碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

奈緒の主演女優宣言「ファーストペンギン!」

2022年10月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

奈緒の“主演女優宣言“

「ファーストペンギン!」

日本テレビ系

 

 

連続ドラマの第1話で大事なことは何か。

脚本家の倉本聰は、新著「脚本力」の中でこう言っている。

「お客を可能な限り早く、その世界に引きずり込むということがドラマの鉄則じゃないかと思う。その吸引する速度、吸引するまでの時間というのをうんと短縮してやる必要がある」

その意味で、5日に始まった「ファーストペンギン!」(日本テレビ系)は見事だった。主人公は食い詰めたシングルマザーの和佳(奈緒)。

彼女が崖っぷちに立つ漁師の片岡(堤真一)たちと一緒に、漁業と自分の人生の起死回生を目指す物語であることを冒頭の5分で伝えていたからだ。

港町のホテルで仲居となった和佳。ある宴席で彼女の仕事ぶりを目撃した片岡は、寂れた港の「再生」に手を貸して欲しいと頼み込む。

和佳の目から見ると、漁師たちの苦境の原因は漁協にあった。船の燃料の調達から流通まで、仕事の全てを支配されているのだ。

和佳は漁協から離れ、消費者と直接繋がる方策を提案するが、片岡たちは尻込みする。

すると和佳がキレた。「このままじゃ浜は死ぬ。何とかしてくれって泣きついてきたのは、どこのどいつだよ!」と怒濤の啖呵が止まらない。

これが奈緒の“主演女優宣言“とも言える名シーンとなった。

脚本は「義母と娘のブルース」などの森下佳子。奈緒の代表作となる予感と共に期待が膨らむ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.10.12)


ドラマ 「さよならの向こう側」 貴重な24時間をどう使うか

2022年10月07日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

4週連続ドラマ

「さよならの向こう側」

貴重な24時間をどう使うか

 

木曜深夜に放送中の4週連続ドラマ「さよならの向う側」(読売テレビ制作・日本テレビ系)は、現世とあの世の境界が舞台だ。

そこには「案内人」なる男(上川隆也)がいて、死者に「24時間だけ。会いたい人に、会うことが可能」だと教える。ただし、「死亡したことを知らない人に限る」という条件付きだ。

第1話の主人公は不慮の交通事故で亡くなった、中学教師の彩子(貫地谷しほり)。一番会いたいのは、残してきた息子・優太だ。寝顔を見るだけなら大丈夫だろうと深夜の自宅に忍び込む。

突然、優太が目を覚ましたので驚くが、幼くて「死」を理解できていないため、ルールに抵触しなかった。

「お母さんは僕のヒーローだ」と言う優太に、「姿が見えなくなっても、いつも思っているから」と伝える彩子。短過ぎたとはいえ、幸せな人生だったと実感することが出来た。

理不尽な死が納得できない状態から始まり、貴重な24時間をどう使うかに悩み、息子との再会を喜ぶ彩子の感情の流れを、貫地谷が丁寧に演じて見事だ。

また、俳優志望で挫折した中年男(眞島秀和)と、認知症の父親(柄本明)の和解を描いた第2話も見応えがあった。

原作は清水晴木の連作小説だ。1話が30分で完結するこのドラマには、脚本の水橋文美江(朝ドラ「スカーレット」など)らが巧みなアレンジを施している。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.10.05)


NHK「オリバーな犬」映像作家オダギリジョーを見逃すな!

2022年09月29日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK

「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シーズン2

映像作家になったオダギリジョーを見逃すな!

 

1年ぶりの続編となる「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」シーズン2(NHK)がスタートした。前作同様、オダギリジョーが脚本・演出・編集を手掛け、自ら出演もしている。

警察犬係の警察官、青葉一平(池松壮亮)が担当するのがオリバーだ。しかし一平には、この犬が人間に見えるし、会話もできる。

ぐうたらで、飛び切りの毒舌家。酒好き、女好きなオリバーを演じているのがオダギリジョーだ。自分勝手な「おっさん犬」に振り回される一平が実におかしい。

11年前に失踪した少女(玉城ティナ)が遺体で発見され、しかも数日前まで生存していたことが判明する。物語は、この事件の謎解きが軸だ。

しかし、これはストーリーを追うドラマではない。オダギリ監督が力を入れているのは本筋から外れた、脇道のようなエピソード群だ。そのために、何とも豪華なキャスティングを行っている。

