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<TV見るべきものは‼ 年末拡大版>
2022年ドラマ界を総括!
強い印象を残した
“秀作5本”を解説
今年も暮れようとしている。3年目となったコロナ禍。ロシアによるウクライナ侵攻。不況と値上げ。岸田政権による軍事国家へのまい進など、安全も安心も得られないままの年末だ。
それでもドラマの世界では、見るべき成果がいくつかあった。強い印象を残した秀作で、この一年を振り返ってみたい。
■「妻、小学生になる。」の奇抜な設定は「生きるとは何か」というテーマのためだった
1月クールで挙げたいのは、「妻、小学生になる。」(TBS系)だ。
10年前、新島圭介(堤真一)は妻の貴恵(石田ゆり子)を事故で失った。以来、圭介も娘の麻衣(蒔田彩珠)も無気力なままだ。
ある日、父娘の前に見知らぬ小学生・万理華(毎田暖乃)が現れ、自分は「新島貴恵」だと主張する。実は貴恵が万理華の体を借りて一時的に現世に戻ったのだ。この奇抜な設定は、「生きるとは何か」というテーマのためだった。
最終回では、万理華の姿をした貴恵との「最後の一日」が描かれた。
だが、それは特別なものではない。一緒に朝食を作り、食卓を囲む。3人で麻衣の洋服を買いに出かける。あくまでも「日常」であり、だからこそ愛おしいのだ。
人は結末の見えない有限の時間を生きている。その時間の使い方の中に生きることの意味を見いだせるのだと、このドラマは伝えていた。
■「17才の帝国」は独自の世界観を提示する意欲作
次が5~6月に放送された「17才の帝国」(NHK)である。
舞台は202X年の日本。斜陽国として世界から取り残されようとしている現状を変えるための実験が行われる。ある地域の政治を、人工知能(AI)が選んだ若者たちに託してみようというのだ。
「総理」は17歳の高校生、真木亜蘭(神尾楓珠)だ。彼が実現しようとする純粋な政治と、それを苦々しく思う旧来の政治家たちの対比にリアリティーがあった。
また緊張感のある映像、架空の街のランドスケープデザインをはじめとする美術、さらに音楽も含め、独自の世界観を提示する意欲作だった。
脚本はアニメ「けいおん!」などで知られる吉田玲子。プロデューサーを務めたのは、「カルテット」(TBS系)や「大豆田とわ子と三人の元夫」(カンテレ制作・フジテレビ系)を手掛けた佐野亜裕美。そして制作統括は「あまちゃん」などの訓覇圭だ。
■「あなたのブツが、ここに」ドラマが時代を映す鏡であることを再確認した
夏ドラマで出色だったのが「あなたのブツが、ここに」(NHK)だ。
「ブツ」とは宅配の荷物を指し、描かれたのは宅配ドライバーとして働くシングルマザーの奮闘だ。コロナ禍で追い込まれた市井の人たちの苦境と心情をリアルに描いて秀逸だった。
物語は2020年秋から始まる。主人公は小学生の一人娘(毎田暖乃)を育てる、29歳の亜子(仁村紗和)だ。
大阪のキャバクラ店で働いていたが、コロナ禍で店は休業状態。さらに給付金詐欺の被害に遭う。結局、母親(キムラ緑子)がお好み焼き店を営む兵庫県尼崎市の実家に身を寄せ、宅配ドライバーの仕事に就いた。
物語には感染状況の推移が織り込まれ、理不尽なものに振り回されるつらさと滑稽さが浮き彫りにされていく。
ある時、疲れて落ち込む亜子が、売り上げが激減してもお好み焼き店を続ける理由を母に問いかけた。
その答えは「いったん休んだらな、もう立ち上がられへん気いするんよ。逆にこのまま乗り切れたら、何があっても大丈夫な気いする」。
印象深いセリフが多い脚本は、「マルモのおきて」などを手掛けてきた櫻井剛のオリジナルだ。制作はNHK大阪放送局。ドラマが時代を映す鏡であることをあらためて思わせる一本だった。
■社会現象になった「silent」
10月クールは実り豊かなものとなった。まず、「silent」(フジテレビ系)がある。
ヒロインの紬を演じたのは川口春奈だ。高校時代の恋人・想(目黒蓮)と8年ぶりに再会するが、彼は耳が聞こえなくなっていた。
それが突然姿を消した理由であり、空白の時間を埋めながら自分たちの未来を探っていく2人。音のない世界で歩み寄る男女の本格派ラブストーリーだった。
手話による会話場面がじっくりと描かれ、見る側は表情のかすかな変化も見逃すまいと画面から目が離せない。
とっぴな事件や出来事ではなく、それぞれの日常を丁寧に見せることで静かな共感が広がっていった。
やがてロケ地に人が集まる「聖地巡礼」現象が起き、見逃し配信サイト「TVer」の再生回数が最高記録を更新し、放映時のツイート数も国内トレンド1位を獲得するなど、一種の社会現象となる。
役者陣の演技力はもちろんだが、登場人物たちの複雑な感情を繊細に表現する演出も見事だった。
■「個」としての生き方が問われた「エルピス」
最後は「エルピス─希望、あるいは災い─」(カンテレ制作・フジテレビ系)。
アナウンサーの浅川恵那(長澤まさみ)とディレクターの岸本拓朗(真栄田郷敦)が、死刑囚の冤罪事件の真相を探っていく物語だ。
それは平坦な道ではなかった。テレビ局という組織独特の「常識」や「タブー」に揺さぶられ、さらに社会の闇というべき巨大な力に翻弄される。その過程で問われたのは「個」としての生き方だ。
制作陣は1990年に起きた「足利事件」など、現実の冤罪事件に関する文献を参考にしたと表明している。
冤罪事件は警察や裁判所など公権力の大失態だが、マスコミが発表報道に終始したのであれば、結果として冤罪に加担したことになる。
自分たちにも批判の矛先が向きかねないリスクを抱えながら、テレビ局を舞台にこうしたドラマを作るのは実に挑戦的だ。
脚本は朝ドラ「カーネーション」などの渡辺あや。プロデューサーは、「17才の帝国」と同じ佐野亜裕美である。
来年も、作り手の強い意志を感じられる作品が、一本でも多く登場することを期待したい。
(日刊ゲンダイ「TV見るべきものは‼年末拡大版」2022.12.28)
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