碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

言葉の備忘録27 手塚治虫『紙の砦』

2010年08月14日 | 言葉の備忘録

手塚治虫さんの作品群の中から、「戦争」をテーマとした漫画を集めたのが『手塚治虫の描いた戦争』(朝日文庫)。

6年前に『ぼくの描いた戦争』としてKKベストセラーズから出たものが文庫になったのだ。

「ブラックジャック」シリーズの1篇などを含む12篇が並んでいる。

その中で、手塚さん自身といえる中学生が主人公の「紙の砦」が胸に迫る。

戦時中、勤労動員で送られた工場。漫画を描きたい一心の少年の居場所などない。どれほど虐められたことか。

空襲を受けて工場が炎上する。少年は運よく無事だったが、仲良くなった少女は重傷を負う。

やがて終戦、いや敗戦。

しかし、その後、少女の行方はわからなくなってしまう。どこかで生きていてくれたら、と祈りたくなる。

戦後、漫画家となった少年の描く女の子の顔には、あの時の少女の面影が宿っていた。


戦争が終わったら 
自由にマンガ 
かけるようになるだろうね
ぼくは
マンガ家に
なるよ!
――手塚治虫『紙の砦』

NHK「ジブリ 創作のヒミツ 宮崎駿と新人監督 葛藤の400日」

2010年08月14日 | テレビ・ラジオ・メディア

帰国してから、録画しておいた番組を見続けている。


その中の1本が、10日にオンエアされたNHK「ジブリ 創作のヒミツ 宮崎駿と新人監督 葛藤の400日」。

公開中のジブリの新作「借りぐらしのアリエッティ」のメイキングであり、米林宏昌監督への密着ドキュメントだ。


アニメーターとして高い評価を得てきた米林さんが、宮崎駿さんから「監督」の指名を受ける。

それから完成まで、400日間の舞台裏が、73分の番組となっていた。

まず、米林監督の人柄が、何ともいいのだ(笑)。

大人しいというか、控え目というか、素直というか、純粋というか、とにかく応援したくなる。

ジブリの新人監督さんは、宮崎駿監督という強烈なカリスマを、いわば乗り越えていかなくてはならない。

また、自作が、巨大な興行収入を稼ぐ“ヒット作”となることを目指さなくてはならない。

そのプレッシャーたるや、すごいものだと思う。

米林監督は、悩みながらも、一歩ずつ、丁寧に作品と向き合っていく。その悩む姿がいじらしい(笑)。

同時に、それをじっと我慢しながら見守る宮崎監督の姿も印象的だった。まるで、崖から我が子を突き落とす獅子の如く、で。

番組では、アニメ作りの細かい部分も見せている。

基本は、紙に描いて、パラパラとめくって、動きを確認していく。描いて、パラパラ、消して、パラパラを繰り返す地道な作業。

それが、やがて、あのジブリアニメとなっていくのだ。

完成試写が終わり、宮崎監督が米林監督の手をとり、高く掲げるシーンは、ちょっと泣けてきた。


こりゃ、近々「借りぐらしのアリエッティ」を見にいかなきゃなりません(笑)。