たとえば、雑誌編集長は松たか子だ。生活安全課の警察官に黒木華。そしてキッチンカーで働くのは松田龍平・翔太の兄弟である。

いずれも物語展開とはほぼ無関係な人物なのに、出演シーンの濃度が半端ではない。すでにオダギリジョーは、俳優に「彼の作品なら参加したい」と思わせる映像作家になっているのだ。

今回も全3話の短期決戦。夏の終わりを告げる、打ち上げ花火のようだ。見逃すことなかれ!

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.09.28)

 


NHK夜ドラ『あなたのブツが、ここに』は、「女優・仁村紗和」の再発見

2022年09月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK夜ドラ

『あなたのブツが、ここに』

「女優・仁村紗和」の再発見だ

 

NHKの夜ドラ「あなたのブツが、ここに」(月―木曜夜)が最終週に入った。

主人公の亜子(仁村紗和)はシングルマザーの元キャバ嬢。2年前の秋、コロナ禍で店が閉まった上に給付金詐欺に遭う。小学生の娘・咲妃(毎田暖乃)を連れて、母(キムラ緑子)が住む実家に戻り、現在は宅配ドライバーをしている。

エッセンシャルワーカー(人々の生活に必要不可欠な労働者)として需要が高まった宅配業界も楽ではない。コロナ禍で増えた荷物。客からのクレーム。さらにウイルスの媒介者のように扱われ、娘の咲妃まで学校でいじめられたりした。

それでも頑張ってきたが、元同僚でキャバ嬢を続けていたノア(柳美稀)が自殺したことにショックを受ける。

「たった1個の間違いで死んでしまったノアちゃんと、何個間違えても何とか生きている、あたし」と落ち込む亜子。やがて、反発してきた自分を支えてくれる母の存在に気づく。

このドラマ、コロナ禍で追い込まれた普通の人たちの苦境と心情をリアルに描いて秀逸だ。

また注目すべきは仁村の大健闘である。「キレイなモデルさん」というイメージだったが、亜子そのものに見える喜怒哀楽の表現は「女優・仁村紗和」の再発見と言っていい。

印象に残る台詞の多い脚本は、「マルモのおきて」などの櫻井剛によるオリジナル。制作はNHK大阪だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.09.20)


テレ東「絶メシロードseason2」は一期一会の“ドキュメンタリードラマ”

2022年09月15日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

テレ東「絶メシロードseason2」は

一期一会の“ドキュメンタリードラマ”

 

あの男が帰ってきた。

「絶メシロードseason2」(テレビ東京系)の主人公、須田民生だ。演じるのは前作同様、映画「カメラを止めるな!」の濱津隆之である。

絶メシとは、「絶滅してしまうかもしれない絶品メシ」のこと。地方の町に長くひっそりと生息する、枯れた店でしか出合えない味だ。

そんな絶メシを求めて、民生は週末になると1泊2日の旅に出る。金曜の夜、クルマで出発して現地で車中泊。翌日の土曜、自分のカンを頼りに絶メシを見つけて味わい、夜には自宅に戻ってくる。

登場するのは全て実在の店だ。第1話は千葉県鴨川市の「真珠の庭」だった。歴史を感じさせる外観と店内。女将さん(藤田弓子)の「ガードを突き破って懐に飛び込んでくる接客」もうれしい。

注文したのは、金目鯛の煮魚定食だ。煮汁がしっかり染みており、甘みと生姜のバランスも抜群で、民生を喜ばせる。また追加で頼んだ車エビのカツレツは、準備に4日かけるという労作。こちらも大満足だった。

とはいえ、高齢者である店主は「次に来てくれた時はマンションが建ってるかもしれないよ」と笑う。失ってしまうには惜しいが、絶メシは一期一会の覚悟も必要だ。

物語はお店の取材を基に構成されており、いわばドキュメンタリードラマだ。はまり役の濱津が放つ、独特のリアル感も堪能できる。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼」2022.09.14)


