「やすらぎの刻(とき)~道」
わたしたちの物語
倉本聰脚本「やすらぎの刻(とき)~道」(テレビ朝日系)は、一昨年に放送された「やすらぎの郷」(同)の続編だ。
ただし、高級老人ホームに暮らす人たちの“その後”を描くだけのドラマではない。筆を折っていた脚本家・菊村栄(石坂浩二)が発表のあてもないまま書き続ける“新作”も同時に映像化されていく。倉本はこれを「脳内ドラマ」と呼ぶ。
しかも、「道」と題された菊村作品は、戦前の昭和から現在までを描く超大作だ。物語は昭和11年から始まった。こちらの主人公は山梨の山村で生まれ育った少年、根来公平(風間俊介)だ。
貧しいながらも養蚕業で平穏に暮らしてきた村に、戦争の影が覆いかぶさってくる。公平も家族も、公平が思いを寄せる娘・しの(清野菜名)も逃れることはできない。
たとえば、小学校の先生が突然、特高(特別高等警察)に連行されてしまう。いわゆる思想犯の疑いだった。公平たちも動揺する。
ニキビ「アカって一体、何のことよ」
ハゲ「外国のスパイってことなンじゃねえか?」
青洟「スパイ!?」
ニキビ「先生が!?」
公平「何たらかんたら云う危険思想のことらしいぞ」
青洟「キケン思想って何だ!」
ハゲ「天皇陛下にサカラウことだろう」
三人とび上がって直立不動の姿勢をとる。 (第11話より)
こんな会話が登場するドラマは滅多にない。だが、確かにこういう時代があったのだ。元号が令和と変わり、昭和は霞んで見えづらくなっていく。しかし歴史は地続きだ。
このドラマを執筆中だった倉本が、こんなことを言っていた。「安保法制なんてのが通っちゃう国になった。つまりね、安倍さんなんかは戦争を知らないんですよ。戦争の怖さってものをね」(倉本聰・碓井広義著「ドラマへの遺言」)
脳内ドラマ「道」の時間は現在、昭和16年。公平の兄は徴兵され、村は満蒙開拓団への参加をめぐって殺気立っている。倉本が描こうとしてい るのは庶民の戦争だ。国家に翻弄(ほんろう)されながらも必死に生きる市井の人々の姿だ。つまり「わたしたちの物語」なのである。
(しんぶん赤旗「波動」 2019.05.20)