碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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「警視庁アウトサイダー」 西島秀俊は 真面目な顔でさらりとコミカルな演技

2023年01月12日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

テレ朝「警視庁アウトサイダー」

主演・西島秀俊は

真面目な顔でさらりとコミカルな演技

 

西島秀俊は今、制作側が最も起用したい俳優の一人だ。昨年夏の「ユニコーンに乗って」(TBS系)でも、年齢にかかわらず自分の夢に挑む役柄が共感を呼んだ。

その後、大和ハウスのCMでダイワマンになったので驚いた。映画「バットマン」シリーズを想起させる、最新SFXを駆使した映像。しかも謎のヒーローの正体は「俳優・西島秀俊」だという、トリッキーな設定だ。

そして年明け。始まったのは「警視庁アウトサイダー」(テレビ朝日系)である。アウトサイダーとは余計者、はみだし者のことだ。桜町中央署に本庁の組織犯罪対策部から、風貌も言動もまるでヤクザの架川英児(西島)が異動してきた。

コンビを組んだのは刑事課のエース、蓮見光輔(濱田岳)だ。さっそく大学教授宅の家政婦(室井滋)殺害事件の捜査に当たり、ぎくしゃくしながらも犯人を逮捕した。

このドラマ、事件の謎解きもさることながら、架川と蓮見がそれぞれ抱える秘密が焦点となっている。架川はなぜマル暴を追われたのか。蓮見には他人になりすましている疑いがある。

また、架川のケータイの着信音が「はぐれ刑事純情派」のテーマ曲だったり、安浦刑事役の藤田まことのサイン入り色紙を拝んだりと、「はぐれ刑事」へのリスペクトが凄まじい。

真面目な顔で、さらりとコミカルな演技を差し込む西島に注目だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」 2023.01.11)


2022年ドラマ界を総括  強い印象を残した秀作5本を解説

2022年12月29日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

<TV見るべきものは‼ 年末拡大版>

2022年ドラマ界を総括!

強い印象を残した

“秀作5本”を解説

 

今年も暮れようとしている。3年目となったコロナ禍。ロシアによるウクライナ侵攻。不況と値上げ。岸田政権による軍事国家へのまい進など、安全も安心も得られないままの年末だ。

それでもドラマの世界では、見るべき成果がいくつかあった。強い印象を残した秀作で、この一年を振り返ってみたい。

■「妻、小学生になる。」の奇抜な設定は「生きるとは何か」というテーマのためだった

1月クールで挙げたいのは、「妻、小学生になる。」(TBS系)だ。

10年前、新島圭介(堤真一)は妻の貴恵(石田ゆり子)を事故で失った。以来、圭介も娘の麻衣(蒔田彩珠)も無気力なままだ。

ある日、父娘の前に見知らぬ小学生・万理華(毎田暖乃)が現れ、自分は「新島貴恵」だと主張する。実は貴恵が万理華の体を借りて一時的に現世に戻ったのだ。この奇抜な設定は、「生きるとは何か」というテーマのためだった。

最終回では、万理華の姿をした貴恵との「最後の一日」が描かれた。

だが、それは特別なものではない。一緒に朝食を作り、食卓を囲む。3人で麻衣の洋服を買いに出かける。あくまでも「日常」であり、だからこそ愛おしいのだ。

人は結末の見えない有限の時間を生きている。その時間の使い方の中に生きることの意味を見いだせるのだと、このドラマは伝えていた。

■「17才の帝国」は独自の世界観を提示する意欲作

次が5~6月に放送された「17才の帝国」(NHK)である。

舞台は202X年の日本。斜陽国として世界から取り残されようとしている現状を変えるための実験が行われる。ある地域の政治を、人工知能(AI)が選んだ若者たちに託してみようというのだ。

「総理」は17歳の高校生、真木亜蘭(神尾楓珠)だ。彼が実現しようとする純粋な政治と、それを苦々しく思う旧来の政治家たちの対比にリアリティーがあった。

また緊張感のある映像、架空の街のランドスケープデザインをはじめとする美術、さらに音楽も含め、独自の世界観を提示する意欲作だった。

脚本はアニメ「けいおん!」などで知られる吉田玲子。プロデューサーを務めたのは、「カルテット」(TBS系)や「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレ制作・フジテレビ系)を手掛けた佐野亜裕美。そして制作統括は「あまちゃん」などの訓覇圭だ。