「NICE FLIGHT!」缶ビールを片手にゆったりと

2022年09月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「NICE FLIGHT!」

金曜夜は缶ビール片手に…

玉森裕太と中村アンの

穏やかな恋を眺める愉しみ

 

金曜夜の11時台に、重たいドラマはあまり見たくない。かといって、登場人物たちだけがはしゃいでいる作品もうっとうしい。

その点、「NICE FLIGHT!」(テレビ朝日系)はピッタリだ。主な舞台は羽田空港。副操縦士の粋(玉森裕太)と航空管制官の真夢(中村アン)の“お仕事ラブストーリー”である。

パイロットが主人公のドラマといえば、木村拓哉の「GOOD LUCK!!」(2003年、TBS系)を思い出す。あちらは「パイロット道」を究めるかのように、いつも眉間にしわを寄せていたっけ。

また女性管制官では、深田恭子主演「TOKYOエアポート~東京空港管制保安部~」(12年、フジテレビ系)があった。深田もまた笑顔を封印して、「冷静沈着」の権化みたいな真剣さで仕事に取り組んでいたものだ。このドラマにも粋のフライトや訓練、真夢の業務シーンが出てくる。だが、あまり緊迫感はない。

前述の木村や深田は、どこか肩に力の入った演技を見せていたが、こちらの2人は自然体で無理がない。しかも、恋愛もまた適温で進んでおり、粋の元カノ(筧美和子)への誤解から、真夢の気持ちが揺れた程度だ。

おかげで、見る側は缶ビールなど片手に、心優しき青年と生真面目な年上女性の穏やかな恋を、ゆったりと眺めることができる。次回は最終回。予想通りの“着陸”を見せてくれたら拍手だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.09.07)

 

 


『魔改造の夜』に見る、モノづくりニッポンの底力と可能性

2022年09月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「魔改造の夜」

(NHK・BSプレミアム)

「モノづくりニッポン」の底力と可能性

 

20日と27日、2週連続で「魔改造の夜」(NHK・BSプレミアム)の新作が放送された。

魔改造とは「リミッターを外し、大人気ないパワーのモンスターに改造する行為」だ。

これまでポップアップトースターで食パンを高く飛ばしたり、太鼓を叩くクマのおもちゃに瓦割りをさせたりしてきた。

第5シリーズの今回は、「ネコちゃん落下25m走」と「電気ケトル綱引き」だ。

前者は、歩くネコのおもちゃを6mの高さから地上に落とし、さらに25m先のゴールまで走らせるというもの。

落下しても壊れない構造と、着地後すみやかに自走するシステムを持つスーパーネコちゃんの開発に挑むのは技術系有名企業3社だ。

競技が始まる前、各社への1ヶ月半にわたる密着ドキュメントが流されるが、これがすこぶる面白い。

方針の検討に始まり、設計、試作品作り、テストを繰り返す。何度も壁にぶち当たるのだが、独自の発想と技術力で突破していくのだ。

また「電気ケトル綱引き」も同じ3社が競い合った。ケトルが噴き出すわずかな蒸気をエネルギーにして綱引きをする怪物マシンたち。

中には思うように動かず落胆するチームもあった。

魔改造倶楽部顧問の伊集院光が「悪夢を見ていい場所で見られてよかった」と励ましていたが、各社とも「モノづくりニッポン」の底力と可能性を十分感じさせてくれた。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.08.31)


水ドラ25『僕の姉ちゃん』黒木華の「平熱の演技」が出色

2022年08月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

水ドラ25「僕の姉ちゃん」テレビ東京系

黒木華の「平熱の演技」が出色だ

 

アマゾンプライムビデオで先行配信されていた「僕の姉ちゃん」が、テレビ東京系「水ドラ25」の枠で“地上波初放送”されている。

配信サービスは便利だが、週に1度、深夜のテレビで登場人物たちと顔を合わせる「のんびり感」が、このドラマにはちょうどいい。

大きな物語ではない。父の海外赴任に母も同行した留守宅で暮らす、姉と弟の日常だ。

何事にも辛辣な姉、白井ちはる(黒木華)は三十路のOL。素直な性格の弟、順平(杉野遥亮)は社会人1年生。

夜、仕事から帰った2人が、どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もない会話を、ゆるく続けていく。

