週刊誌に、オススメ本を紹介する文章を書かせていただくようになって7年目になる。基本的には、毎週5冊分を書くから、いつでもどこでも読んでいる。有難いのは、自分で選んで読んでみて、「これは!」という本について書かせてもらえることだ。だから、読んではみたけれど、残念ながらイマイチで、原稿にならない本も結構ある。
この緒川怜『霧のソレア』はそのパターンではない。原稿は書き上げて、編集部にも渡したのだが、すでの他の読み手(というか書き手)がこの本を取り上げていたため、雑誌には掲載はされなかったのだ。せっかくなので、ここで紹介しておこうっと。特に飛行機好きにはたまらない航空パニック物。小説や映画の「大空港」シリーズのファンなどにオススメだ。
緒川 怜
『霧のソレア』
光文社 1680円
第11回日本ミステリー文学新人賞を受けた本格航空サスペンスだ。著者の航空記者としての取材体験も存分に生かされ、緊迫感あふれるデビュー作となった。
ロサンゼルス発成田行き、日本国籍のジャンボジェットに太平洋上で異変が起きる。テロリストが仕掛けた時限爆弾が炸裂したのだ。機体は大破し、機長も命を落とす。かろうじて飛んでいるジャンボ機と約3百人の運命を預かったのは新米副操縦士の高城玲子だ。しかし、燃料不足や機能不全など危機的状況が続く中、地上との交信が途絶えてしまう。何とアメリカによる電波妨害だった。
事件の背後で蠢くのは米政府、CIA、テロ集団、北朝鮮、そして日本政府。いずれも自らの権力と利益を守ろうと必死だが、機上にいる人々の命を忖度する者などいない。ひたすら日本の土を目指して操縦桿を握る玲子。地上で彼女たちを支え、帰還を祈る人たち。だが、手負いの巨大旅客機にも限界が近づいていた。
ソレアとは、生きることの苦しさ、悲しさを表現する歌であり、スペインのフラメンコで使われる。人間ドラマとしても読ませる力を持つ本書にふさわしいタイトルだ。
そして、もう1冊は、「このひとの新刊は中身も見ずに必ず買ってしまう」パターンの著者の一人、嵐山光三郎さんの『妻との修復』だ。こういう理屈にもならないはずの”よしなしごと”に勝手な理屈をつけさせたら独壇場の嵐山さん。「不良中年」シリーズなど、繰り返し読んでしまう。今回も抜群に面白い。こちらの紹介文は、すでに雑誌に掲載されたものだ。
嵐山光三郎
『妻との修復』
講談社現代新書 756円
著者曰く「困ったことに、妻は人事異動できない」。至言である。ならば、どうする? 折り合うしかない。そんな「家庭という名の地雷原」を生き抜く夫たちのためにこそ本書は書かれた。
まず著者の友人の言葉を借りて、妻との関係を修復する50の技法が述べられる。だが、「妻と一緒にゴルフや音楽会に行く」など困難を伴うものが多い。すぐ挫けそうだ。そこで次に「反省するのが一番健康によくない」といった、勇気が湧く50の教訓が伝授される。太宰治、開高健など先人たちの修羅場も満載。決して妻に読ませてはならない。
え~い、おまけに、もう1冊。これは、毎年全国の自治体が参加して行われる「全国広報コンクール」の映像部門の審査でご一緒させていただいている、放送・演劇界の大先輩・嶋田親一先生が最近お出しになった本だ。先生が歩んできた道は、そのまま昭和のテレビの歴史で、綺羅星のような登場人物と先生だけが知る秘話ばかりというゼイタクな一冊である。
嶋田親一
『人と会うは幸せ!~わが「芸能秘録」五〇』
清流出版 1890円
美空ひばり、淡島千景、森繁久彌、島田正吾など日本芸能史を彩る名前が続々と登場する豪華な回想録だ。著者はニッポン放送、フジテレビの草創期から活躍し、その後は新国劇社長を務めた人物。77歳になる現在も日本演劇協会や放送批評懇談会などの理事として後進の指導にあたっている。
本書の白眉は、著者がディレクター、プロデューサーとして大車輪でドラマを作っていた60年代のエピソードだろう。映画スター・石原裕次郎にドラマ初出演を決意させた夜。東映の看板女優だった佐久間良子のテレビ初登場をめぐる水面下の綱引き。司葉子主演のドラマで共演者である浜木綿子が見せた女優魂など、著者だけが語れる“名場面”が目白押しだ。
いや、役者だけではない。74年、NHK大河ドラマの脚本を途中降板し、北海道へと避難した倉本聰氏に、新作の執筆を依頼し応援したのは著者なのだ。これが後の『北の国から』誕生へとつながっていく。
本書をまとめることで「私は青春を二度生きた」とあとがきにある。おかげで、読者もまた「テレビというメディア」の青春時代を追体験することが出来るのだ。