■「あなたのブツが、ここに」ドラマが時代を映す鏡であることを再確認した

夏ドラマで出色だったのが「あなたのブツが、ここに」(NHK)だ。

「ブツ」とは宅配の荷物を指し、描かれたのは宅配ドライバーとして働くシングルマザーの奮闘だ。コロナ禍で追い込まれた市井の人たちの苦境と心情をリアルに描いて秀逸だった。

物語は2020年秋から始まる。主人公は小学生の一人娘(毎田暖乃)を育てる、29歳の亜子(仁村紗和)だ。

大阪のキャバクラ店で働いていたが、コロナ禍で店は休業状態。さらに給付金詐欺の被害に遭う。結局、母親(キムラ緑子)がお好み焼き店を営む兵庫県尼崎市の実家に身を寄せ、宅配ドライバーの仕事に就いた。

物語には感染状況の推移が織り込まれ、理不尽なものに振り回されるつらさと滑稽さが浮き彫りにされていく。

ある時、疲れて落ち込む亜子が、売り上げが激減してもお好み焼き店を続ける理由を母に問いかけた。

その答えは「いったん休んだらな、もう立ち上がられへん気いするんよ。逆にこのまま乗り切れたら、何があっても大丈夫な気いする」。

印象深いセリフが多い脚本は、「マルモのおきて」などを手掛けてきた櫻井剛のオリジナルだ。制作はNHK大阪放送局。ドラマが時代を映す鏡であることをあらためて思わせる一本だった。

■社会現象になった「silent」

10月クールは実り豊かなものとなった。まず、「silent」(フジテレビ系)がある。

ヒロインの紬を演じたのは川口春奈だ。高校時代の恋人・想(目黒蓮)と8年ぶりに再会するが、彼は耳が聞こえなくなっていた。

それが突然姿を消した理由であり、空白の時間を埋めながら自分たちの未来を探っていく2人。音のない世界で歩み寄る男女の本格派ラブストーリーだった。

手話による会話場面がじっくりと描かれ、見る側は表情のかすかな変化も見逃すまいと画面から目が離せない。

とっぴな事件や出来事ではなく、それぞれの日常を丁寧に見せることで静かな共感が広がっていった。

やがてロケ地に人が集まる「聖地巡礼」現象が起き、見逃し配信サイト「TVer」の再生回数が最高記録を更新し、放映時のツイート数も国内トレンド1位を獲得するなど、一種の社会現象となる。

役者陣の演技力はもちろんだが、登場人物たちの複雑な感情を繊細に表現する演出も見事だった。

■「個」としての生き方が問われた「エルピス」

最後は「エルピス─希望、あるいは災い─」(カンテレ制作・フジテレビ系)。

アナウンサーの浅川恵那(長澤まさみ)とディレクターの岸本拓朗(真栄田郷敦)が、死刑囚の冤罪事件の真相を探っていく物語だ。

それは平坦な道ではなかった。テレビ局という組織独特の「常識」や「タブー」に揺さぶられ、さらに社会の闇というべき巨大な力に翻弄される。その過程で問われたのは「個」としての生き方だ。

制作陣は1990年に起きた「足利事件」など、現実の冤罪事件に関する文献を参考にしたと表明している。

冤罪事件は警察や裁判所など公権力の大失態だが、マスコミが発表報道に終始したのであれば、結果として冤罪に加担したことになる。

自分たちにも批判の矛先が向きかねないリスクを抱えながら、テレビ局を舞台にこうしたドラマを作るのは実に挑戦的だ。

脚本は朝ドラ「カーネーション」などの渡辺あや。プロデューサーは、「17才の帝国」と同じ佐野亜裕美である。

来年も、作り手の強い意志を感じられる作品が、一本でも多く登場することを期待したい。

(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼年末拡大版」2022.12.28)


佐藤二朗のハマり役 「ひきこもり先生シーズン2」で見せる完全没入の圧巻演技

2022年12月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

佐藤二朗のハマり役

NHK「ひきこもり先生シーズン2」で見せる

完全没入の圧巻演技

 