とにかく姉がユニークだ。弟が「好きな男性に対する母性」について問えば、「育ててもない男に、そんなもんあるわけないじゃん」と言い切る。続けて「幻想が好きならオーロラでも見てこいっつーの」と明快だ。

さらに「あんたに彼女ができたとしても、あたし、たぶんその子キライ」。

ある時、社内のボウリング大会に参加した姉。気になっていた男性とハイタッチしたが、「ときめかなかった」と落胆している。「手のひらが合わない人と他の部分を合わせられると思う?」と嘆く残念顔がおかしい。

原作は益田ミリの人気漫画。ベテランOL姉ちゃんのキャラクターが秀逸で、それを完璧に体現してみせる黒木の「平熱の演技」が出色だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.08.23)


NHK戦争ドラマの佳作「アイドル」古川琴音の抜擢に拍手

2022年08月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

特集ドラマ「アイドル」NHK

古川琴音を抜擢したことに拍手だ

 

これは女優・古川琴音による古川琴音のための古川琴音のドラマだ。11日に放送された主演作、特集ドラマ「アイドル」(NHK)である。

物語は「二・二六事件」の起きた1936年(昭和11年)から始まる。

威容を誇るムーランルージュ新宿座。どんな時代も人々はエンターテインメントを求め、劇場にも足を運んだ。不穏な空気をひと時忘れ、歌とダンスに熱狂したのだ。

地方から出てきた少女・とし子(古川)はムーランの座員に選ばれ、やがて「明日待子(あしたまつこ)」の名でトップアイドルとなっていく。

まず、このヒロインに古川を抜擢したことに拍手だ。実在の明日待子と似た顔をした、アイドルグループのメンバーなどが演じていたら、全く違う作品になっただろう。

古川という天才肌の憑依型女優だからこそ、戦時下のアイドルの喜びも悲しみも深いレベルで表現できたのだ。

アイドルは人を励ます仕事だと信じていた待子。しかし、学徒出陣の若者や、慰問で訪れた戦地の兵士たちへの励ましが、死へと向かう彼らの背中を押すことになると気づいて、待子は苦しむ。

出征が迫るファンたちに、待子がこう呼びかけた。「皆さん、私はずっとここにいます。だから、また会いに来て下さい!」。生きて帰って欲しいという願いの言葉だ。

静かなる戦争ドラマの佳作と言える1本だった。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼」2022.08.16)


小芝風花「事件は、その周りで起きている」 コメディエンヌのセンスに驚く

2022年08月11日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

小芝風花「事件は、その周りで起きている」

コメディエンヌのセンスに驚く

ぜひまた新作を!

 

8月1日から4夜連続で、スペシャルコメディーと銘打った「事件は、その周りで起きている」(NHK)が放送された。夜10時45分から11時までの15分間という時間設定が微妙で、前宣伝もあまりなく、気づかなかった人も多いはずだ。

主人公は地方の小さな警察署に勤務する、若手刑事の真野(小芝風花)。何でも自力で達成したがる性格だ。バディーを組んでいるのは効率優先の宇田川(笠松将)。上司の谷崎(北村有起哉)は年上の部下にからきし弱い。  

さらに元科捜研のエースだという向田(倉科カナ)もいる。これだけの面々がそろいながら、彼らは事件を解決するわけではない。いわば、事件を解決しない刑事たちのドタバタな日常を描くコメディードラマなのだ。  

たとえば真野が書いた聞き取りメモの字が乱雑で、本人も読めない。向田はPCを駆使して解析し、ゴーグルを装着して読み解こうとする。バーチャル空間で文字を追いながら床を這いまわる向田を、呆然と眺めている真野と宇田川の表情が、すこぶるおかしい。  

何より小芝が見せるコメディエンヌのセンスに驚く。細かいセリフに込めたニュアンス。かすかな目の動きだけで笑わせる表現力。そして絶妙の間。  

下北沢あたりの小さな劇場で、自主公演の舞台を見ているような楽しさがあった。制作したのはコント番組「LIFE!」のチーム。ぜひまた新作を!