この緒川怜『霧のソレア』はそのパターンではない。原稿は書き上げて、編集部にも渡したのだが、すでの他の読み手(というか書き手)がこの本を取り上げていたため、雑誌には掲載はされなかったのだ。せっかくなので、ここで紹介しておこうっと。特に飛行機好きにはたまらない航空パニック物。小説や映画の「大空港」シリーズのファンなどにオススメだ。
緒川 怜
『霧のソレア』
光文社 1680円
第11回日本ミステリー文学新人賞を受けた本格航空サスペンスだ。著者の航空記者としての取材体験も存分に生かされ、緊迫感あふれるデビュー作となった。
ロサンゼルス発成田行き、日本国籍のジャンボジェットに太平洋上で異変が起きる。テロリストが仕掛けた時限爆弾が炸裂したのだ。機体は大破し、機長も命を落とす。かろうじて飛んでいるジャンボ機と約3百人の運命を預かったのは新米副操縦士の高城玲子だ。しかし、燃料不足や機能不全など危機的状況が続く中、地上との交信が途絶えてしまう。何とアメリカによる電波妨害だった。
事件の背後で蠢くのは米政府、CIA、テロ集団、北朝鮮、そして日本政府。いずれも自らの権力と利益を守ろうと必死だが、機上にいる人々の命を忖度する者などいない。ひたすら日本の土を目指して操縦桿を握る玲子。地上で彼女たちを支え、帰還を祈る人たち。だが、手負いの巨大旅客機にも限界が近づいていた。
ソレアとは、生きることの苦しさ、悲しさを表現する歌であり、スペインのフラメンコで使われる。人間ドラマとしても読ませる力を持つ本書にふさわしいタイトルだ。
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そして、もう1冊は、「このひとの新刊は中身も見ずに必ず買ってしまう」パターンの著者の一人、嵐山光三郎さんの『妻との修復』だ。こういう理屈にもならないはずの”よしなしごと”に勝手な理屈をつけさせたら独壇場の嵐山さん。「不良中年」シリーズなど、繰り返し読んでしまう。今回も抜群に面白い。こちらの紹介文は、すでに雑誌に掲載されたものだ。
嵐山光三郎
『妻との修復』
講談社現代新書 756円
著者曰く「困ったことに、妻は人事異動できない」。至言である。ならば、どうする? 折り合うしかない。そんな「家庭という名の地雷原」を生き抜く夫たちのためにこそ本書は書かれた。
まず著者の友人の言葉を借りて、妻との関係を修復する50の技法が述べられる。だが、「妻と一緒にゴルフや音楽会に行く」など困難を伴うものが多い。すぐ挫けそうだ。そこで次に「反省するのが一番健康によくない」といった、勇気が湧く50の教訓が伝授される。太宰治、開高健など先人たちの修羅場も満載。決して妻に読ませてはならない。
![]() | 妻との修復 (講談社現代新書 1934)嵐山 光三郎講談社このアイテムの詳細を見る |
え~い、おまけに、もう1冊。これは、毎年全国の自治体が参加して行われる「全国広報コンクール」の映像部門の審査でご一緒させていただいている、放送・演劇界の大先輩・嶋田親一先生が最近お出しになった本だ。先生が歩んできた道は、そのまま昭和のテレビの歴史で、綺羅星のような登場人物と先生だけが知る秘話ばかりというゼイタクな一冊である。
嶋田親一
『人と会うは幸せ!~わが「芸能秘録」五〇』
清流出版 1890円
美空ひばり、淡島千景、森繁久彌、島田正吾など日本芸能史を彩る名前が続々と登場する豪華な回想録だ。著者はニッポン放送、フジテレビの草創期から活躍し、その後は新国劇社長を務めた人物。77歳になる現在も日本演劇協会や放送批評懇談会などの理事として後進の指導にあたっている。
本書の白眉は、著者がディレクター、プロデューサーとして大車輪でドラマを作っていた60年代のエピソードだろう。映画スター・石原裕次郎にドラマ初出演を決意させた夜。東映の看板女優だった佐久間良子のテレビ初登場をめぐる水面下の綱引き。司葉子主演のドラマで共演者である浜木綿子が見せた女優魂など、著者だけが語れる“名場面”が目白押しだ。
いや、役者だけではない。74年、NHK大河ドラマの脚本を途中降板し、北海道へと避難した倉本聰氏に、新作の執筆を依頼し応援したのは著者なのだ。これが後の『北の国から』誕生へとつながっていく。
本書をまとめることで「私は青春を二度生きた」とあとがきにある。おかげで、読者もまた「テレビというメディア」の青春時代を追体験することが出来るのだ。
人と会うは幸せ!―わが「芸界秘録」五〇嶋田 親一清流出版このアイテムの詳細を見る |