あの男が帰ってきた。

ひきこもり歴11年のメタボ中年、上嶋陽平(佐藤二朗)だ。NHK土曜ドラマ「ひきこもり先生シーズン2」である。

かつて陽平は梅谷中学校の不登校クラスで非常勤講師を務めていた。生徒は家庭の事情も本人の性格も異なるが、「不登校の問題は命の問題」という点で共通していた。

2年ぶりの学校だが、校内の空気は以前よりも重い。不登校クラスの生徒へのいじめも横行している。

そんな中で起きたのがホームレス襲撃事件だ。陽平が副担任をサポートする3年A組の生徒、松田篤人(寺田心)がその現場にいた。

篤人は寝たきりの母親(高橋由美子)の面倒を見る、ヤングケアラー。心の中に鬱屈をため込んでいた。

生徒たちは表面的にはおとなしい。教師の指示にも素直に従う。周囲から浮くことを恐れ、自分の意見や気持ちを口にしないのだ。問題を抱えていても、「大丈夫」としか言わない。そんな姿が実にリアルだ。

陽平自身も精神的に不安定な元ひきこもりだ。だからこそ生徒たちが抱える苦しさが分かる。彼らの気持ちに“共振”することができる。それが救いとなっていく。

佐藤が見せる、完全没入の演技は圧巻。「鎌倉殿の13人」の比企能員にも負けないハマり役だ。

前作は全5話だったが、今回は2話完結で今週末の後編で終わってしまう。見逃すことなかれ!

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.12.21)


NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女」 好きな人とおいしいものを食べるシアワセ

2022年12月14日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK夜ドラ「作りたい女と食べたい女」

好きな人とおいしいものを食べるシアワセ

 

NHKの夜ドラ「作りたい女と食べたい女」が最終週に入った。

派遣社員の野本ユキ(比嘉愛未)は料理するのが大好きだ。しかし小食な上に1人暮らしで、思う存分作ることができないでいた。

ある日、マンションの同じフロアに住む、食べることが大好きな春日十々子(西野恵未)と知り合う。作りたい女と食べたい女の不思議な関係が始まった。

このドラマ、いくつかの側面を持っている。まず、いわゆる「食ドラマ」としての楽しさだ。登場する「かぼちゃのプリン」や「おでん」が何ともおいしそうだ。

また十々子を演じる西野の食べっぷりが実に見事。「ばくばく」「もりもり」といった擬音をビジュアル化したみたいなのだ。

そして更なる側面が、「生きづらさ」を抱えた女性たちのリアルを描いていること。

ユキは純粋に料理が好きでしているのだが、「家庭的」とか「いいお母さんになる」とかレッテルを貼る周囲に違和感を持っている。

一方の十々子は、保守的な父親から「女だから」という理由で自由に食べることも禁じられてきた。

やがてユキは、自分が十々子に魅かれていることに気づく。好きな人とおいしいものを食べるシアワセ。それは相手の性別とは無関係だ。

料理も恋愛も「型」にはめられることなく、自分で決めていけばいい。この作品はそんなメッセージをマイルドに発信している。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.12.13)


船越英一郎ら“刑事俳優”揃い踏み 異色ドラマ「警視庁考察一課」を成立させるキャラの強さ

2022年12月08日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

ドラマプレミア23

「警視庁考察一課」

キャラクターの強さが

異色の刑事ドラマを成立させている

 

かつて「名探偵登場」というアメリカ映画があった。エルキュール・ポワロ、ミス・マープルなど世界的に有名な架空の名探偵たちのパロディーだ。

たとえば「刑事コロンボ」のピーター・フォークが、「マルタの鷹」の探偵サム・スペードもどきを演じており、それぞれが披露する勝手な“迷推理”が笑えた。

月曜深夜の「警視庁考察一課」(テレビ東京系)は、いわば「名刑事登場」である。テレビ各局のサスペンスドラマで活躍してきた俳優たちが、役柄そのままの雰囲気で登場しているからだ。

