手塚治虫さんの作品群の中から、「戦争」をテーマとした漫画を集めたのが『手塚治虫の描いた戦争』(朝日文庫)。
6年前に『ぼくの描いた戦争』としてKKベストセラーズから出たものが文庫になったのだ。
「ブラックジャック」シリーズの1篇などを含む12篇が並んでいる。
その中で、手塚さん自身といえる中学生が主人公の「紙の砦」が胸に迫る。
戦時中、勤労動員で送られた工場。漫画を描きたい一心の少年の居場所などない。どれほど虐められたことか。
空襲を受けて工場が炎上する。少年は運よく無事だったが、仲良くなった少女は重傷を負う。
やがて終戦、いや敗戦。
しかし、その後、少女の行方はわからなくなってしまう。どこかで生きていてくれたら、と祈りたくなる。
戦後、漫画家となった少年の描く女の子の顔には、あの時の少女の面影が宿っていた。
戦争が終わったら
自由にマンガ
かけるようになるだろうね
ぼくは
マンガ家に
なるよ!
――手塚治虫『紙の砦』