『不適切』『虎』『ダイヤモンド』は、
なぜ「今年を代表する」ドラマになったのか?
今年も、あと10日となりました。この1年のドラマを振り返ってみたいと思います。
笑いのある批評『不適切にもほどがある!』
能登半島の地震で始まった2024年。その1月期で光っていたのが『不適切にもほどがある!』(TBS系)でした。
脚本は、クドカンこと宮藤官九郎さん。主人公は1986(昭和61)年から現在へとタイムスリップしてきた、体育教師の小川市郎(阿部サダヲ)です。
市郎は、いわば生粋の「昭和のおじさん」であり、当初、彼にとって「未来の日本」である令和の世界では浮いた存在でした。
しかし市郎は、拭(ぬぐ)えない違和感に遭遇するたび、「なんで?」と問いかけていきます。
何となく「当たり前」のことだと思っていた令和の人々も、本質的な疑問を共有することになりました。
この辺りが、クドカンの見事な手際だったりするのですが、このドラマは、時代や社会をストレートに「批判」するのではなく、笑いながら「批評」していったのです。
しかも、その批評の対象が「令和」と「昭和」の双方になっていたことに注目です。
時代や世代や個人間に「ギャップ」があるのは当たり前。
「差異」を否定し合うのではなく、違いを前提に話し合いを重ねて、徐々に「共通解」を探り、「共存」していこうとする市郎が新鮮でした。
画期的な社会派の朝ドラ『虎に翼』
4月から9月まで放送された、NHKの連続テレビ小説は『虎に翼』。
ヒロイン・寅子(ともこ/伊藤沙莉)のモデルは、実在の三淵嘉子(みぶち よしこ)です。戦前に初の女性弁護士の一人となり、戦後は初の女性判事となりました。
司法界の「ガラスの天井」を打ち破っていった嘉子の軌跡は、戦前・戦後の昭和における「試練の女性史」です。
それはドラマにも十分反映されており、画期的な社会派の朝ドラとなりました。
一見、堅苦しくなってもおかしくない物語でしたが、吉田恵里香さんの精緻な脚本と伊藤さんの硬軟自在な演技に救われました。
寅子が納得のいかない事態に遭遇した時に発する「はて?」は、見る側の心の声も代弁する名セリフとなっていきます。
とはいえ、さすがに後半は少し詰め込みすぎだったかもしれませんね。
「戦争責任」「原爆裁判」「尊属殺(そんぞくさつ)の重罰」「少年法改正」などが並び、さらに「同性婚」「夫婦別姓問題」といった現在につながる課題も取り込んでいったからです。
しかし、それも制作陣の確信犯的仕掛けだったはずです。
憲法第14条が明記する「法の下の平等」や「差別禁止」は、どのような経緯をたどってきたのか。
そして、今の社会においてさえ、本当に実現されているのか。この問いかけこそ、本作を貫く大きなテーマでした。
際立つ『海に眠るダイヤモンド』
今期放送のドラマでは、22日(日)に最終回を迎える日曜劇場『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)が、やはり際立っています。
1950~60年代の炭鉱の島と2010年代の東京を舞台に、異なる時間と場所に生きる人々の人間ドラマが展開されていく。
描かれるのは、主人公の鉄平(神木隆之介)をはじめとする若者たちの恋愛模様だけではありません。
脚本の野木亜紀子さんは、風化させてはいけない出来事としての「戦争」、「原爆被爆」、「産業問題」などを、物語の中に丁寧に織り込んできました。
地続きとしての「昭和」
これら3本のドラマに共通するのは、令和という現在の社会や人間を、昭和という過去との「地続き」という視点で、相対的に捉(とら)えていることではないでしょうか。
過去は単なる「過ぎ去った時間」ではない。過去は、現在に繋がる重要な「足場」であること。
何が変わり、何が変わっていないのか。何を変えるべきで、何を変えるべきではないのか。検証すべきことが多々あることを示しています。
来年は「昭和100年」に当たります。その意味で、3本とも「昭和99年」である2024年にふさわしいドラマだったのではないでしょうか。
さらに共通するのは、終わってしまうと寂しくなる、もっと見続けたいと思えるような作品だったこと。来年もまた、1本でも多く、そういうドラマに出会えることを祈っています。