船越英一郎、内藤剛志、西村まさ彦、名取裕子、高島礼子、そして山村紅葉。このメンバーが協力して捜査すれば、どんな難事件も解決できそうだ。

しかし、彼らは事件現場に駆けつけたりしない。所属は大東京警察署の「考察一課」であり、「捜査」ではなく、「考察」するのが仕事なのだ。

捜査一課から分け与えられた、被害者や容疑者に関するわずかな情報を前に、ひたすら考察(推理)という名のカードを切り合う。

その結果、IT技術を駆使した真犯人のアリバイを崩し、模倣犯を装った復讐殺人者を突きとめたりしていく。

まるで一幕物の舞台劇みたいだが、彼らの“刑事俳優”としての存在感と演じてきたキャラクターの強さが、この珍品とも言うべき異色の刑事ドラマを成立させている。

見るなら、今のうちだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.12.07)


金曜ドラマ「クロサギ」 〈悪が悪を成敗する〉物語は令和版「必殺仕掛人」か

2022年12月01日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

TBS金曜ドラマ「クロサギ」

〈悪が悪を成敗する〉物語は

「必殺仕掛人」を思わせる

 

金曜ドラマ「クロサギ」(TBS系)の主人公は黒崎(平野紫耀)。詐欺に遭って絶望した父親が無理心中を図り、ただ一人生き残った。詐欺という行為と詐欺師を憎む黒崎は現在、詐欺師を騙す詐欺師「クロサギ」となっている。

物語の軸は家族の命を奪った者への復讐だ。これまでに父親を陥れた大物詐欺師、御木本(坂東彌十郎)を葬った。だが、更なる「仇」の存在を知った黒崎の闘いはまだ終わらない。平野が重い過去を背負った青年を好演している。

そして、ドラマの見どころはもう一つある。ストーリーの中でさまざまな詐欺の手口が明かされることだ。

これまで「起業セミナー詐欺」や「知的財産詐欺」などが登場したが、先週は「マンション投資詐欺」だった。不動産仲介業者に成りすまして手付金を騙し取る詐欺だ。黒崎は彼らに架空の優良物件を売りつけた上で、鮮やかに破滅させた。

しかし、黒崎は決して「正義の味方」ではない。いわばアンチヒーローであり、そこが魅力的なのだ。この〈悪が悪を成敗する〉物語は、往年の人気時代劇「必殺仕掛人」を思わせる。

黒崎が鍼医者の藤枝梅安(緒形拳)。黒崎の師匠で詐欺師業界のフィクサー・桂木(三浦友和)は、元締の音羽屋半右衛門(山村聡)か。この「クロサギ」、形を変えた令和版「必殺仕掛人」かもしれない。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.11.30)


「孤独のグルメ」10周年 この不変のパターンがたまらない

2022年11月24日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

10周年を迎えた「孤独のグルメ」

この不変のパターンがたまらない

 

2012年にスタートした「孤独のグルメ」(テレビ東京系)。10周年の今回は、ついに「Season10」だ。めでたい!

主人公は、個人で輸入雑貨を扱っている井之頭五郎(松重豊)。商談で訪れるさまざまな町に「実在」する食べ物屋で、「架空」の人物である五郎が食事をする。そんな「ドキュメンタリードラマ」の基本構造は、ずっと変わっていない。

先週は東京の渋谷区笹塚にある店だった。そば屋なのに、なぜかメニューには沖縄に傾倒した品が並ぶ。「しからば、揺さぶられてやろう」と五郎。

注文したのは「とまとカレーつけそば」だ。食べながら「うーん、初めてなのに、これは俺が食べたかったものだ」と心の声を発する。無用なウンチクや解説に走らず、ひたすら実感だけを独白していく。この不変のパターンがたまらない。

このドラマ、10年の間に「食ドラマ」というジャンルを広めてきた。いや、それだけではない。「ひとり飯」自体を一種の文化にまで高めた。その功績も大きい。

しかも、多くの後続番組が「孤独のグルメ」との差別化に腐心する一方で、元祖は堂々の「いつも通り」を貫いている。

新シーズンでも、そこにいるのは孤高の「ひとり飯のプロ」だ。食への「好奇心」、食に対する「遊び心」、そして食への「感謝の気持ち」。この3つがある限り、井之頭五郎は永遠だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.11.23)


【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】 最終回

2022年11月22日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】

最終回

「作る」から「創る」へ

 

倉本聰の主戦場はテレビドラマであり、書く仕事の中心はシナリオだ。しかし、他に何本もの戯曲があり、膨大な量のエッセイも書いてきた。このエネルギーは、一体どこから来ているのか。

