日刊ゲンダイに連載している「TV見るべきものは!!」。
今回は、桂米朝師匠のドキュメンタリーを取り上げました。
ETV特集
「洒落(しゃれ)が生命(いのち)
~桂米朝 「上方落語」復活の軌跡~」
「落語は現世肯定の芸であります」
の言葉が印象に残った
「洒落(しゃれ)が生命(いのち)
~桂米朝 「上方落語」復活の軌跡~」
「落語は現世肯定の芸であります」
の言葉が印象に残った
今年3月、桂米朝が亡くなった。上方落語だけでなく、落語という文化そのものを支え、発展させてきた功労者だ。この番組は、師匠の歩みを辿る人物ドキュメントであると同時に、上方落語への案内状でもある。
神主の息子に生まれがら、子供の頃からの落語好き。昭和20年に19歳で召集されるが、病気で入院。傷病兵たちの前で語った一席で、「笑いだけでなく、生きる力を与える」落語の凄さを再認識する。戦後、桂米團治に弟子入りしてからの活躍は言うまでもない。
また、師匠が続けてきた地道な取り組みに驚く。先輩の落語家たちを訪ね、古い埋もれた噺を掘り起こしていったのだ。
たとえば「天狗さし」。天狗を捕まえ、すき焼きならぬ「天狗すき」を作ろうという話だ。その中に登場する、「念仏ざし」という言葉の意味を探し続けるエピソードに、その人柄がよく表れていた。
番組で師匠について語る人たちも、大西信行、矢野誠一、筒井康隆、山折哲雄など錚々たる顔ぶれだ。
中でも矢野の“東京進出”の回想は貴重。大ネタ「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」に度肝を抜かれた、41歳の立川談志の姿が浮かんでくる。
噺の発掘だけでなく、新しい話芸を作ること、後進を育てることにも努めた桂米朝。「落語は現世肯定の芸であります」の言葉が印象に残った。
(日刊ゲンダイ 2015.06.23)