碓井広義ブログ

<メディア文化評論家の時評的日録> 
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【新刊書評2024】 岡村靖幸『幸福への道』ほか

2024年12月29日 | 書評した本たち

 

 

「週刊新潮」に寄稿した書評です。

 

四元康祐『詩探しの旅』

日本経済新聞出版 2420円

詩人である著者は長年アメリカやドイツに住んできたが、4年ほど前に帰国した。本書は海外生活の頃からの体験を元にした、詩をめぐる旅の記録である。軸となるのは、詩の朗読会やシンポジウムが行われる「国際詩祭」というイベントへの参加。オランダ、ポーランド、ボスニア、イスラエル、アイルランドなどで出会う、海外の詩人たちとその作品が刺激的だ。詩で繋がった、一種の共同体を思わせる。

 

佐々木 中『万人のための哲学入門~この死を謳歌する』

草思社 1430円

本書はコンパクトな哲学史でも、哲学的問題への回答集でもない。「あなたのために書かれた本」であり、出発点は「あなたが死ぬ」ということだと著者。人は何かのために生まれるわけではなく、人生には目的もない。しかし、ないからこそ目的を設定する余地があるという。著者は「すべてのものに根拠がある」とする「根拠律」をも疑いながら、既知と思われてきた生と死の課題を検討していく。

 

岡村靖幸『幸福への道』

文藝春秋 2475円

音楽家である著者が、「会いたい」「話を聞きたい」と思う22人と向き合った対談集だ。テーマは「幸せとは何か」だが、仕事から私生活まで自然な形で会話がはずむ。幸福は「風のように一瞬感じるもの」だと伊藤蘭。幸せを「ゴールにしてしまってはだめ」と語るのはショーン・レノンだ。また作家の高村薫は、身近につらいことがない「普通の日を過ごすこと」が幸せだと言う。これも奥深い。

 

山本英史『中国の歴史 増補版』

河出書房新社 3190円

国交正常化から半世紀以上が過ぎた中国。特に近年の覇権主義的な動きから目が離せない。本書は、どこか不可解なこの国を読み解く「補助線」となる通史である。政権の批判を許さない思想や言論の統制は、秦の始皇帝時代からのものだ。また中華帝国を形成した明の洪武帝は、敵対する恐れのある勢力を一掃した。現代の「中国」が、過去の「中国」から生まれたものであることがよくわかる。

(週刊新潮 2024.12.26号)

 


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