「書くというより、創るということをしてるんだろうね。『創作』という言葉があるじゃないですか。創と作、どちらも〈つくる〉でしょ? でも、意味が違うんですよ。〈作〉の〈つくる〉ってのは、知識と金を使って、前例にならって行うことです。

それに対して、〈創〉のほうの〈つくる〉は、前例にないものを、知識じゃなくて知恵によって生み出すことを指す。この〈創〉の仕事をしてると楽しいわけですよ。

でもビジネスマンは、どうしても〈作〉の仕事が多くなりがちですよね。だから、ストレスが溜まるんだと思う。

〈創〉の仕事というのはね、肉体的にはハードだけど、寝て起きりゃ直る。それに比べて〈作〉ばっかりだと精神的によくありません。仕事は、意識して〈創〉のほうに寄せていくといいんです」(「脚本力」より)

倉本から贈られた色紙には、こう書かれていた。「創るということは遊ぶということ。創るということは狂うということ。創るということは生きるということ」。

脚本家・倉本聰、87歳。遊び(楽しみ)ながら、狂い(熱中し)ながら、これからも創り続けるに違いない。

(日刊ゲンダイ 2022.11.22)

 

 

 

 


【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】第4回

2022年11月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】

第4回

人生は「ロング」で見れば喜劇

 

倉本聰が書くドラマ、たとえば「北の国から」でも、登場人物たちがかなりシビアな、時には悲惨とも言える状況に陥っても、どこか柔らかなユーモアが漂っている。

「五郎や純が悩んでる姿って、客観的に見てたら笑えちゃうんだよね。ここにコメディの発想がある。本人にとってはすごい悲劇なんだけど、無責任な第三者にはさ、喜劇なんだよ。だから僕は喜劇ってものが好きだし、そういう喜劇を書きたいんだ。

チャップリンが言ってた。世の中のことはアップで(近くで)見ると全部悲劇である、しかしロングで(離れて)見ると喜劇であるってね。これはね、もう本当に至言だと思う。世の中ってのは、チャップリンの視点で見ると喜劇だらけですよ。僕の大好きなユーモアも、そういうところから生まれてくる。

コメディっていうのは、本来そうでなくちゃいけない。滑ったり転んだりとか、今どきのふざけて見せる、あれがお笑いだっていうのはとんでもない間違いだと思うのね。そういうものにお客が今、慣らさせられちゃってるけど、あれは喜劇とは言わない。おふざけだよね」(「脚本力」から)

私生活であれ仕事上であれ、窮地に立った人間の視野は狭くなる。もしも自分を「ロングで見る」こと、つまり笑って客観視することができれば、そこから活路を見いだせるかもしれないのだ。

(日刊ゲンダイ 2022.11.19)

 

 

 

 

 


【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】第2回

2022年11月18日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】

第2回

大切なのは「受信力」

 

倉本聰がシナリオを学び始めたのは、東大受験に失敗した後の浪人時代だ。最初の勉強は、喫茶店に座って隣のカップルの会話を盗聴することだった。いや、喫茶店だけでなく電車の中など他の場所でも、人の会話を盗み聴くということがスタートだったと言う。

「物書きの仕事で大事なことは、書くこと、つまり発信することじゃなくて、受信すること、受信力だと思ってるんですよ。受信というのは要するに五感―視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚のすべてを動員して、あらゆる現象を盗み取って吸収するということですよね。

人は他人の言うことや、他人が書いたものを吸収して、それで受信したと錯覚しがちなんだけど、それは聴覚や視覚のみの受信でね、真の受信の半分にも達してないという気がするんです。

というのは、人の喋りや書く文章にはね、虚飾とかホラとか自己顕示とか、そういったものが必ず交じっちゃってるわけですよ。そういうものを見抜くためには、まず書いた人や言った人の人間性を見抜かなくちゃいけない」(「脚本力」より)

仕事をする上で、アウトプットのことばかり気にする人は少なくない。しかし、その前にインプットがあり、受信力が必要だと言う。一瞬、自分を無にすることでアンテナを研ぎ澄ませ、溢れる情報の中から本当に大事なものだけを吸収するのだ。

(日刊ゲンダイ 2022.11.17)

 

 

 

 


日刊ゲンダイ連載「巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント」(第1回)

