碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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『宣伝会議』インタビュー記事(2008年4月1日号)

2008年04月20日 | メディアでのコメント・論評

雑誌『宣伝会議』4月1日号の特集「バラエティ番組の企画力」で、インタビューを受けた。


<タイトル>
雑学系バラエティはテレビ視聴の〝免罪符〟
生活や人生に役立つお得感が視聴につながる
碓井広義氏

<リード>
最近のバラエティ番組に、独自の切り口を持ったものが増えている理由を、研究者はどう見ているのか。自らも多くの番組制作を手掛けてきた、東京工科大学メディア学部教授の碓井広義氏に、最近のバラエティ番組の傾向について分析してもらった。

<本文>
局と視聴者の変化で
多様化したバラエティ

 バラエティ番組の切り口が多様化している理由として、碓井氏は作り手と視聴者それぞれの変化を挙げる。作り手側の変化としては、地デジ移行による設備投資の負担増からくる、制作予算の削減。もうひとつは、ネットをはじめとする多メディア化により、視聴者にとってのテレビの優先順位が低下していることだ。
この2つの「低下」とはすなわち、50年以上続くマス広告媒体ビジネスの危機に他ならない。それゆえ、対抗手段として、「低コスト、かつ高視聴率」という高いハードルがいま番組制作に課せられているのだ。
「ドラマは高コストの上に1クール限定という宿命がある。報道やドキュメンタリーは、放送文化に不可欠な存在だがコストをかけずに高視聴率を狙うのは難しい。言わば消去法で、バラエティに期待がかかり、それが現場での企画の工夫につながっているのです」。
 対する視聴者側の変化については、次のように説明する。「不況や格差社会の進展などの社会環境から、これまでさほど関心が持たれなかった政治や経済、海外事情にも目が向けられるようになってきた」。そこから、気軽に勉強できる教養バラエティのニーズが高まった。送り手側と受け手側、それぞれの変化が相まって、番組内容や企画の切り口が多様化したというわけである。

視聴者に「お得感」を
提供する3つのジャンル

 切り口こそ多様化しているが、大きな流れとしては、前述の通り「雑学」「地域」「医学・健康」という3つの括りでバラエティ番組が増えている。特に、クイズ番組も含めた「雑学バラエティ」の数は圧倒的に多い。こういった雑学系は、日本人の〝勉強好き〟なDNAから廃れないジャンルであるとしながらも、最近では「雑学バラエティ」が、テレビを見る「免罪符」となっているのではないかと碓井氏は分析する。
「テレビを見る=時間の無駄遣いという意識が視聴者にありましたが、何かひとつでも学べるなら時間浪費の言いわけになる。なおかつ、大人にしてみれば、子供に安心して見せられる。テレビを見るハードルを下げる効果があり、高視聴率を期待できるのです」。「親子で見られる」という視点で見れば、「学校」や「授業」といった教育関係の言葉が番組名に散見されるようになったのも、そのひとつの裏付けと言えよう。
 一方、「地域バラエティ」や「医療・健康バラエティ」については、団塊世代の存在が大きな影響を与えているという。定年を迎え、団塊世代が自分たちの生活を見直そうとする中で、地域バラエティはIターンやUターンを考える団塊世代の心に、医療バラエティは老後の健康を心配する気持ちに響くコンテンツになっている。
また昭和ブームも影響し、自分たちが子どもの頃に体験した懐かしい暮らしが地方にはまだあると考え、それを手軽に見せる番組に引きつけられているのではないか、という。
そして、この3ジャンルには、団塊世代に限らず、視聴者に対する姿勢にある共通項がある。それは、視聴者に対して「今のままでいいの?」と問い掛けるようなメッセージ性だ。知識・暮らし・健康は、いま多くの日本人が不安要素を抱えている分野だけに、関心をひきやすい。また番組に何か少しでもヒントがあれば、得した気になれるため、「お得感」を引き起こしやすいジャンルであるとも言える。

テレビの本質は現場と取材
本物志向こそが生き残る

 それでは、今後のバラエティ番組はどのような方向に進んでいくのだろうか。碓井氏は2つの方向性として「未開発・未開拓ジャンルへの進出」「既存ジャンルの再開発」を挙げる。ただし「未開発・未開拓ジャンル」に伴うのは、マニアックになる危険性。ゴールデンタイムは、幅広い層に受け入れられることを宿命づけられているため、手が着けられていないジャンルは、その加減の見極めが最重要課題となる。
「マニアックなジャンルは、CSやBSがライバルになるという問題もありますが、今後はその垣根を取り払っていく必要があると思います。特にマニアックなものはDVD化やネット連動などもしやすいので、テレビ局の新たなビジネスにつながっていく可能性も秘めていますから」。
「既存ジャンルの再開発」については、たとえばNHK「関口知宏の中国鉄道大紀行」のように、“新製品”が少ない旅番組を、「鉄道」という新たな切り口をもって活性化させた例を挙げる。「手あかの付いたようなジャンルでも、切り口次第、見せ方次第で再構築できる。テレビが得意とするのは、アレンジや変換作業です。他のメディアで話題になった題材でも、アレンジさえうまくいけば視聴者に新しいものと受け入れてもらえるのです」。
実際に碓井氏は7年前、当時番組ジャンルとして忘れられていた「マジック(手品)」に注目して番組を制作。現在に続くマジックブームに先鞭をつけた体験がある。「要するに、いま花が咲いているところを取り上げてもだめ。咲いていない場所に次の花が咲くんです」。
 今春の新しいバラエティ番組も、碓井氏が指摘した傾向は続いているが、「息の長い番組に育てよう」という気概が感じられないのが懸念材料とのこと。刹那的な番組作りは、せっかく視聴者に注目されているテーマを無駄に消費することになりかねない。
「テレビの強みは、現地現物主義。雑学や地域ネタでも、ちゃんと現場に赴いて、本当の事柄や人物を伝えることで番組の魅力や価値が生まれる。言葉だけでやりとりしていれば、視聴者にはすぐに飽きられます。例えば『世界ふしぎ発見!』は、テレビを通じて「歴史の現場に触れた」と視聴者に感じさせてくれる。本物感があるからこそ長く受け入れられているんです。同じ雑学バラエティでも、裏に本当の知識があるものが生き残っていくと思います」。

<人物キャプション>
碓井広義氏
Hiroyoshi Usui
1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。慶應義塾大学助教授、千歳科学技術大学教授を経て、今年4月より東京工科大学メディア学部教授。専門はメディア文化論、メディア・リテラシー、放送評論。著書に『テレビが夢を見る日』(集英社)、『テレビの教科書』(PHP研究所)など。