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.08.10)


往年の「TVチャンピオン」を思い出す、 「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」

2022年08月05日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

往年の「TVチャンピオン」を思い出した

「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」

NHK総合

 

目立たない番組だが、見逃すには惜しい1本がある。火曜よる11時「ニッポン知らなかった選手権 実況中!」(NHK総合)だ。

世の中には、業界団体の内部だけで開催されているコンテストが存在する。一般の人が目にすることのない、超専門的技術や驚きの特殊技能が披露され、競われている。番組はそこにカメラを入れたのだ。

たとえば林業事業者による「木を伐る」技術を競う大会。チェーンソー1台で狙った場所に木を倒す「伐倒」や丸太の「輪切り」などで競い合う。求められるのは正確、安全、速さの三拍子だ。

また「包帯を巻くだけ」のコンテストもある。柔道整復師と呼ばれる人たちが、骨折や捻挫などの損傷部分を固定し、痛みを和らげるのだ。速さはもちろん、実用性や巻きの美しさも評価される。

わずか4分の間に肩の関節、人差し指、両足の関節など5カ所を固定していく決勝。ところが優勝候補の女性が包帯を落としてしまう。彼女はその時点で無念の失格だ。

見ていて、往年の「TVチャンピオン」(テレビ東京系)を思い出した。何人もの「〇〇王」を生んだ人気番組だったが、大きな違いがある。あちらは、テレビが設定した「競技種目」と「ルール」で競い合うエンタメだ。

しかし、こちらは業界全体の発展を目的とするマジな大会。一見地味な内容と超難度テクニックの落差が快感を呼ぶ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.08.03)


「石子と羽男」は、カジュアルな社会派

2022年07月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

 

カジュアルな社会派を実現

金曜ドラマ

「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」

TBS系

 

弁護士の羽根岡佳男が中村倫也で、彼をサポートするパラリーガルの石田硝子が有村架純。この2人が主人公なら事件物でも法廷物でも、どんなタイプのリーガルドラマも作れそうだ。

しかし、金曜ドラマ「石子と羽男―そんなコトで訴えます?―」(TBS系)はひと味違う1本になっている。キーワードは「日常」だ。

普通の人が日常生活の中で遭遇する、思わぬトラブル。自力での解決が難しくなったとき、頼りになるのが近所の町医者のような弁護士、つまり「マチベン」だ。

羽根岡と硝子が扱うのは、自動車販売会社での社内いじめだったり、小学生がゲームに多額の”課金”をしてしまったりと、いかにも日常的に起きそうな事案ばかりだ。

しかも、物語は二重構造になっている。まずは、法律が便利に使える道具であることの教えだ。今年3月に終了した「バラエティー生活笑百科」(NHK)的な面白さがそこにある。

そしてもう1点は、出来事の奥にある社会問題にさらりと触れていることだ。それが企業のパワハラ問題だったり、家庭における教育格差の問題だったりする。

プロデュースは新井順子、演出が塚原あゆ子だ。2人が手掛けた「MIU404」では、事件を通じて隠れた「社会病理」を鋭く描いていた。

今回は、笑えるマチベンドラマの形を借りて、カジュアルな社会派を実現している。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.07.26)


「初恋の悪魔」は警察というより探偵ドラマ まさに“坂元裕二ワールド”

2022年07月21日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

「初恋の悪魔」日本テレビ系

 まさに“坂元裕二ワールド”だ

 

ユニークな警察ドラマが登場した。日本テレビ系「初恋の悪魔」である。

警察ドラマだから事件は起きる。死者も出る。

しかし、主人公たちは警察署に勤務していながら、捜査も尋問も逮捕も出来ないのだ。それでいて真相にたどり着くのが、このドラマの醍醐味だ。

真実が知りたくて集まったメンバーは4人。停職処分中の刑事・鈴之介(林遣都)、総務課の悠日(仲野太賀)、会計課の琉夏(柄本佑)、そして生活安全課の刑事・星砂(松岡茉優)だ。

初回では病院で少年が転落死した。事故か、自殺か、殺人か。表立っての活動ができない彼らは、捜査資料のコピーやかき集めた情報を持って鈴之介の家に集合する。「自宅捜査会議」だ。

