それが見る側の気持ちを揺さぶるドラマであれば大歓迎だ。

(日刊ゲンダイ 2023.12.27)


NHK「大奥」は “火曜夜の大河ドラマ”と呼びたい力作

2023年12月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHKドラマ10「大奥 Season2」は

“火曜夜の大河ドラマ”と呼びたい力作

 

男女逆転の大奥を舞台とする、NHKドラマ10「大奥 Season2」が完結した。今年1月期のシーズン1に続き、今回もその“ドラマ的熱量”に圧倒された。

前半の「医療編」では、男子の命を奪う「赤面疱瘡」の撲滅を目指す田沼意次(松下奈緒)や平賀源内(鈴木杏)の奮闘が描かれた。

また後半の「幕末編」では幕府崩壊へと向かう動乱の時代を背景に、13代将軍・徳川家定(愛希れいか)と御台所・天璋院(福士蒼汰)の情愛や、公武合体で朝廷から降嫁してきたニセの和宮(岸井ゆきの)をめぐる騒動などから目が離せなかった。

やがて江戸城は無血開城され、大奥も消滅。

アメリカ行きの船上で天璋院が出会ったのは、日本初の女子留学生のひとり、津田梅子(宮崎莉里沙)だ。少女の梅子は、父から「よき妻となるため」の留学と聞かされていた。

しかし、天璋院は言う。「大きなことをなさるのは、きっと(女性である)あなたご自身かと」

このドラマ、奇抜な設定をテコにして、親子、夫婦、ジェンダーや差別など多彩な現代的課題を織り込んできた。それを支えたのは俳優陣の熱演だ。

松下、鈴木、愛希、岸井は、シーズン1の5代将軍・綱吉の仲里依紗や8代将軍・吉宗の冨永愛らに負けない存在感を見せていた。

2つのシーズンを合わせて「火曜夜の大河ドラマ」と呼びたい力作だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.12.20)


篠原涼子・山崎育三郎の「ハイエナ」 惜しかったのは2点

2023年12月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

篠原涼子・山崎育三郎

「ハイエナ」

惜しかったのは2点

 

先週、篠原涼子と山崎育三郎のダブル主演作「ハイエナ」(テレビ東京系)が幕を閉じた。

高卒で司法試験にパスし、裁判で勝つためには際どい手段も辞さない雑草系弁護士の結希凛子(篠原)。法曹界のエリート一家に生まれた、サラブレッド弁護士の一条怜(山崎)。

対照的な2人の生存競争と恋愛模様を描くドラマだ。原作は韓国ドラマで、脚本は篠原主演「アンフェア」などの佐藤嗣麻子が手掛けた。  

前半では裁判で敵対してきた凛子と一条が、後半では同じ大手弁護士事務所の中でタッグを組んだ。

2人が手掛けるのは、ITベンチャー企業の社長が、顧客の個人情報をアダルトサイトに流し、巨額の報酬を得たとして逮捕された案件だ。  

社長を告発した元社員の男性を調査し、女性社員のパワハラ自殺の真相を解明していく2人。

また同時進行で、かつて凛子と父親との間で起きた殺人未遂事件の謎も明らかになる。

そして凛子は再びフリーランスの弁護士へと戻っていった。  

篠原が演じるアウトロー感も山崎の純情感も、それぞれの持ち味を生かして悪くない。

ただ、惜しかったのは2点。

凛子の弁護士としての行動が、死肉をあさるハイエナにたとえるほど強烈ではなかったこと。もう一つは、全体として弁護士ドラマの醍醐味である法廷場面が少なかったことだ。

もし続編があるなら、一考してみていただきたい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2023.12.13)