碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

大和ハウスCM「ここで、一緒に」嘘編の魅力

2015年10月28日 | 「日経MJ」連載中のCMコラム



日経MJ(流通新聞)に連載しているコラム「CM裏表」。

今回は、大和ハウス工業「ここで、一緒に」嘘編について書きました。


大和ハウス工業「ここで、一緒に」嘘編
純情を察するオトナの女性

気がつけば、深津絵里さんとリリー・フランキーさんは、もう4年も“夫婦”をしている。もちろんCMの中での話だが、当初は、あんな素敵な家で深津さんと暮らすリリーさんへの悔しい気持ちがあった。

ようやく最近になって、良き隣人夫妻として眺められる平常心も生まれてきた。やはり、継続は力である。

リリーさんの仕事といえば、「週刊SPA!」の連載「グラビアン魂」にトドメをさす。みうらじゅんさんとグラビアアイドルについて語り合う、究極のエロチック対談だ。

外では男の本音と妄想を炸裂させているリリーさんが、家では、妻を元気づけようと子猫を飼い始める。しかも本当はお店で買ってきたのに、捨て猫を助けたと嘘までついて。

多分、深津さんは“夫”の「グラビアン魂」的猥雑性を知っている。同時に、 少年のごとき純情と自分への愛情も分かっている。そんなオトナの女性なのだ。うーん、またも悔しさが甦ってきた。

(日経MJ 2015.10.26)

『70年代と80年代 テレビが輝いていた時代』が面白い

2015年10月28日 | 本・新聞・雑誌・活字



北海道新聞の書評ページ「本の森」に、『70年代と80年代 テレビが輝いていた時代』の書評を寄稿しました。


『70年代と80年代 テレビが輝いていた時代』
市川哲夫 編
評 碓井広義 上智大教授


“野放しの自由”伝える

テレビを軸とする、マスメディア批評の専門誌「調査情報」。発行はTBSメディア総合研究所だ。本書はこの雑誌に掲載された、「70年代から見えてくるもの」「80年代から見えてくるもの」という2本の特集を再構成して編まれている。

敗戦から70年。編者は1970年代と80年代を、戦後史における青春期と呼ぶ。

現在と何が違い、何が変わっていないのか。当時を検証することで、テレビと社会と人間の移り変わりを確認しようという試みだ。その狙いは見事に達成されている。本書がテレビだけでなく、政治や文化や事件にも的確な目配りをしているからだ。

こうした企画の成否は、執筆者の人選とテーマで決まる。まずは“当事者”たちだ。70年代では、ドラマ「時間ですよ」の久世光彦。「機動戦士ガンダム」の富野由悠季。「田中角栄研究」の立花隆。ロッキード事件を担当した東京地検特捜部の堀田力。情報誌「ぴあ」を創刊した矢内廣もいる。

また80年代には、「花王名人劇場」で漫才ブームを生んだ澤田隆治。ドラマ「金曜日の妻たちへ」のプロデューサーだった飯島敏宏。「ニュースステーション」に立ち上げから携わった高村裕などが並ぶ。いずれも貴重な証言だ。

さらに、魅力的な批評や論考が多いことも特徴である。関川夏央のドラマ「岸辺のアルバム」。宮台真司のコンビニと郊外。中森明夫の80年代アイドル。市川真人の村上春樹。保阪正康の中曽根政治。桐山秀樹の東京ディズニーランドなどだ。これらによって本書は、立体感のある“同時代ドキュメント”となっている。

通読して驚くのは、いや、一種の羨望(せんぼう)を覚えるのは、テレビの現場が持っていた自由な空気だ。しかも“野放しの自由”という印象であり、そこから活気が生まれた。ネットもスマホもない時代。テレビが輝いていた時代。それは、多様な作り手とその才能を野放しにできた、幸福な時代でもあった。【毎日新聞出版 2700円】

(北海道新聞 2015.10.25)