碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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『海に眠るダイヤモンド』で光る 「池田エライザ」を開花させたもの

2024年12月17日 | 「ヤフー!ニュース」連載中のコラム

 

 

『海に眠るダイヤモンド』で光る

「池田エライザ」を開花させたもの

 

終盤へと向かっている、日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)。

主要キャストの一人として、見る側に強い印象を与えているのが、リナ役の池田エライザさんです。

背負ってきた重い過去。鉄平(神木隆之介)の兄・進平(斎藤工)との出会い。新たな暮らしと出産。そして、進平が巻き込まれた炭鉱事故……。

諦めていた人生を、愛する人と共に再生していこうとする女性を、池田さんは懸命に演じています。

そんな池田さんには、この役柄に結びついた重要な作品があります。

それが、今年2月から4月にかけて放送された連続ドラマ『舟を編む~私、辞書つくります~』(NHK・BS)です。

ドラマ『舟を編む』

2017年、ファッション雑誌の編集者だった岸辺みどり(池田)は、突然、辞書編集部への異動を命じられます。

そこでは作業開始から13年、刊行は3年後という中型辞書『大渡海』の編集が行われていました。

当初は戸惑ったみどりですが、変わり者の主任・馬締(まじめ/野田洋次郎)、日本語学者の松本(柴田恭兵)など言葉を愛する者たちに刺激され、いつの間にか「辞書作り」にハマっていきます。

原作は、12年に本屋大賞を受賞した、三浦しをんさんの『舟を編む』です。この小説では、営業部から引き抜かれてきた馬締の歩みが本線となっていました。

また、13年に松田龍平さん主演で映画化された際も、ほぼ原作通りでした。

一方、このドラマの主人公は、原作の後半から登場する、みどりです。

ヒロインを通じて・・・

しかし、彼女は馬締のような言葉の天才ではありません。ごく普通の女性です。

見る側は、みどりを通じて言葉の面白さや奥深さを知り、辞書を編むことの意味を身近に感じることができました。

例えば、「恋愛」の「語釈」(語句の意味の説明)を任されたみどりは、既存の辞書が恋愛を「男女」や「異性」に限定していることに気づきます。

実際に『広辞苑』で「恋愛」を引いてみると、「男女が互いに相手をこいしたうこと」とあります。

みどりは、時代感覚を反映し、異性を外しても成立する恋愛の説明を探っていきます。

彼女の提案を元に、「恋愛」について次のような秀逸な語釈が仕上がりました。

「特定の二人が互いに引かれ合い、恋や愛という心情の間で揺れ動き、時に不安に陥ったり、時に喜びに満ちあふれたりすること」

3年に及ぶ編集作業の中で、みどりはいくつものハードルを越えていきます。

すべての言葉には、生まれてきた理由があること。人が何かを伝えたい時、誰かとつながろうとする時、「言葉の持つ力」が助けとなること。さらに、「紙の本」ならではの価値や魅力も描かれてきました。

女優「池田エライザ」の深化

辞書とそれを編む人たちへの敬意にあふれる、静かな秀作だったこのドラマ。その軸となったのが、池田さんの好演です。

当初、部署異動への不満を抱えて頑(かたく)なだった、みどり。その内面が、少しずつ変化していく様子を、池田さんは繊細な演技で表現していったのです。

それは、現在の『海に・・・』でより深化したものとなっています。ある時代を体現する女性として、物語の中で存在感を示す、リナ。そんな池田さんの演技を、最後まで見届けたいと思います。