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野木亜紀子脚本「海に眠るダイヤモンド」
この国の70年総括する試みか
脚本家・野木亜紀子の快進撃が続いている。昨年の「フェンス」(WOWOW)の舞台は沖縄。米兵による性的暴行事件を取材する雑誌ライター(松岡茉優)を軸に、沖縄と本土、日本とアメリカ、ジェンダーや人種の相違など、さまざまな<フェンス>を乗り越えようとする人間の姿が生々しく描かれていた。第74回芸術選奨・放送部門の文部科学大臣賞受賞作だ。
今年は、綾野剛主演の映画「カラオケ行こ!」で始まった。綾野演じるヤクザが合唱部部長の中学生から歌のレッスンを受ける話だ。訳ありのヤクザとちょっと気難しい中学生の掛け合いが絶妙だったが、漫画が原作だ。野木脚本のオリジナル作品が見たくなった。
公開中の映画「ラストマイル」はそんな期待に応えている。舞台は巨大ショッピングサイトの物流センター。そこから配送された段ボール箱が連続して爆発する。誰が何のために仕掛けたのか。センター長(満島ひかり)はどう対処するのか。見えてくるのは日本人の消費生活を支える物流の現場に潜む深い闇だ。監督は塚原あゆ子、プロデュースが新井順子。野木脚本のドラマ「アンナチュラル」(TBS系)などの面々だ。
そして今月20日、この3人が参加する日曜劇場「海に眠るダイヤモンド」(同)がスタートした。主な舞台は長崎県の端島(通称・軍艦島)と東京である。
1955年、大学を卒業した鉄平(神木隆之介)は故郷の端島に戻ってきた。父(国村隼)や兄(斎藤工)が炭鉱作業員として働く鉱業会社に事務職員として就職したのだ。そんな端島に、歌手だというリナ(池田エライザ)が現れる。
一方、2018年の東京では、売れないホストの玲央(神木の二役)が謎の婦人いづみ(宮本信子)と知り合い、彼女に誘われて一緒に長崎へと飛ぶ。港からフェリーで向かったのは、長く廃虚となっている端島だった。
まず、70年前の端島の風景に驚いた。多くの人が働き暮らす、活気に満ちた炭鉱の島が再現されている。最新の視覚効果技術の成果だ。しかし、見る側には複雑な思いもある。現在の私たちは石炭産業が急速に斜陽化していくことを知っているからだ。いや、斜陽化というより切り捨てられたのだ。
野木は、このドラマで昭和の経済成長が私たちにもたらした光と影の両方を描こうとしているのではないか。「愛と青春と友情、そして家族の壮大な物語」を通して、この国の70年間を総括する試みかもしれない。そんな妄想さえ抱かせる野心作であることは確かだ。
(毎日新聞夕刊 2024.10.26)