2022年11月17日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

【巨匠・倉本聰の言葉に学ぶ人生のヒント】

第1回

企画と発想は“その場”で考える

「出合い頭」のひらめきが勝負

 

「北の国から」や「前略おふくろ様」などで知られる脚本家、倉本聰。

なぜ60年以上も書き続けられるのかが知りたくて、半年間にわたる対話を行ってきた。その内容を一冊にまとめたのが、この秋に上梓した「脚本力」(幻冬舎新書)だ。

巨匠が語った言葉の中から、誰もが「人生のヒント」として応用できそうなものを紹介していきたい。まずは、企画と発想について。

「僕ら脚本家はプロデューサーと話すことが多いよね。ちょっと会おうよ、なんて言われて喫茶店とかで会う。実はこういう番組を考えてるんだけどっていう話になる。2時間は話すとして相手の話を聞きながら、すでに僕の頭の中ではね、どう具体化できるか、どんなストーリーになるかってことを考え始めてますよ。そう。絶対、その場で考える。

それで、このストーリーならいけるなって思えたときは、引き受けようと決める。基本的なストーリーがひらめかないのに引き受けるってことはあり得ない。逆に、ひらめいたら絶対にその場でプランを作ります。だから翌日にはもう、昨日の件を僕なりに考えたんだけど、こういう話でどうだろうって、相手に提示することが多いですよ」(「脚本力」から)

日常的に「やりたいこと」をストックしているからこそ、出合い頭の「ひらめき」が生まれるのだ。

 

碓井広義(うすい・ひろよし)

メディア文化評論家。1955年生まれ。慶應義塾大学法学部卒。テレビマンユニオン・プロデューサー、上智大学文学部新聞学科教授などを経て現職。倉本聰との共著『脚本力』(幻冬舎)、編著『少しぐらいは大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)などがある。

(日刊ゲンダイ 2022.11.16)

 

 

 

 


「PICU-小児集中治療室」医者は万能のヒーローではない

2022年11月10日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

吉沢亮「PICU-小児集中治療室」

医者は万能のヒーローではない

 

この秋、複数の医療ドラマが放送されている。

「祈りのカルテ-研修医の謎解き診察記録」(日本テレビ系)、「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系)などだ。

ただし、天才外科医やスーパードクターは登場しない。医療現場が抱える課題も踏まえた、現実感のある人間ドラマになっている。

吉沢亮(写真)主演「PICU-小児集中治療室」(フジテレビ系)もそんな一本だ。舞台は札幌の「丘珠(おかだま)病院」。新米小児科医の志子田武四郎(吉沢)は、植野元(安田顕)が立ち上げたPICUに参加している。

先日は呼吸器系のウイルスに感染した赤ちゃんが救急搬送されてきた。母親は20歳の大学生で、乳児院に預けたままだ。武四郎は会いに来るよう伝えるが、拒否される。

悩んだ末、自身も子供を失った経験を持つ救命医、綿貫りさ(木村文乃)に頼んで説得してもらった。このドラマは武四郎の成長物語でもある。

また、交通事故で肋骨(ろっこつ)が折れ、肺を損傷した少年がいた。植野は右肺の全摘出を決めるが、武四郎は抵抗する。子どもの将来が狭まってしまうと考えたからだ。

結局、肺を生かす形での治療が行われた。未熟な青年医師だからこそ、見えるものもあるのだ。

医者は万能のヒーローではない。悩みながら最善の治療を目指している。本作のような、愚直に患者に寄り添う医者たちのドラマがあっていい。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.11.09)

 


川口春奈「silent」は “もどかしさ”が切ない

2022年11月03日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

川口春奈「silent」は

“もどかしさ”が切ない

繊細な表現をする目黒蓮に拍手

 