ここでは事件現場の模型を前に各人の「考察」が披露される。話すうちに、4人はバーチャルな現場空間に入り込み、そこで「何が起きたのか」を探っていく。このシーンが大きな見せ場だ。

脚本は坂元裕二。超クセの強い4人の人物造形も、意表をつく設定も、不思議なユーモア感も、まさに坂元ワールドだ。

特に彼らの言葉の応酬を聞いていると、懐かしい「カルテット」や「大豆田とわ子と三人の元夫」を思い出す。4人という括りと限定した劇的空間は坂元の得意技だ。

警察というより探偵ドラマに近い本作。見たことのないミステリードラマへの挑戦に拍手だ。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.07.20)


「六本木クラス」竹内涼真の代表作になるかもしれない

2022年07月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

木曜ドラマ「六本木クラス」(テレビ朝日系)

竹内涼真の代表作になるかもしれない

 

竹内涼真主演「六本木クラス」(テレビ朝日系)の元になっているのは、言わずと知れた韓国のヒットドラマ「梨泰院(イテウォン)クラス」だ。

とはいえ、「梨泰院」を見た人、見ていない人、どちらも十分楽しめる1本になっている。「復讐物語」という軸がしっかりしているからだ。

主人公は、六本木で居酒屋を経営している宮部新(竹内)。初回では、物語の発端となる高校時代が描かれた。父の信二(光石研)が勤めていた長屋ホールディング会長・長屋茂(香川照之)と、息子である龍河(早乙女太一)との因縁だ。

何より、新の「追い込まれ方」が凄まじい。龍河のイジメを止めたばかりに退学処分。長屋に逆らった信二も退職。2人で居酒屋を始めようとした矢先、龍河が起こした交通事故で父が死亡。新は龍河を痛めつけて逮捕され、実刑判決を受ける。

竹内は静けさと熱狂の両面を併せ持つ主人公を好演。一昨年の日曜劇場「テセウスの船」と並ぶ代表作になる可能性もある。香川は土下座ネタも余裕で披露し、早乙女は卑屈な御曹司がハマり役。2組の父子の対比も鮮明で、新が復讐を誓うことに納得感があった。

担当の大江達樹プロデューサーも田村直己監督も、「ドクターX」シリーズの作り手たちだ。一見「和製韓国ドラマ」のテーストだが、きっちりテレ朝の「木曜ドラマ」に仕立てている。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.07.13)


栗山千明主演「晩酌の流儀」は、完璧な酒テロドラマ

2022年07月06日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

飯テロならぬ、酒テロドラマだ!

ドラマ25「晩酌の流儀」(テレビ東京系)

 

リモート勤務が多くなったとはいえ、1週間の区切りとなる週末の解放感は今も変わらない。

その金曜深夜に、新たなグルメドラマが登場した。ドラマ25「晩酌の流儀」(テレビ東京系)である。テーマは「家飲み」を極めることだ。

主人公は不動産会社に勤務する伊澤美幸(栗山千明)。一日の終わりに、おいしく酒を飲むことを至上の喜びとしている。しかも、そのためには努力を惜しまない。

定時退社したいので集中して仕事をする。次が最高の状態で酒と向き合うための準備だ。1日の初回はサウナだった。

さらにスーパーで安くて旨い食材を買う。モットーは「家飲みで一番大事なのは、最小のコストで最大のパフォーマンスを出すこと」。帰宅後の手早い料理で、しめさばカルパッチョや麻辣にら玉などが食卓に並ぶ。

最大の見せ場が、待望の1杯目だ。まるで恋人を見るような目で、ビールが注がれたグラスを見つめ、やがて静かに、しかし情熱的に黄金色の液体を喉に流し込む。

そして2杯目。美幸は「これが私の流儀だ!」と宣言し、別のグラスを冷蔵庫から取り出す。適度に冷えた状態のグラスで飲み続けたいからだ。

番組冒頭、美幸が「ドラマを見終わった後、あなたもきっと、お酒を飲み始める」と言っていたが、まさにその通り。飯テロならぬ、完璧な酒テロドラマである。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは!!」2022.07.06)