碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
見たり、読んだり、書いたり、時々考えてみたり・・・

今期ドラマの真打ち「下町ロケット」

2015年10月29日 | 「日刊ゲンダイ」連載中の番組時評



日刊ゲンダイに連載しているコラム「TV見るべきものは!!」。

今回は、TBS日曜劇場「下町ロケット」について書きました。


TBS系日曜劇場「下町ロケット」
その時、歴史だけでなく下町も動く!

今期ドラマの真打ち登場である。TBS系日曜劇場で放送中の「下町ロケット」、原作は池井戸潤の直木賞受賞作。脚本・八津弘幸、プロデューサー・伊與田英徳、演出・福澤克雄の「チーム半沢」が、期待通りの仕事を披露している。

主人公はロケット開発の研究員だった佃(阿部寛、堂々の座長芝居)。打ち上げ失敗の責任をとって退職したのが7年前だ。今は父が残した町工場の社長を務めているが、突然の危機に襲われる。

大手取引先から取引中止を言い渡され、ライバルのナカシマ工業から特許侵害で訴訟を起こされ、さらに巨大企業である帝国重工が特許の売り渡しを迫ってきたのだ。その上、社内には夢を追い続ける社長への不満もくすぶっている。佃はこの内憂外患をどう乗り切るのか。

まず、この骨太な物語を、予算も手間もかけてきっちり映像化していることに拍手だ。種子島でのロケット打ち上げから、画面が社員で埋め尽くされた大企業のセレモニーまで、何の手抜きもない。

次にニヤリとさせられる絶妙なキャストだ。佃製作所の経理部長に立川談春。ナカシマ工業の顧問弁護士が池畑慎之介。そして佃側の弁護士は恵俊彰(好演)。しかも聞き覚えのある、朗々たるナレーションは元NHKの松平定知だ。

その時、歴史だけでなく下町も動く。ストーリー、役者、演出のゴールデントライアングルで、大人が見るべき一本になった。

(日刊ゲンダイ 2015.10.28)

書評した本:新津きよみ 『父娘の絆~三世代警察医物語』ほか

2015年10月29日 | 書評した本たち



「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。

新津きよみ 
『父娘(おやこ)の絆~三世代警察医物語』

光文社文庫 562円

『帰郷』に続く、文庫書き下ろしシリーズ第2弾。舞台は前作同様、著者の生まれ故郷である長野県大町市だ。

東京の大学病院に勤務していた美並は、この町にある祖父の医院へとり、警察医も担当している。

本書に収録されているのは2つの物語だ。事故か事件か、山で滑落死した男性医師。その葬儀に現れ、遺体を傷つけて逮捕された若い女性。両者の間に何があったのか。(『血脈』)

古い神社の境内で老人の遺体が発見される。やがてそれが3ヶ月前に行方不明となった東京の認知症女性と判明。空白の時間、彼女はどこで何をしていたのか。(『セカンドライフ』)

読後、信州安曇野の北にある町へ行ってみたくなる。


村山涼一 
『適社内定~「適性」から始めれば、就活はこんなに楽になる』
 
日本経済新聞出版社 1404円

就活に悩む大学生とその親たちにとって、逆転のヒントとなる一冊。自分の適性に合った会社を「適社」と名づけ、就活が能力を競う相対戦ではなく、適性による絶対戦だという指摘は目から鱗だ。企業は採用試験で何を見るのか。無知と誤解の就活から脱出を図る。


インフラ政策研究会:編著
『インフラ・ストック効果~新時代の社会資本整備の指針』 

中央公論新社 1998円

国土交通省有志による、公共事業検討の成果である。これまで経済対策としての即効性や、短期的なフロー効果が求められてきたが、今後はインフラが使われることで生じるストック効果を重視すべきとだという。景気・経済再生を目指すためのビジョンの一つだ。


中野恵利 
『ちいさな酒蔵33の物語~美しのしずくを醸す 時・人・地』

人文書院 1944円

大阪で「杜氏屋」という日本酒バーを営む著者が綴る酒蔵探訪記だ。宮城の「黄金澤」で一人娘の後継者と山廃仕込みを語り合い、輪島の「奥能登の白菊」では杜氏を務める九代目から酒米栽培の決意を聞く。日本酒は地域の文化であり、それを造っているのは人だ。

(週刊新潮 2015.10.22号)