川口春奈主演「silent」(フジテレビ系)が、ますます目の離せないドラマになっている。

高校生の紬(川口)と想(目黒蓮)は、周囲も認める似合いのカップルだった。しかし卒業後、想は突然姿を消してしまう。

それから8年。偶然出会った想は「若年発症型両側性感音難聴」で耳が聞こえなくなっていた。それが紬と一方的に別れた理由だったのだ。

8年の間には変わったことと変わらないことがある。

紬は高校時代の仲間である湊斗(鈴鹿央士)と付き合っている。想には彼を慕う、ろう者の奈々(夏帆)がいる。

だが紬と想の中で、互いの存在は消えていなかった。湊斗は2人のため、そして自分のためにも紬と別れようとする。

本作の秀逸さは、言葉に頼り過ぎない物語構築にある。思ったことを何でもセリフとして語らせるドラマとは異なるのだ。

3人の「会話」はスマホを活用したものになっている。とはいえ、当然のことながら限界がある。微妙なニュアンスが十分に伝わらない“もどかしさ”が切ない。

見る側は、わずかな沈黙の時間や表情の中に、彼らの気持ちや言葉にならない思いを探り、想像し、自分なりに補っていく。

その共感性もしくは共振性こそが、このドラマのキモと言っていい。

川口はもちろん、間の取り方や表情の変化などを繊細に表現している目黒にも拍手だ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.11.02)


「ザ・トラベルナース」 テレ朝の新たな鉱脈になりそうだ

2022年10月27日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

木曜ドラマ

「ザ・トラベルナース」

テレ朝の新たな鉱脈になりそうだ

 

岡田将生主演「ザ・トラベルナース」(テレビ朝日系)が始まった。

トラベルナースとは有期契約で仕事をするフリーランスの看護師のこと。アメリカで普及した働き方で、主人公の那須田歩(岡田)もシカゴの病院から日本に戻ってきた。

物語の舞台は、利益第一主義の院長・天乃(松平健)が君臨する、天乃総合メディカルセンター。「神の手」と呼ばれる外科部長、神崎(柳葉敏郎)が稼ぎ頭となっている。

このドラマで注目すべきは、那須田と同時に赴任してきたベテランのトラベルナース、九鬼静(中井貴一)を置いたことだろう。もう一人の主人公と言っていい。

アメリカでは範囲が限られているとはいえ、資格を持つ看護師による医療行為が可能だ。日本ではそれができないことにイラ立つ那須田。加えて看護師を見下す医者の態度も許せない。

そんな那須田に、九鬼は「医者に盾つくのはバカナース」と言い放ち、看護師としての巧みな言動で医者たちを自在に操っていく。

また同僚である女性看護師たちが、「ナースは尊敬されない」「医者の指示がなければ何もできない」と不満をもらす。すると九鬼がやんわりと自説を語った。

「医者は病気しか治せませんが、ナースは人に寄り添い、人を治すことができる」

制作陣は脚本の中園ミホをはじめ「ドクターX」のチーム。新たな鉱脈の発見となりそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.10.26)


NHK朝ドラ「舞いあがれ!」 祖母、母、娘… 女性3代は強い朝ドラのDNA

2022年10月20日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評

 

 

NHK朝ドラ「舞いあがれ!」

祖母、母、娘…

女性3代は強い朝ドラのDNA

 

NHK連続テレビ小説「舞いあがれ!」の主人公、舞(浅田芭路)が東大阪に戻ってきた。

2週にわたる五島列島編では舞の祖母・祥子(高畑淳子)の存在が光った。

発熱に悩む舞の転地療養だったが、祥子は特別扱いしない。意思をはっきりさせる。自分のことは、自分でする。そんな祥子の教えが少しずつ舞を変えたのだ。

他者に迷惑をかけることを恐れる舞を祥子が諭す。

「失敗ばすっとは悪かことじゃなか!」。さらに「舞は人の気持ちば考えられる子たい。じゃばってん、自分の気持ちも大事にせんば!」。

祥子を見ていて、「あまちゃん」の「夏ばっぱ」こと天野夏(宮本信子)を思い出した。

暗くて引っ込み思案だったアキ(能年玲奈=現在はのん)は、この祖母と生活することでたくましくなっていったのだ。

また、家出同然で故郷を離れたアキの母・春子(有村架純→小泉今日子)と、やはり実家を飛び出して上京した舞の母・めぐみ(永作博美)の境遇もどこか似ている。

五島編は舞の成長だけでなく、めぐみと祥子の「再会と和解」を丁寧に描いていたことが大きい。

祖母、母、娘という女性3代の“つながり”は、「カムカムエヴリバディ」もそうだったように、強い朝ドラのDNAだ。

今週末には舞が大学生となり、福原遥が登場する。たくさんの「いい失敗」が楽しめそうだ。

(日刊ゲンダイ「テレビ 見るべきものは!!」2022.10.19)