碓井広義ブログ

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日曜劇場「アトムの童」 同時代性と巧みな人物造形

2022年10月24日 | 「毎日新聞」連載中のテレビ評

 

 

日曜劇場「アトムの童」 

同時代性と巧みな人物造形

 

日曜劇場「アトムの童(こ)」(TBS系)がスタートした。天才ゲーム開発者の安積那由他(あづみなゆた)(山崎賢人)が、興津晃彦(オダギリジョー)の率いる巨大IT企業に挑む物語だ。

6年前、那由他が「ジョン・ドゥ(名無しの権兵衛)」の名で発表したゲームは大人気となったが、その一作だけでゲームの世界から姿を消し現在は自動車整備工場で働いている。

一方、銀行員・富永海(岸井ゆきの)の実家である老舗メーカー「アトム玩具」は、時代に取り残され経営危機に陥っていた。

海の父・繁雄(風間杜夫)が病に倒れたため、海は継承を決意、ゲーム制作に乗り出そうとする。第1話では那由他と海の出会いと、ゲーム開発が始まるまでが描かれた。

まず注目したいのはゲーム業界を舞台にしたことだ。「半沢直樹」の金融界や「ドラゴン桜」の教育界も興味深かったが、ひと味違う“同時代性”を感じさせると言っていい。不況下でも活気がある業界なので、「創造」と「ビジネス」を織り込めそうだ。

日曜劇場の主人公として20代の人物が設定されるのは、2020年の竹内涼真主演「テセウスの船」から10作ぶりとなる。長年の日曜劇場ファンだけでなく、より幅広い層を取り込もうという狙いだろう。

山崎が連ドラの主演を務めるのは18年の「グッド・ドクター」(フジテレビ系)以来だが、那由他の自制心によるクールさと内面のナイーブさの表現など、俳優として各段に進化している。演技力に定評のある岸井との相乗効果も期待が大きい。

また、オダギリジョーの起用が成功している。興津役の予定だった香川照之からのスライドらしいが、元々オダギリだったのではないかと思わせるほどだ。インターネットビジネスの覇者という「役柄」と、次世代のヒール(悪役)という「役割」の両方が見事にハマっているからだ。

脚本は「この恋あたためますか」(TBS系)などを手掛けた神森万里江のオリジナル。それぞれの経歴を感じさせる人物造形とセリフが光る。たとえば火事でアトム玩具の社屋を失った繁雄が言う。

「おもちゃなんかなくたって、世の中は困らねえ。でも、あればわくわくするし、笑顔になる。俺たちはそういうものに人生を懸けてきたんだからよ。下向いて立ち止まっちゃダメだろう」

繁雄だけでなく、那由他にも通じる「ものづくり」のプライド。ドラマの制作陣にとっては、このセリフの中の「おもちゃ」が、「テレビ」や「ドラマ」に置き換えられていてもおかしくない。

(毎日新聞「週刊テレビ評」2022.10.22)

 


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